プロローグ
初投稿&初連載のファンタジーものです。どうぞ最後までお付き合いください。
「イエーイ!」
広くどこまでも続く青い空。先の見えない地平線。海のように静かで真っ白な雲。下に広がる大地の緑や川の水は太陽の日を浴び輝いている。
この世界全てを見渡せると思えるほどの高い空の中、ヴァン・フライハイトは上機嫌で鋼鉄の空飛ぶ機械を操り、今のラッキーな気分を表現するかのようにこの広い空をアクロバット飛行をしていた。
依頼を無事に終えたことで依頼主から報奨金が上乗せされたのだ。迅速な対応への感謝らしい。これを喜ばずにいられるだろうか。
「これでこのドラグノイドをさらに改造するんだ! さあて、どこを弄ろうか?」
今自分が乗っている機械、ドラグノイド(竜もどき)とは鋼で覆われた機械のドラゴンだ。この世界に数える程しかない、人が造りし最強の戦闘機。
そのドラグノイドに接続されている鉄のケースに向けて、俺は声をかけた。
「良かったなハル! これでもっといいボディにしてやれるぜ」
『その提案はありがたいですが、その前に消耗部品の交換をお願いしたいですね。いつもいつも無茶するからあちこち部品が痛んできています』
機体に接続されているケースから音声が流れる。このドラグノイドの機体情報管理、操縦者の補助などをしてくれるサポートAIだ。俺はハルと呼んでいる。
ハルは俺の前面にディスプレイをおこし、機体の消耗部品リストを表示した。そのリストのいくつかには「もう交換時期ですよ」と言わんばかりに赤で囲われている。
「こ、こんなにあんの!?」
二個や三個じゃない。数十ある部品の中で、赤で囲われているのが半数を占めていた。そんなリストを見せられてしまい、さっきまでの上機嫌さが一気に落ちてしまう。
「……なあハル。これじゃあ儲けが全て消えちまうって。というか確実にマイナスだ。ってかこの部品。こないだ変えたばっかじゃん! 消耗早くないか?」
『そういうなら、これからはもう少しいたわってほしいですね。でないと機体制御が出来なくなりますよ? こんなふうに――』
ハルはそう言うと、いきなりボディを揺らし始めた。そのせいで体勢が崩れてしまう。
「ちょっ! いきなり外部操作を奪うなって! 危ないなぁまったく……足場が外れたら洒落にならないっての」
そう、今俺は機械の背中に立っている。つまりこの大空で外にいるのだ。
機体がひっくり返れば当然、俺自身も落ちてしまう。地に激突すれば万一にも助からない。いや、その前に飛行モンスターに食べられてしまうだろう。
「まあ、今日はモンスターとも遭わなかったし、順調だったな」
『そうですね。私の監視能力の賜物です』
「いいや、俺の勘がイイのさ。なんせ俺は、世界一運の強い男だからな!」
『そう言う割には自分から厄介事に首を突っ込んでいく傾向が強いようですが……まぁ、そういう事にしておきましょう。何事もなく無事に帰れるに越したことはありません』
「そうそう、それじゃあさっさと帰ろうか! ん?」
『どうしました?』
「ああ……なんだかさっき、あの山のふもとのあたりで何か光ったような……」
『レーダー網の範囲外のようです。雪の反射ではないのですか?』
「いいや、そんな光り方じゃなかったんだ」
なんだろう……とても嫌な感じがする。
「ハル。あの山脈に向かって飛ぶ。中に入るぞ」
そう言うと、ドラグノイドの背中の装甲が開いていく。そこには人が前かがみで入れるほどのスペースが空いており、その中に滑り込んだ。
ハッチが閉じられたのを確認した後、スロットルを握り操作する。と、その瞬間ドラグノイドの翼から青い粒子が爆発的に放出されて一気に加速。遠くにあった山がどんどん近くなっていく。
『レーダーに反応。これは……ガンシップがモンスターに襲われています!』
「嫌な予感的中ってわけか」
コクピット画面に映像が映し出される。モンスターがガンシップを中心に飛行モンスターが取り囲んでいた。
ある程度まで近づくと粒子の放出を停止。ドラグノイドの翼を一杯に広げて空気の抵抗を一身に受けて減速をかけ、目標を中心に旋回しながら状況を把握する。
ガンシップは翼から黒煙をあげながら、なおも懸命に逃げようとしていた。ガンシップの機銃が唸りをあげて群がる敵に攻撃しているが、モンスターの数はあまりにも多い。更に、四方八方からの攻撃で満身創痍になっていた。
「今にも撃墜されそうじゃないか! 一刻も早く助けないと……このまま勢いを付けて横っ腹から一気にさらう! 行くぞ!」
『了解』
減速体勢から再び加速、群がるモンスターめがけて突っ込んでいく。
こちらに気付いたモンスターが十体ほど迎撃のためこちらに向かってきていた。
「邪魔をするな!」
エネルギー砲のセイフティーを解除する。
機体の頭部、ドラゴンで言う口にあたる部分のカバーが開き、その中の銃口が前にせり出した。
標的をロックオン。そしてトリガーを引く。
銃口に眩い光が発生、膨大なエネルギーが集束され、弾となってモンスターに向かって発射された。
放たれたエネルギー弾はモンスターをいとも簡単に貫通。後続のモンスターを含め一気に3体を落とした。
こちらの強力な攻撃にモンスターたちは怯み、その隙に横をすり抜けて進む。しかし、目の前に一際大きなモンスターが覆いかぶさるように飛来してきた。
「おまえが親玉か? 悪いが通らせてもらう!」
トリガ―を引き、再びエネルギー弾が発射される。しかしモンスターは4枚の羽を駆使し、巨体に似合わぬ俊敏な動きでこちらの攻撃を回避した。
「なに!?」
迫りくるモンスターに向け続け様に発射するも、全て回避されてしまう。
モンスターは目前まで接近すると、その巨体を支える4枚の羽を高速振動させはじめた。その威力はドラグノイドなどいとも簡単に切断する程の切れ味を誇っており、広げれば片側5メートルを優に超える羽のリーチを活かした攻撃は驚異だった。
『このままでは危険です。すぐに回避運動を!』
ハルが促がす。だがしかし、俺はさらに機体を加速させた。
『ヴァン!?』
「回避している時間は無い! このまま掻い潜る!」
ガンシップの高度がどんどん下がっていた。早くしないと山の壁に激突してしまう!
「ガアアアアアアアアア!!」
モンスターは咆哮をあげ、その凶器と化した4枚の羽を最大限に広げ迎撃体勢を取る。
「抜けろおおお!」
機体の翼を左右で別々に動かす。空気の流れが変わり、機体は螺旋を描くように回転。高速カッタ―と化したモンスターの羽の間をギリギリですり抜ける!
「よっしゃ抜けた! このまま一気に行くぞ!」
そのまま速度に乗り、モンスター群の中に入る。機体の四肢を広げ、もう少しで山の壁に激突しそうな満身創痍のガンシップを掴むと一気に上昇、加速してその空域から飛び去った。