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朔望の月  作者: お春
6/13

紫の森

アクセスありがとうございます(^-^)



アリス、という設定はどこへ行ったのやら…。


すみません(´Д`)

深く蒼い森は、昨日見た時よりもかなり暗く見えた。

その森を、月が淡い紫色で染めている。

光の屈折が関係しているのか、ただ単にこの世界だけにおきる事なのか、一介の高校生である朔にはさっぱりわからなかった。

…とりあえず、ピンクの月は紫の光。

朔は自分で勝手に納得し、もう一度森を見た。

「真っ暗…」

結衣子がそう呟く。

確かに、森には光源となるものが何もないし、それを見て彼女が怯えるのはなんの疑問も持たない。

たとえそれが、朔の服を伸ばす勢いで強く引っ張っていたとしても。

「ここからは危ないので、私の後ろについてきて下さいね」

麻之助が、3人を後ろに並ばせて前に立つ。

そして、懐から何かを取り出した。

「それは…?」

「これは、月光草といいます。月の光を吸って輝くんです」

結衣子に月光草が向けられる。

スズランに似た花の付き方をしていて、小さな花たちはまだ全てが蕾だった。

結衣子はそれに愛でるような視線を向ける。

かわいい、と彼女の声が聞こえてきそうなくらいの微笑みで。

すると、まだ蕾だった花が彼女の鼻先でゆっくりと開きだした。

「咲いた…」

「月の光がたまったのでしょう。さ、道はかなり長いので覚悟して下さいね」

ぼんやりとした光を放つ月光草を持ち直し、麻之助が仕切る。

「行きましょう。朔さん、結衣子さん」

そのまま先に行ってしまった麻之助の代わりに、りつが2人をうまく森に誘導する。

朔はそれに応えるべく服を引っ張る手を振り払うと、逆に結衣子の手を掴んだ。

「結衣子、行くよ」

朔はほとんど彼女を引きずるようにして、森へと足を進めた。

森は暗いけど、怯える程じゃない。

確かに、鳥や動物の木々を揺らす音を聞けば若干ドキリとはするけど。

「朔…。今だから言えるけど、私お化け屋敷とか駄目な方なんだよね」

「入ったことない」

「…あと、ホラーの映画とか」

「…見に行ったことないし」

友達のいない自分が、お化け屋敷や映画に行ったことがあると思ってるのか。

自慢じゃないけど、産まれてこのかたそういう所には行ったことないから。

「…本気で言ってる?」

「まぁね」

結衣子は怯えを忘れ、唖然とした表情をさらした後、1つ大きくため息をついた。

いや、つかれる意味がわからないんだけど…。

「朔…。今度、絶対一緒に行こ」

…は?

目の前で笑う結衣子。

…今、なんて?

「聞いてる?」

「う、うん」

朔は結衣子の言葉が信じられなかった。

それは、帰っても友達続行って事…ですか?

心の中に生まれた疑問を上手く口に出せなくて、朔は必死の思いで飲み込む。

「じゃあ、決まりね」

結衣子のその言葉に、朔は何だか顔が熱くなっていく感じがした。

「朔さん、良かったですね」

朔の気持ちを察したのか、りつが声をかけてくる。

「あ、うん、ほんと…」

あれ?

彼女の瞳を見た朔は、ある違和感を感じた。

潤みを含んだりつの瞳が、深い青色をしている。

一瞬見ただけじゃわからないくらい、黒に近い青色。

「…朔さん?」

じっと見つめられるのが気持ち悪く感じたのか、りつが遠慮がちに見つめ返してくる。

「朔、あんた何してんの」

「え、いや、りつちゃんの目が青いなって思って」

結衣子に尋ねられ、思った事を口に出した。

その時だった。

明らかに、空気が変わる。

それは、りつ本人だけでなく、麻之助も。

ほんわかとしていた雰囲気が、一気に崩れてなくなった。

「あ…」

りつが朔と結衣子から逃げるように背を向ける。

…言わなきゃよかった。

めんどくさいなぁ。

例えば、クラスメイトが自分の悪口を言ってる所に出くわした、みたいな。

そんなどちらも負い目を感じてしまうような空気を破ったのは、意外にも麻之助だった。

「あぁ、その、りつの目はこの月の下では青がかって見えるんです」

「…そうなんですか」

何かを隠しているような、そんな喋り方。

それでも、朔は詮索しなかった。

もちろん、面倒だから。

「青い目って、フランス人形みたいだよね」

結衣子がフォローをかける。

「…フランス?」

耳慣れない言葉に、りつが興味を持ったのかこっちを向いた。

…やっぱり青いよなぁ。



しばらく歩いた後、4人は休憩することにした。

かなり早歩きだったらしく、すでに残すは3分の1ほどになっている。

「ねぇ朔」

「なに」

大きな石の上で座って休んでいた朔に、結衣子が話しかけた。

何やら、森の奥を気にしている。

「あれ…なんだろ」

「?」

結衣子が指差す先を見てみれば、周りにある木々の中でもひときわ大きい木の向こう側から、何か茶色いものがのぞいている。

「ね、行ってみない?」

「…やだ。危ない」

目をきらきらさせる結衣子に、朔は冷たい目を向ける。

疲れたから、動きたくないのもあるけど。

「…」

にらめっこ状態で固まる2人は、どちらからともなく顔を背け出す。

「…行かない?」

「うん」

「…」

その場に無言の圧力がかかりだす。

外なんて全然出ないツケが回ってきたのか、足が痛い。

これに負けたら、行かざるを得なくなるから負けないように結衣子をにらみつける。

…が。

「わかった」

こうやって、意地を張り合うのもバカらしくなった。

パッと見て、パッと帰ってこよ。

麻之助とりつは何やら話し合ってるし、いまがチャンス。

「じゃ、いこ」

結衣子が、渋々と立つ朔を後ろから押す。

…私先頭なんだね。

別にいいけどさ。

ぶつぶつ文句を言いながら、朔は大木に近づく。

さすがに何がいるのかわからないから、慎重に、慎重に。

「朔、早く行ってよ」

「待って…うわっ!」

慎重になっていた朔の身体が、思いっきり前に投げ出される。

足元を気にしなさすぎて、転んだ。

なんつーベタな。

…いや、やばいよ。

危険な動物とかだったら、瞬殺だよ。

どうすれば…。

そう考えているうちにも、朔はしっかりとそこに飛び込んだ。

「朔!」

「っつう…」

顎打った…。

考えるばっかりで受け身もとれなかった朔は、ひりひり痛む顎をさすりながら、上を見上げる。

逃げなきゃ。

とりあえず、逃げ…ん?

「…人?」

色素の薄い茶色い髪と目。

自分よりもかなり白い肌。

薄い唇は驚きで開かれている。

どっからどう見ても、人…だよね。

「朔、大丈夫!?」

「うん、まぁ」

結衣子がせかしたんでしょ、と朔は呟き、そのまま座り込む。

「…顎、平気?」

隣で座っていたその人が、心配するそぶりで顔をのぞき込んでくる。

ほんとに人だ。

朔は今更ながらその事に驚いた。

見間違いじゃなかった。

「…あ、はい」

「さ、朔。その人だれ?」

今まで気づかなかったのか、結衣子が驚きと警戒心を露骨に見せる。

…知らない人に見つめられれば、ちょっと気が引けるけどさぁ。

結衣子は、それはやりすぎじゃないかってくらい気を引いている。

ついでに身体も。

「僕は、まひろ。…君たちも迷い込んだんだね」

まひろ、はゆっくりと立ち上がる。

同い年ぐらいだけど、背は高い。

「…え」

思わせぶりな彼は、もしかしてあの穴のことを何か知っているのか。

朔は尋ねようと口を開く。

「何があったんですかっ?」

そこへ、慌てた様子で麻之助とりつが駆け寄ってきた。

「あ、えっと…」

結衣子が言葉を濁す。

そりゃあ、無断だから言いにくいよね。

謝っておけば大丈夫だと思うけど。

朔は、後で謝ろう、と心の中で留めておく。

「結衣子さんの声が聞こえたので来てみたんです。…その方は?」

着物はかなり走りにくそうなのに、りつは少しも息を荒らげていない。

「この人は…」

朔は説明しようと立ち上がる。

が、彼は朔の言葉を遮った。

「…僕は、まひろと言います」

そう言ったまひろは、その顔つきによく似合う優しい微笑みを見せた。

「まひろ…」

りつが確認するように、名前を反復する。



それが、彼との出会いだった。






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