お月様のでる頃に
遅くなりましたが
あけましておめでとうございます。
駄文晒してすみません(゜Д゜)
夜も深まって来た頃、3人の少女はひそひそ話に盛り上がっていた。
いや、正確に言えば、2人。
「りつちゃんのお兄さん、かっこいいよね」
と結衣子。
「いえ、兄は顔だけですよ。商売も喧嘩も下手で、困る位なんです…」
それに、りつが答える。
朔は全く発言しない。
なぜなら興味がないから。
それだけ。
朔と結衣子の布団が並び、その前にりつの布団。
枕同士が向かい合うそれは、朔にとって苦痛でしかなかった。
…眠い。
が、それなら寝てしまえ、というのも朔にはできなかった。
「あははっ。…ねぇ、朔起きてる?」
「…うん」
…このように、知ってか知らずか、結衣子が本当にちょうどいいタイミングで朔の眠気を飛ばす。
それをだめ押しするかのように、2人の少女の甲高い声がひっそりとした室内に響き渡る。
…もうちょっと、静かにできない?
朔はこの状況にざっくりとした既視感を覚えていた。
修学旅行。
朔にとって、あるたびに苦汁を舐める行事。
同じ部屋になった子たちが、夜通し吉沢君がかっこいいだの、中森さんがうざいだの言い合ってたなぁ…。
と朔はそんな会話を頭の片隅から引っ張り上げる。
あの時も、やけにテンションの高いひそひそ話のせいで眠れなかったのだ。
まさかここで再び巡り会うとは。
お願いだから、部屋変えてくれないかなぁ…。
小学校からずっと体験してきた苦しみに、朔は重いため息をつく。
盛り上がる2人をおいて、朔は睡魔を快く迎える事にした。
布団にもぐり込むと、耳をふさいで目を強く閉じる。
もう絶対寝る。絶対、絶対…。
低迷する意識もそのままに、朔はゆっくりと眠りに落ちて。
「朔?」
…起こされた。
「朔、顔色悪いよ?大丈夫?」
「…うん、気にしないで」
多分寝不足が原因だから。
次の日の朝、朔は最高に機嫌が悪かった。
眠いという生理的欲求を満たす事ができず、イライラとしている。
こんなんじゃ、ダメだ。
今日出発なのに。
「ね、朔見て。月がピンク」
結衣子が朔の気を紛らわそうと、開けた障子の向こうを指差す。
「…ほんとだ」
その言葉を気にしてみれば、本当に月はピンク色をしていた。
朝と呼べないほど真っ暗な空に、淡いピンクの月が2つ。
形は変わらず三日月と楕円。
「ここではその月の時が朝なんです」
不意に声がして振り向けば、静かに微笑みを携えるりつの姿。
「あ、おはよう。りつちゃん」
「おはようございます、結衣子さん、朔さん」
朔には挨拶をするという常識がなかったが、 とりあえずされたので返す。
「おは」
「なんかまだ夜みたいだよね。変な感じ」
結衣子に遮られる。
ちょっとムっとするが、当の結衣子は気にしない。
いや、気づいてない。
「…ねむ」
なんだかもう、どうでもよくなって1つ大きく欠伸をする。
「寝不足ですか、朔さん」
それにすぐさま反応したりつが心配そうに尋ねてきた。
やっぱり年下に見えない。
睡魔なんてぶっ飛ぶ位、かわいすぎる。
この子、モテるだろうな。
朔は心の内でとにかくりつをべた褒めすると、大丈夫だよ、と言ってにこりと笑った。
とその時、微かに障子の開く音が聞こえた。
「起きられましたか」
同時に後ろから声がしたので振り返ってみれば、麻之助が部屋の前に立っていた。
「兄さま。もう支度は整っています」
「そっか。…では、この後の事についてなんですが」
麻之助が部屋に入ってきて座る。
それをみて、3人も円になるように座った。
それまで和やかだった雰囲気が一変して緊迫する。
それほどまでに、妖姫様への道は険しいらしい。
「ここから少し行ったところに、森があります」
昨日カルタ衛兵がいたところか。
夜だからと言うのもあるが、かなり薄暗く見えた。
やだなぁ…虫とか出そう。
暗いのよりも、虫に刺されるのが嫌。
痒いし。
そんな事を考える朔をおいて、麻之助は続ける。
「その森を抜けると、物知りな天狗のおじいさんがいます。その方に、城への道を聞いてください」
天狗?
まじで言ってる?
…この世界って、本当に何でも有りなんだ。
朔は驚きを通り越して感心した。
月が2つあるなら、天狗くらいいてもおかしくないか。
とりあえず、納得する。
「森は危ないので、抜けるまでは私たちもついて行きます」
どうやら城まではついて来てくれないらしい。
しょうがない事だけど、知らない土地で結衣子と2人じゃ心細い。
彼女もそう思っているらしく、視線が飛んでくる。
朔はそっと苦笑いした。
「それと、夜は絶対にどこかへ泊まってください。野宿をすれば、絶対にカルタ衛兵に捕まりますから」
「こわ…」
麻之助の言葉に、結衣子が怯える。
そりゃ異世界に飛ばされるなんてかなり怖いけど、多分大丈夫でしょ。
一方の朔は持ち前の楽天的な考えで、麻之助の注意をそれとなく受け流す。
「いいですね?では、行きましょうか」
麻之助はにこりと笑むと、たちあがる。
「え、もうですか?」
外にでること大嫌いな朔は彼の早急さに驚いて声をあげる。
いくらなんでも早すぎない…?
まだ起きたばっかりだし。
だが、麻之助はきっぱりと言い放った。
「森を抜けるには半日かかるんです。この時間に出ても着くのは夕方になりますから。さぁ、行きましょう」
きっぱりながらも申し訳無さそうな麻之助の言葉に、朔は渋々ながら動いた。
しょうがない。
さっさと行って、さっさとこの世界からおさらばしよう。
朔は1つ大きく欠伸をすると、ぐるりと家を見渡した。
…そうだ、歴史の教科書。
どこかで見たことのある内装は、中学の時に歴史の教科書で見たんだ。
「はー、すっきり」
朔はやっともやもやが晴れたような気分になって、1人顔をほころばせた。
「朔ー?早く行くよ?」
すでに先に出ていた結衣子によばれる。
普通においてかないでよ。
「今行く」
朔はほころばせた顔をいつもの仏頂面に戻すと、部屋を後にした。
アクセス本当に
ありがとうございます(^O^)