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朔望の月  作者: お春
3/13

穴には十分お気をつけ下さい。

恋愛ものに持っていけると良いんですが…。




アクセスありがとうございます(^-^)


暇つぶしに読んで頂ければ光栄です。

どれくらいの時間が過ぎたのだろう。

いくら落ちても、最後は見えない。

穴に落ちるなんて、やっぱりこれはアリス…?

いや、でもあれは物語だし、百歩譲っても夢の中の話ってことで落ち着いてるはずで。

…夢?

朔は思いついたように頬をつねった。

いたい…のは当たり前。

夢なわけがないんだから。

というか、追ったのは狐だし。

あれ?

アリスは何を追ったんだっけ。

さっきまでわかってたはずなのに。

…あぁ、だめだ。

幼い頃読んだ本の記憶なんて、曖昧すぎて使い物にならない。

長い間、真っ暗闇を落ちていた朔は徐々に余裕をなくしていた。

落ちたら死ぬ?

この年で、人生の幕が閉じる?

「…」

思えばつまらない人生だった。

こんな事になるのなら、もっと積極的に楽しめば良かった。

もう死ぬんだ。

誰にも気づかれずに、こんなわけのわからない場所で。

「朔ーっ!」

結衣子の声が聞こえる。

死ぬ前に、最後の友達の声が聞けて良かった。

…ん?

「…結衣子?」

「朔っ!よかった、心配したよ…」

いる。

確かに、彼女が。

上から降ってきた。

なんで。

いや、そんな事はどうでもよくて。

「穴に、入ったの?」

「朔が心配で…」

「怖くなかった?」

どこまで続いているかわからない穴がある事を知っているはずなのに、自ら飛び込む。

「怖い?…どうして」

「…」

その答えは、予想外だった。

「落ちたら、多分死ぬよ」

「…あ」

さぁ、と結衣子の顔が青ざめる。

全く考えになかったのか、考える余地もなかったのか。

とりあえず、朔は唖然とした。

「で、でも、ほら。もしかしたら、地球の反対側なんかに行くかも」

結衣子は慌てているのか意味不明な事を言い出す。

「残念だけど、地球の中心部に到達する前に死ぬ」

「…じゃあ、地底人と遭遇するかも」

相当焦っているのか、結衣子は普段の彼女なら言わないようなことまで言い出した。

「…それより、いつまで続くのかな、これは」

あえてそこはスルー。

「無視しないで」

なんだかもう、さっきまでの余裕のなさが一気に馬鹿らしく思えた。

自分より遥かに余裕のなさそうな人を見たら。

「…てゆうか、この穴が続かなかったら私たち死ぬんでしょ。普通に考えたら、わかることなのに。私、馬鹿だ…」

結衣子はさり気なくひどいことを言っている。

つまり、気づいたら穴になんか自分から落ちないって事だ。

……。

「うん。落下の衝撃はかなり凄いと思う」

あえて結衣子の言葉はつっこまなかった。

つっこんだらつっこんだで、いろいろ傷を負いそうだから。

めんどくさいし。

「…それ、ほんと?」

「うん」

朔は、複雑な気持ちで頷いた。

全身の骨が砕けてもおかしくはない。

そう考えると、背筋が凍りついた。

…怖い。

この長い距離を落ちているのだから、さすがに生きてはいられないだろう。

「私、一生このままがいいかも」

「…ほんとに?」

いつ終わりがくるかもわからない状態を、一生?

気が遠くなるような意見だ。

「何十年も、こんなところにいたいの?」

そう尋ねると、結衣子はしばらく黙り込んだ後、かぶりをふった。

「…やっぱりいや。…でも、死にたくない」

結衣子の瞳が、恐怖によって潤み出す。

そして、一気にあふれ出したそれを見て、朔は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ごめ、涙…」

ぽろぽろと玉のような涙がこぼれた。

できることなら、結衣子だけでも助けたい。

自分のせいで、こうなってしまったのだから。

「私、まだ死にたくないなぁ。…怖い」

暗闇に、結衣子の言葉だけが響き渡る。

どうにかしたい。

しかし、今回は残念ながら朔にどうこうできる度量を遥かに越えていた。

「死ぬのは怖いよ」

朔は、ぎゅっと目をつぶった。

おとうさん。おかあさん。

親不孝者でごめんなさい。

なるべく早く、私のことは忘れてください。

地上にいる両親に、短く別れの言葉をおくる。

そして、結衣子の手を強く握った。

せめてもの、罪滅ぼし。

「死にたくない…。もっと、生きたい」

結衣子が微かにそう呟いた。

結衣子のおとうさん、おかあさん。

本当に、ごめんなさい。

朔は結衣子の両親へと強く謝罪した。

その時。

暗闇に慣れきった瞳に、突然白い光が差し込み、朔は眩しさに目を覆った。

「っ…」

何?

朔はそう言おうと口を開くが、そこからは肺から押し出される空気しか出てこなかった。

衝撃。

その2文字が、頭の中を閃光のように駆けていった。

やっと、終わりがきたんだ。

短い人生だった。

痛みなしで死ねるなら、それはそれで嬉しい。

痛みというよりか、身体が自分のものでなくなるような感覚。

頭を強く打ったのか、意識が危うい。

その隣で、光の中に倒れている結衣子を見ながら、朔は声を絞り出す。

「結衣子…ごめ…」

ん。ほんとに。

そう伝えたかったのに、薄れゆく意識が邪魔をして、うまく言えない。

そして、謝罪の言葉すら最後まで言えないまま、朔はかろうじて残っていた意識を手放した。



「…は」

あれ?

…死んだはずじゃ。

いや、死んだはずっておかしいんだけど。

もしかして、ここは天国?

「…なわけないか」

起き上がってみれば、2人は地面に寝ていたらしかった。

地面には藁がしかれ、服は汚れていない。

どうやら、外のようだ。

が、明らかに朔の知っている世界ではなかった。

毒々しい紫の空に月は2つ。

三日月と、満月に近い楕円の月。

そこに、色とりどりの金平糖が星として輝いている。

辺りの木に実るのは、遺伝の法則を無視した様々な果物。

桜が咲いていると思えば、鈴虫の鳴き声が美しく響く。

「…」理解に困った朔は、隣で寝息をたてている結衣子を揺さぶる。

「…ん。…朔?」

結衣子は目をしばたたかせ、不思議そうに、そして若干恨めしそうに朔を見つめた。

眠いらしいが、それどころじゃない。

「結衣子、…生きてる」

とりあえず、それしか出てこなかった。

言いたいことは違ったが、彼女の頬にうっすらと残る涙の後を見た途端、それしか言葉が出なかった。

「…ほんとだ。生きてる。生きてるよ、朔!」

声がきらきらと輝いている。

穴の中では、死にたくないと泣いていたはずなんだけど。

まあ、生きてて良かった。

「うん」

「で、ここは?それに、私達落ちたのに、なんで生きてるの?」

「え?」

結衣子の、突然の問いかけ。

「だから、ここはどこ?」

きょろきょろと、結衣子は起き上がって辺りを見渡す。

「あっ」

「何?」

「夢、だと思う」

そう言うしか、ない。

全くここについての、知識がないのだから。

むしろ、そう答える方がまともな気がする。

「現実、しっかり見つめよ?」

…どうやら、私はまともではないらしいです。

友達いない時点で、まともとは遠く離れてしまっているけど…。

「…じゃあ、結衣子は?」

逆に聞いてみる。

すると、彼女は困った顔つきで上を見上げた。

「えっと…ほら…。あっ」

結衣子が微笑む。

「?」

「月、きれいだよね、ここ」

なんか、逃げられた気がする。

聞きたかったのは、そうじゃなくて…。

…えっと。

朔はなんだか全身の力が抜けて、結衣子にもう一度尋ねるのも億劫になった。

もう、めんどくさい。

2人は、何がなんだかわからないまま、笑いあう。

どこにいようと、今の彼女達には関係なかった。


「…あの」


不意に、声をかけられる。

ふりむけば、そこには男がいた。

「こんな時間に外にいては、危ないですよ」

男はにこりと笑む。

人の良さそうな笑顔を向けられて、朔と結衣子は顔を見合わせた。

…なに、コイツ。






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