鼠は猫を噛んだりする
テストの関係で
かなり遅れてしまいました…
すいません(´・ω・`)
アクセスありがとうございます(^O^)
朝。
どこからか、それを告げる鳥の鳴き声。
鶏に似た声は、なんとなく現実世界を思い出させるようで。
真っ青な空に白い雲、当たり前だと思っていた風景。
それを全て無くしたような気になって、朔は沈み込む気持ちと一緒に顔も下げた。
…ダメだ、ホームシックになりかけてる。
思い出せば、本当に気分が落ちるので意識して思い出さないようにする。
いつになったら、帰れるんだろ…。
「朔!」
不意打ちで呼ばれた名前。
朔は反射的に頭を持ち上げた。
「…あ、ごめん」
結衣子の呼びかけで、朔のはせていた思いはすんなりと打ち切られる事になった。
状況を確認してみれば、今ここにいるのは麻之助とりつと結衣子と自分。
まひろは、まだ寝ているらしい。
「朔さんの話はわかりました」
いつの間にか結衣子が説明してくれていたのか、ここにいる全員が集合の理由を把握しているようだ。
「…私も、人助けなら進んでやりたいのですが…」
麻之助の語尾が細くなっていく。
彼の薄い唇が、戸惑いを隠すように閉じられる。
その色っぽさに、朔は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
いや別に、ときめいたとかじゃないよ。
「兄さま、長くここにいてはいつ追っ手が来るかわかりません」
りつの言葉に、麻之助は身を固める。
どんなに罪がないと言っても、追われている身なのは変わらない。
「そうだね…。でも、ミルが言っていた事も気になるし…」
秘密。
それは朔たちを引きとめるには、うってつけの誘惑だった。
それがどんなに小さな事でも、より多くの情報があった方がいい。
しかし、ミルの言う秘密が全く役に立たない、という可能性もあるのも確かだ。
それなら、さっさとここから出て行かないと。
いくらミルだって、ここを出ると強く言われれば引き止めることはできないだろう。
朔は思いついた考えを述べようと口を開いた。
「でも」
…ん?
「ミルは秘密を知ってる。それだけで、手伝う理由にはならない…かな」
は?
ちょ、ちょっと待って。
何言ってるの。
「朔…」
見れば結衣子が、物珍しそうにこっちを見ている。
それもそのはずだ。
めんどくさがりの朔が、他人のために動こうとしているのだから。
たとえそれが、自分の意志でなくても。
「私、鈴音ちゃんを助けたい…」
口だけが違う人の物になってしまったかのように、別の動きをする。
おいおいおい。
言っておくけど、私はそんな素敵人間じゃないですよ。
もっと自己中心的な、最低な奴だから。
「朔…あんた、変わったね」
そんなしみじみ言う事じゃない!
結衣子の表情が、明らかにほほえましい感じになっている。
このままだと、ミルの思う通りになってしまう。
何とかしないと。
そう思っても、朔の唇は開かない。
固く閉ざされたまま、空気の侵入も許さなかった。
自分の意志を伝える大切な器官が使用不能というのは、今の朔にとって大きな痛手だった。
そして、次の瞬間。
「…朔さんがそう言うなら」
それまで黙っていた麻之助が、ついに肯定の意を表した。
その目尻には、感涙の跡が残っている。
いや。
誰か否定してよ。
朔は期待を込めて、りつに視線を送った。
使い物にならない口を捨て、目で訴える作戦。
「そうですね。頑張りましょう、朔さん」
やっぱりね!
8割方そうだと思ったけどさ!
絶句する朔の隣で、3人が盛り上がっている。
こうなってしまえばもう、やめようなどという意見は誰も聞く耳を持たないだろう。
朔は不意にあごが緩くなったことにほとんど抵抗せず、外れるほど大きく口を開けた。
「逃げようなんて思わないことだな」
「…ミルっ」
いつの間に、そしてどこから入ってきたのか、朔の膝元にミルが寄り添っていた。
「一度した約束は、きっちり守ってもらうからな」
聞こえるか聞こえないか位の小ささで、ミルは朔にそうささやいた。
この村にいる猫または、鼠の数には程遠く及ばないくらいだった。
6匹。
その中には生まれて間もない子猫も含まれているから、実質4匹。
ミル以外の3匹は喋れないようで、結衣子になでられて気持ちよさそうにしている。
どうやら話すことができるのは、人間と暮らす時間が長かったミルだけらしい。
だだっ広い広場に似合わない人口密度。
昨日と変わらず、椿の花が静かに鎮座している。
「…少ない」
もとは茂っていたであろう草木が禿げ、渇いた地面。
朔はそこにじっと座っていた。
立ってるのだるいから。
しかし、そんな身じろぎ1つしなかった朔も動かざるをえなかった。
ぽとりとため息を落とし、肩も落とす。
とりあえず現状を把握しようと、この村の猫またたちを招集させたものの。
確かに、昼でも薄暗いこの村に、期待は最初からしていなかったけれど。
「さすがに、これだけだとは思ってなかったよ…」
落胆というより、呆れに近い意味でため息が出る。
「しょうがないだろ、みんな出て行ったんだから!」
村人が出て行くときに、飼い猫としてミルの仲間達はついて行ったようだった。
「で、ではまず、鼠の数を大体でいいので教えて下さい」
麻之助が慌ててミルにたずねる。
かがんで話しかけるのは、優しさ故か。
「えっ、あ…300くらい、だな」
300!
この小さな集落に、それだけの鼠が走り回っているのかと思うと朔はなんだかやりきれない思いになった。
聞いた麻之助も、引きつった笑顔が隠しきれていない。
「うわぁ…」
隣では結衣子が身体を抱きしめて顔を青くしている。
気持ちはわかるよ、確かに気持ち悪いし。
「あいつらは、急に増えたんだ。最初のうちは捕まえられたんだけど…」
ミルの話によれば、だんだんと自分の力が弱まっていったのがつい最近のことで。
それはちょうど、猫またたちの長が亡くなった時からだそうだ。
そして鼠が爆発的に増えていった、とか。
「ふぅん…」
朔はそんな話を聞き流しながら、鼠に有効な罠を考えていた。
箱式の、とかあったよね?
あとは毒餌とか…。
「朔、あんたどうすんの…?」
「…どうにかなるよ」
…多分ね。