ある魔女魔の懺悔
「そういうわけで、お母さんとお父さんは愛を誓い合ったんだ」
「…………」
「では次に、お前がなぜ産まれたかについたの話だが、まず、お父さんは言ったんだ。子どもが欲しいと。その為には、甘い雰囲気になるために……」
「だぁっもうっ!! なんでそこでそんな話になるんだよ!!!!」
「落ち着きなさい、ロードン。これは、今日成人するあなたへの義務なのよ」
母であるミリアは18の誕生日を迎える息子を嗜める。
「そうだ、これは義務なんだからちゃんと聞かないか」
父のコラーはそう言うものの、やる気のなさが隠しきれていない。
「あなたも、もっと真剣に取り組んでよね。義務を果たさないと、私たち塵になるのよ?」
魔界で決められた厳しい義務。別れゆく子に、自立と家庭を理想とする良いイメージを持たせるため、2つの義務と1つの権利が持たされている。
1つ、親の愛の歴史を伝えること
1つ、家族の素晴らしさを伝えること
この義務を果たすことで、ようやく子育てから解放されるのだ。
「あのさ、その義務だか知らないけど、正直、それを聞いたらここを出ていけるっていうから我慢してるだけなんだけど。さっさと終わらせてくれない?」
18になるまで知ることのない大きな秘密。2つの義務ともう1つ、大きな権利が得られるのだ。子育てを終えた時、魔界から莫大な魔力を一時的に授かり、どんな魔法でも使えるのだ。
「まぁ分かっているなら十分だろう。お前が生まれて、今日まで無事に育った。それこそ祝福すべきことだ。今からはお互い自由の身、祝杯をあげないとな」
父、コラーの言葉に、ミリアとコラーが婚姻を誓った日にかけられた呪いが解除され、2人の左手にはめられた指輪が割れ落ちる。
「おぉっ!! ついに、ついに外れたぞ!!」
「えぇ、そうね……」
「それで? 終わり? まだ背中に何も変化がないんだけど。羽なしじゃあ1人で生きていけないって……」
そこまで言うと、急に父から感じる大きな魔力量にギョッとする。
「なんだよ、その魔力……」
「まぁ、見とけ。これが18年の褒美というやつだ。俺の望みは、当然っ、幻の人間界の食べ物。ラーメンだ!!」
その言葉とともに、これまで嗅いだことのないスープの香り、厚く切られたチャーシューに、半熟に溶けた玉子の乗る食べ物が出てくる。
「なっ、それって、人間界の!? あんた、いつそんなの召喚できる魔力を……」
コラーはそんな言葉を聞いている暇などない。60秒で消えてしまう前に、己の本来の魔力で出来る小さな魔法を使うと、口の中の熱さを感知する感覚を鈍くする。
勢いよく麺をすすり、口いっぱいに肉を頬張る。麺と玉子を絡ませながら、長年イメトレしたペースで一気に食べ干していく。
「あぁっ、これほどの美味とは。人間のつくる食べ物は格別だという噂はどうやら本当のようだな」
スープ一滴残すことなく食べ終わると、満足そうに口をふく。
「今のは何なんだよ!?」
詰め寄る息子に、母は静かに答える。
「これが、子を成人させた特典よ」
「は?」
「18の誕生日まで、大きなトラブルなく子を育て、2つの義務が終わると指輪の呪いが外れるのよ。18年も塵になるかもしれない呪いの力を背負っているとどうなるか分かるわよね?」
「……その分の魔力が得られるってことか?」
「えぇ。そうよ」
「なんだよ。愛とか家族の素晴らしさとか語ってるわりに、結局自分たちの為に子どもを産んだってことかよ」
「……そういう考えもあるわね」
魔界からすれば、魔法使いが増えることが重要なのだ。その動機として、個人に与えられる破格の魔力を与えられるようにと考えられたシステムだ。
「あぁ、はいはい。それで? あんたはどうするわけ?」
「…………ずっと考えてたわ」
「どうせなら、また人間界の食べ物を出して俺に食べさせてくれるとかありなわけ?」
「……この一度きりの魔法は、己の欲にしか反応しないのよ」
「なんだ。それなら早く終わらせて? それで子育ての儀は終了なんだろ?」
「そうよ」
「ならどうぞ?」
「…………私の欲にしか反応しないらしいのは本当ね。さっきから、何を願っても発動しないのよ」
「何々? 無欲って? ありえないね」
「えぇ。そうね。1番の欲にしか発動しないのね」
「それで?」
そう聞いておきながら、母が自分の頬を両手で挟んできたことに驚く。
「あなたよ」
「はぁっ!?」
大きな光が全身を包む。
気づくと、急に両親が巨人のように高くなっていた。
「ミアラ、君の望みはもう一度子育てでもしたいのかい?」
「いいえ、3才のロードンでなければだめなのよ」
「え? え?」
「ロードン」
ミアラは幼くなった息子を抱き上げる。先ほどまで反抗していた息子は、無邪気な頃の幼い時に戻っていた。
「マァマ?」
今度は逆に、幼いロードンが母の頬をそっと触る。
「ロードン……ごめんなさい」
その言葉とともに、感情を表に出さないミアラは震えるように言葉をしぼり、涙を流す。
「ごめんなさいっ、ごめんっ……私は……ママはもっとあなたを抱きしめるべきだったわ。こんなに小さなあなたに、悪いことばかりしてしまったわ。抱っこ、もっとしてあげたら良かったわ。お話たくさん聞いてあげられたら良かったね。怒らないで、大丈夫って優しくして欲しかったわよね? こんなにっ、こんなに小さいあなたを泣かせてしまってごめんね。ロードン、大好きよ。本当に、大好きだわ。ずっと、やり直したかったわ。もっと、大切に育ててあげたかったわ」
大粒の涙とともに、ずっと後悔していた感情があふれ出る。
「マァマ、いいよ」
ぎゅっと抱きしめられた言葉とともに、時間切れとなる。
「…………」
「…………」
再び元の姿に戻るとともに、ロードンは自分の背中に羽が生えたのが分かった。
「これで、行けるな」
親子が暮らせるのは18歳まで。羽が乾くとともに、実家には近づけなくなる。
「じゃあ……」
「あぁ、死ぬなよ?」
「あぁ」
父とのやりとりはあいかわらずだ。
「……元気でね」
ミアラの願いが通りなら、あのロードンはただ幼少化した魔法ではない。本当に3才の時のロードンが過去から入れ替わって来たのだろう。
「母さん、気にするな」
「っ!?」
ロードは60秒の間に、過去のミアラと何かを話したのだろうか。時間とともに、なかったはずの記憶が思い出す。
幼い息子を叱り、罪悪感で沈んでいた夜、急に成長したロードンが現れた。こちらの姿に驚いた様子の大きな息子は、あんたの願いは何なんだよと問い詰めてきた。幼いあなたを叱ったこと、毎日後悔してばかりの日々、きっと息子に謝りたいと願ったのだと伝えたあと、気づくと3才のロードンがまた眠っていたのだった。
「ロードンっ!!!! 10年したら、羽が縮んで会えるようになるわ。また帰ってらっしゃい」
「あぁ」
返事する息子は、あっという間に空高く飛んでいった。
「あー、ゴホンッ。10年後と言わず、外でなら会えるはずだろう?」
「あら、だめよ。そんな甘い考えでは自立なんてできないわ」
「俺ももう少し遊んであげれば良かったな……」
「人間界の食べ物は長年の夢だったのでしょう?」
「あぁ。次は自力で食べに行きたいものだ」
「子育ても終わったことだし、私も次は食べてみたいわ」
「また魔力、貯めてみるか」
「えぇ。召喚魔法は無理でも、人間界になら行けるくらいにはなるかもしれないわ」
お読みいただきありがとうございました。色々想うことはありながらも、自分の夢、親としての立場、どちらも大切にしたいなぁと思います。
良ければ評価、コメントよろしくお願いします




