森の調査②
今日はこれで更新終わりです!皆さん見てくれてありがとうございます!
この後は書き溜めて最初は1日2話ずつぐらい投稿出来たらいいなって考えてます。
森に入ってしばらく歩いていた。
街道から少し離れただけで空気が変わる。木々が重なり、光は細く地面に落ちる。足元には湿った落ち葉が厚く積もっていた。
新人たちは最初こそ周囲を見回していたが、歩くことに慣れてくると少しずつ会話が増えてくる。
『思ったより普通だな』
『まだ浅い』
『森ってこんな感じなんですね』
『静かすぎる』
風が木の葉を揺らす。
その音がやけに大きく聞こえた。
『そうか?俺には普通に見えるぞ』
『普通の森ならもっと音がある』
『音?』
『鳥とか虫とか小動物だ』
ガルドが肩をすくめる。
『俺にはさっぱりだ』
レンは答えなかった。
森の違和感は説明しづらい。長く森にいる人間ほど、小さな変化を感じ取るものだ。
前を歩いていた探索者が手を上げた。
『止まれ』
全員が足を止める。
探索者はしゃがみ込み、地面の落ち葉を軽くどけた。土の上に深い跡が残っている。
『足跡だ』
『猪ですか?』
『形はな』
探索者の指が跡の縁をなぞる。
『深い』
ガルドが近づいて覗き込む。
『そんなに違うのか?』
『普通の猪はもっと浅い』
『つまり重いってことですか』
『そうだ』
レンもしゃがみ込む。
湿った土が指に付いた。跡は新しい。崩れ方からして、そう時間は経っていない。
ミルクが周囲を見回す。
『他にもある』
少し離れた場所にも同じ跡が続いていた。落ち葉がめくれ、重い体が通った跡が残っている。
『進んでるな』
『奥へ向かってる』
ガルドが小さく息を吐く。
『まさか本当にいるのか』
『可能性はある』
森の奥から風が流れてくる。
湿った土と草の匂いが混ざっていた。
探索者が立ち上がる。
『ついてこい』
一行は足跡を追うように進む。
地面は柔らかく、跡は比較的見つけやすかった。
木々の間を歩いていると、探索者が再び止まる。
『こっちだ』
一本の太い木の前だった。
幹の表面が大きく削れている。
『傷?』
『体をこすりつけた跡だ』
樹皮が剥がれ、木の色がむき出しになっている。傷は大人の胸ほどの高さまで続いていた。
ガルドが見上げる。
『高くないか』
『普通の猪なら届かない』
『大きい……』
『変異体だ』
その言葉が落ちた瞬間、空気が少し重くなる。
リナが小さく言う。
『本当にいるんですね』
『どうやら森の噂は本当らしい』
風が吹く。
枝葉が揺れ、森がざわめいた。
その音の奥で、乾いた音が一度だけ響く。
パキッ。
枝が折れる音だった。全員の動きが止まる。
『今の聞こえたか』
『聞こえた』
『風じゃない』
『獣だな』
森はすぐに静かに戻った。
何も動いていないように見える。だが空気だけが張り詰めている。
ガルドが声を落とす。
『近いのか?』
『分からない』
『見えないのが一番嫌だな』
探索者は森の奥を見ていた。
『今日はここまでだ』
『もう戻るのか』
『痕跡は確認した、無理をする必要はない』
新人たちは小さく安堵の息を吐いた。
『街道へ戻る』
隊列がゆっくり動き出す。落ち葉を踏む音だけが続いた。
森は相変わらず静かだった。
リナがぽつりと呟く。
『なんか……見られてる気がします』
『森ってそういうもんだ』
レンが森の奥を見る。
「今日は違う」
『何が違うんだ』
「見てる」
足音が一瞬止まる。
『……同感だ』
一行は歩き続けた。誰も振り返らない。
森の奥、倒れた大木の影の下。そこに巨大な影が伏せていた。
黒い体毛、曲がった牙、太い蹄。
地面を踏むだけで落ち葉が沈む。変異体の猪だった。
ゆっくりと鼻を動かす。空気の匂いを確かめている。
人間の匂い。
その影はしばらく動かなかった。ただ静かに森の奥から人間たちを見ていた。
やがて大きく息を吐く。湿った空気が揺れる。
まだ距離はある。
だがその距離は、確実に縮まっていた。
※この小説は作者の完全な自己満です。




