終幕:森の異変
幕間書いて、いったん2章?に入ります。
2章書ききるので3日いただきます。
夜が明け始めていた。森の上に薄い光が差し込み、木々の隙間から朝の空が見える。焚き火はほとんど消え、灰の中で赤い火がわずかに残っていた。巨大な変異体の猪はその横に倒れたままだった。黒い体毛は血で固まり、夜の戦いの跡がはっきり残っている。
新人たちは誰も眠れなかった。戦いのあと、そのまま朝まで警戒を続けていた。
ガルドが大きく息を吐く。
『改めて見るととんでもない大きさだな』
ミルクが猪の体を見下ろす。
『普通の猪の倍以上ある』
『こんなのが街道近くに出るのかよ』
探索者が膝を曲げ、死体を確認する。牙の太さ、筋肉の盛り上がり、毛の硬さ。どれも普通の獣ではない。
『完全に変異体だ』
『こんなのが森を歩いてたんですか……』
『だから調査が出た』
探索者が立ち上がる。
『今回の仕事は街道近くの森の調査だった』
ガルドが顔をしかめる。
『調査ってレベルじゃねぇぞ』
『そうだな』
『この規模の変異体が街道近くにいるのは異常だ』
『一匹だけとは思えない』
森の奥から朝の鳥の声が聞こえ始める。夜の緊張が少しずつほどけていくが、空気は重かった。
探索者が森を見る。
『森の異変は本物だ』
ガルドが眉をひそめる。
『まだいるってことか』
『可能性は高い』
『勘弁してくれ』
リナが静かに言う。
『街道って安全なんじゃ……』
『普通はな』
ミルクが続ける。
『普通の森ならこんな変異体はもっと奥にいる』
レンは変異体の死体を見ていた。首の傷、裂けた足、血の流れ。狩人として長く獣を見てきた目が、違和感を探していた。
「普通じゃない」
探索者が視線を向ける。
『何がだ』
レンは体毛を指で押す。硬い毛の奥、厚い皮膚。
「この環境にしては育ちすぎだ」
『どういう意味だ』
「普通の獣はここまで大きくならない」
『餌が多いとか』
「違う」
レンは森を見た。木々の奥、深い影。
「森があまりにも変だ」
探索者はしばらく黙っていた。
そして小さく頷く。
『俺もそう思う』
『静かすぎる』
『夜もそうだった』
ガルドが首を傾げる。
『よく分からんが嫌な感じはするな』
探索者が死体をもう一度見る。
『この情報はアルディアに持ち帰る』
『街に報告か』
『ああ』
『探索者組合が動く』
『そんな大事なんですか』
『街道近くに変異体が出たら大問題だ』
ガルドが苦笑する。
『新人の仕事じゃねえな』
探索者が短く答える。
『だから今日は終わりだ』
『戻るぞ』
隊列が動き始める。
荷物をまとめ、焚き火を完全に消す。変異体の死体はそのまま残すしかない。持ち帰れる大きさではない。
朝の光が木々の間に広がり、夜の影が薄くなっていく。
しばらく歩いたところで、探索者がレンの横に並んだ。
『お前』
レンが顔を向ける。
「何だ」
『森に慣れてるな』
「昔から歩いてた」
『狩人か』
「そんなものだ」
探索者が少し笑う。
『昨夜の誘導、助かった』
「猪は単純だ」
『それでも出来る奴は少ない』
『俺も同感だ』
『確かにあれがなかったら俺たち轢かれてたな』
『すごかったです』
「たまたまだ」
探索者が言う。
『謙遜するな』
『腕は見た』
少し間を置いて続ける。
『アルディアで仕事を探してるなら紹介できる』
「仕事?」
『森の仕事だ』
『探索者の仕事は多い。討伐、護衛、調査、採集。そのうえで森を歩ける人間は貴重だ』
『おいレン、お前向いてるぞ』
レンは少し森を見た。
深い木々。
静かな影。
「考えておく。」
『アルディアに来い、組合で話を通してやる』
森の出口が近づく。
木々の隙間から、街道の明るい光が見え始めた。
ガルドが伸びをする。
『街道だ!』
『やっと戻れる』
ミルクが言う。
『だが森の問題はこれからだ』
探索者が短く答える。
『ああ』
レンは森を振り返る。
静かな森。
だが奥に何かが残っている。
「終わってない」
『その通りだ』
『だから仕事になる』
隊列が街道へ出る。
その先には都市アルディア。
レンの第二の人生は、まだ始まったばかりだった。
そして――
森の異変も、まだ始まったばかりだった。
※この小説は作者の完全な自己満です。




