変異猪討伐
今日もう一話です!
これから基本的に13:30、22:30に投稿します!
巨大な体が地面を蹴る。落ち葉が一斉に舞い上がり、重い衝撃音が森に響いた。変異体の猪が一直線に突っ込んでくる。巨体に似合わない速度だった。新人たちは左右へ飛び、焚き火の光の外へ転がる。地面が震え、猪の体が焚き火の横を通り抜けた。太い幹にぶつかり、木が大きく揺れる。
『速すぎる』
『新人は下がれ』
探索者が前へ出る。剣が抜かれ、焚き火の光を反射した。変異体はすぐに体を回す。黒い体毛が逆立ち、鼻息が荒い。地面を掘る蹄の音が低く響く。
『突進は直線でしか来ないぞ』
『分かってる』
ミルクが弓を引く。矢が放たれ、暗闇を裂く。しかし変異体は頭を振った。矢は硬い毛に弾かれ、斜めに逸れて地面へ刺さる。
『効かない!』
『毛と皮が厚すぎる』
『どうすりゃいいんだよ』
レンは変異体を見ていた。巨体の動き、足の踏み込み、突進の前の体勢。狩人として長く獣を見てきた経験が、自然と動きを読んでいた。
「正面は駄目だ」
『何かあるのか』
「突進のあと一回止まるはずだ」
『猪は急に曲がれない。変異体だろうがそこは普通の猪と同じだ』
変異体が再び突進の姿勢を取る。頭が低くなり、牙が焚き火の光を受けて鈍く光った。次の瞬間、巨体が再び地面を蹴る。空気が震えた。
『来るぞ』
巨体が一直線に走る。狙われたのは探索者だった。探索者は横へ跳ぶ。猪はそのまま突き抜け、地面を削りながら数歩先で止まる。重い体が土を滑り、落ち葉が舞った。
「今だ!!」
ミルクの矢が飛ぶ。今度は目を狙っていた。だが猪が頭を振る。矢は頬を掠め、皮に浅く刺さっただけだった。
『くっ、浅い』
変異体が吠えるような息を吐く。低い唸りが森に広がった。怒りで動きが荒くなる。巨体が再び向きを変える。
『また来るぞ!散れ!』
三度目の突進。新人たちは必死に避ける。巨体が横を通り過ぎ、焚き火の火の粉が大きく舞い上がる。地面に転がったリナが震えながら立ち上がる。
『怖い……』
『下がれ!死ぬぞ!』
探索者の声が鋭い。変異体は再び止まり、鼻を鳴らした。呼吸が荒い。何度も突進しているが決定打がない。苛立ちが動きに出ていた。
レンは焚き火の横で地面を見ていた。太い木の根が地面から浮き出ている。森ではよくある地形だが、突進する獣にとっては厄介な障害になる。
「こっちに誘う」
『できるか』
「やって見せる」
レンは少し前へ出た。焚き火の光が顔を照らす。変異体の視線がレンへ向く。鼻が動き、人間の匂いを確認する。
『おい危ないぞ!!』
レンは動かない。変異体をまっすぐ見ていた。巨体が頭を下げる。突進の体勢だった。
「来い」
次の瞬間、地面が爆ぜた。巨体が一直線に突っ込んでくる。焚き火の光が揺れ、影が大きく跳ねる。距離が一瞬で詰まる。直前でレンは横へ跳んだ。
変異体はそのまま走る。巨体の前足が地面の木の根に引っかかった。体がわずかに傾く。ほんの一瞬の隙だった。
『今だ!やれ!!』
探索者が飛び込む。剣が振り下ろされ、前足の付け根を深く斬った。血が飛び、黒い体毛が赤く染まる。
変異体が吠える。巨体が暴れ、探索者が跳び退く。
『足を狙え!』
ミルクの矢が飛ぶ。今度は傷口へ刺さった。猪が激しく頭を振る。怒りと痛みで動きが荒くなる。
ガルドが叫ぶ。
『効いてるぞ!!』
変異体が再び突進しようとする。しかし足がわずかに沈む。傷が動きを鈍らせていた。
『もう一度だ』
「次で終わる」
変異体は再び頭を下げた。怒りで呼吸が荒い。足を引きずりながらも突進の姿勢を取る。最後の力を振り絞るようだった。
巨体が動く。地面を蹴る。だが速度が少し落ちている。レンが横へ誘導する。猪は追う。巨体がレンへ向かって走る。
足が再び引っかかった。
『最後だ!』
探索者の剣が振り抜かれる。首の横へ深く入る。骨に当たる鈍い感触。血が噴き出す。
変異体の体が大きく揺れた。数歩よろめく。巨大な体が地面を踏みしめる。そして崩れ落ちた。
重い音が森に響く。落ち葉が舞い、しばらく地面が震えた。森が静かになる。
誰もすぐには動かなかった。焚き火の音だけが小さく続く。
ガルドがゆっくり息を吐く。
『……終わったのか』
『動かない』
探索者が剣を抜く。血を払い、猪の体を確認する。
『終わりだ』
その言葉で緊張がほどけた。
リナがその場に座り込む。
『生きてる……』
ガルドが笑う。
『とんでもねえ新人仕事だなあの誘導は素人じゃできないぞ?』
レンは焚き火を見ていた。火が小さく揺れている。
「猪は直線しか走れないからな」
探索者が短く笑う。
『助かった』
巨大な変異体の死体が焚き火の横に横たわる。普通の猪の倍以上ある体だった。黒い毛に覆われ、太い牙が月明かりを受けて光っている。
森は再び静かになった。
だがその静けさの奥で、何かが変わり始めていた。この森には、まだ異変が残っている。
そしてアルディアの探索者たち、そしてレンは、まだそれを知らない。
※この小説は作者の完全な自己満です。




