会敵
明日も2話です!
焚き火の火は小さくなっていた。夜はすでに深い。森は昼とは別の場所のようだった。虫の声は続いているが、それ以外の音はほとんどない。焚き火の光が届く範囲だけがかろうじて見え、その外は完全な闇だった。木々の影は揺れ、風が通るたびに枝葉が擦れる。
新人たちの多くはすでに眠っていた。長く歩いた疲れもあり、地面に横になるとすぐに意識を落とした者も多い。ガルドは寝返りを打ちながら低く息を立てている。リナも毛布にくるまり静かに眠っていた。
見張りは二人。探索者とミルクだった。焚き火の前に座り、暗い森を見ている。炎が小さく揺れ、影がゆっくり動いた。
『さっき言ってた獣の気配、まだあるか』
ミルクが暗い森を見ながら聞く。
「ある」
『どっちだ』
レンは少し顔を上げる。森の奥へ視線を向けた。
「風下」
ミルクも風を感じる。弱い風が森の奥から流れてきていた。湿った土の匂いに混じり、獣の匂いがわずかに混ざっている。
『俺にも少し分かる』
『距離は』
「遠くない」
『近づいてるか』
レンはしばらく黙る。耳を澄ませるように森を見ていた。
「……ゆっくり」
森の奥は暗い。だがその闇の中で、何かが動いている。
パキッ。乾いた音が小さく響いた。枝が折れる音だ。探索者の視線が鋭くなる。
『起こせ』
ミルクがすぐ動いた。眠っている新人たちを静かに揺らす。
『起きろ』
『……なんだ』
『静かにしろ』
ガルドが体を起こす。まだ眠そうだったが、周囲の空気に気づくとすぐに顔が変わった。
『どうした』
『獣だ』
『近い』
リナも起きる。まだ状況が分かっていない。
『え?』
『声を出すな』
森は静かだった。
だが静かすぎる。虫の声も少し減っていた。風が木の葉を揺らし、その音だけが広がる。
探索者は焚き火に枝を追加した。火が少し大きくなる。光が広がり、周囲の木々が赤く照らされた。
『火は消すな』
『逃げるんですか』
『様子を見る』
レンは立っていた。森を見ている。暗闇の奥、木々の隙間に視線を向けていた。
再び音がする。重い音だった。落ち葉を踏む音、人の足よりも重い。
ガルドが小さく言う。
『猪か』
『多分な』
『普通のか』
レンが答える。
「違う」
短い沈黙が落ちる。
そのときだった。森の奥の影が動く、黒い塊が木の間を横切った。
あまりにも大きいそれは普通の獣ではない。
リナの声が震える。
『……大きい』
探索者の声が低くなる。
『変異体だ』
焚き火の光が揺れる。
その光の外側、暗闇の中で巨大な影が止まった。
鼻息が聞こえる、低く重い呼吸。
ガルドが小さく息を飲む。
『でかいな』
ミルクも目を細めていた。
『普通の猪の倍以上ある』
黒い体毛、太い首、曲がった牙。
体高は人の肩ほどもある。
その巨体がゆっくり動いた。
変異体の猪だった。
鼻を動かし、空気を嗅いでいる。
焚き火の匂い、人間の匂い。
『気づいてるな』
『ああ』
変異体が一歩進む。
蹄が地面を踏むたび、落ち葉が沈んだ。
探索者が言う。
『新人は後ろに下がれ』
『戦うのか』
『逃げられる距離じゃない』
変異体はゆっくりと焚き火の周囲を回り始めた。
距離を測るように歩く。
黒い影が木の間を移動する。
レンが低く言う。
「突っ込んでくる」
『猪は直線だ』
変異体が止まる。
頭が下がる。
前足が地面を掘った。
『来るぞ』
次の瞬間、巨体が地面を蹴った。
落ち葉が一斉に舞い上がる。
巨大な体が一直線に突っ込んできた。
焚き火の光が揺れる。
影が弾ける。
『散れ!』
新人たちが左右へ飛ぶ。
変異体はそのまま焚き火の横を突き抜けた。
地面が震え、木の根に体がぶつかり、太い幹が揺れた。
ガルドが叫ぶ。
『速い!』
『目を狙え!』
矢が放たれる。
暗闇を裂いて飛ぶ。
しかし変異体は頭を振った。
矢が体毛に弾かれる。
『硬い!』
探索者が前へ出る。
『足を狙え』
変異体が体を回し、再び突進の姿勢を取る。
焚き火の火が強く揺れた。
巨大な影が再び新人たちへ向いた。
レンは静かに息を吐いた。
「真正面は危ない」
変異体が地面を蹴る。
次の突進が始まった。
※この小説は作者の完全な自己満です。




