……でも、それでもいい。
「――それで、こんなところでどうしたんだい? あまり遅くなると、親御さんが心配するんじゃない?」
すると、飄々としつつ何とも真っ当なことを尋ねる変な人。ただ、真っ当ではあるけれど配慮のある質問とは言えないかな。……でもまあ、答えたくない理由も別にない。なので――
「……心配なんてしないよ。するわけないじゃん、こんな親不孝な子どもなんて。むしろ、帰って来なければいいって本気で思ってるよ」
そう、淡く微笑み答える。そう、あたしのような親不孝者を心配なんてするわけない。むしろ、このまま何処へでも行って帰って来ないでほしいと今も本気で願っているだろう。……まあ、だからと言って責めるつもりもないけれど。だって、あたしのせいだし。むしろ、申し訳ない気持ちでいっぱ――
「――そっか、それはお気の毒に。それじゃあ……もし良かったら来るかい? 僕の家に」
「…………へっ?」
すると、不意に届いた衝撃の言葉。……えっと、どゆこと? なんで、急にそんな――
「――まあ、そう怪しまないでよ。取って食おうってわけじゃないから。そうだねえ……まあ、僕なりの恩返しだと思ってもらえばいいかな。さっきも言ったよね? この上もなく感謝してるって」
「……おん、がえし……?」
すると、私の疑問に答えるようにそう口にするローブの人。……いや、怪しむなって言われても……あと、恩返しってどゆこと? 正直、『そういう』目的だと言われた方がまだ理解が出来る。一応、これでも女子高生――それに、容姿にはそれなりに自信があるし。……いや、もう退学したので女子高生ではないんだけども。
「……それで、どうする? 葉乃ちゃん」
すると、改めてそう問い掛けるローブの人。恐らくは見ず知らずの人からの、全く以て不可解な提案……もちろん、目的なんて分からない。分からないけど、それでも――
「……そっか。だったら……うん、遠慮なく恩を返してもらおっかな」
そう、ふっと微笑み答える。もちろん、何一つとして分からないけど……でも、それでもいい。そもそも、もはや帰る場所なんて実質ないんだし。