表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

アーチ橋の上で

「…………はぁ」



 嫌と言うほど綺麗な月の浮かぶ、ある宵のこと。

 ふっと、暗鬱な吐息いきを洩らす。そんなあたしがいるのは、閑散としたアーチ橋の上――その欄干へと身体を預け、玉のような月の浮かぶ水面を独りぼんやりと眺めている。……いっそ、ここから落ちてしまえば――


 ……いや、でもそれで生き残ってしまったら? 耐え難いほどの痛みだけが残り、しぶとく生命いのちだけは残ってしまったら? まさしく、それは最悪。だったら、より確実な方法で死を――


 ……いや、所詮はこれも言い訳……本当は、ただ怖いだけ。生きていたくもないくせに、自ら生命いのちを絶つ勇気もない――そんな、どっちつかずの臆病者に過ぎないだけ。……いっそ、あの中の誰かが本当にあたしを殺してくれたら――



「――香坂こうさか葉乃はのちゃん、だよね?」


「……っ!!」



 瞬間、呼吸が止まる。さながら光の如くパッと振り向くと、そこには――



「――うん、やっぱりそうだ。髪型や色は違うけど、間違いなく写真と同じ子だ」



 そう、飄々と話す真っ黒なローブの人。顔すらほぼ見えてないけど、それなりに高めの身長やローブ越しから想像し得る体格、それから声音などから恐らくは男性かと思うけど、それ以外の情報がまるでない。あまりにも謎なその風貌に、本来なら大いに気になるところではあるけれども……正直、それどころじゃない。あたしの写真を見ているということは、即ち――


「――ああ、逃げなくても良いよ。別に、咎めるつもりなんてまるでないから。どころか、あれが事実であればこの上もなく感謝しているつもりだし」

「……………へっ?」

「それで、肝心なところだけれど……あれは、事実なのかい?」


 すると、逃げようとするあたしの腕をさっと掴みそう口にする怪しい人。……咎めるつもりがない? どころか、感謝してる? ……どゆこと? どれだけ贔屓目に見ても、あれが咎められないこと――ましてや、感謝されるようなことでは絶対にないはずだけど……ひょっとして、あの人にそれだけ……いや、それはともあれ――


「……うん、本当だよ」

「……そっか」


 そう、淡く微笑み告げる。彼の正体も、その言葉の意味するところもまるで分からない。……でも、こうなってはもう隠す理由もないしね。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ