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22.悪役令嬢、危機感を持つ

 そんなこんなで、クレオードを意識し始めて数日が経ったというわけだ。

 当時、私の力が抜けてしまったのは、魔法道具工房でかなり魔力を消費したため、身体に一気に疲労が蓄積したのが原因だった。体内の魔力が減ったわけではないので、一晩寝たら回復していた。


 身体は回復したけど、心はおかしいままなのよねえ……。

 ふとした瞬間、妙にクレオードへ意識が向いてしまう。

 目の前に座る男は、私を好きではないだろう。クレオードとしては、婚約は国王の期待を裏切らないための有効手段だ。

 第一、彼は一時期私を嫌っていた。

 催眠にかかっていたとはいえ、その感情が彼の中に存在したのは確かだ。……恋愛感情はない。


 そうよ、おかしな期待をしてはだめ。今は救世主計画に集中しなければ。

 私がそう結論付けたところで、外からフィンクスがやってくる。


「サファイア国から使節が来てます。応接間で、殿下とお話したいと」


 フィンクスの言葉に、クレオードは怪訝そうな表情を浮かべる。


「サファイア国から? ……わかった、すぐに行く。先にお相手を頼む」


 クレオードが頷くと、フィンクスは「分かりました!」と言って静かに去っていった。


 突然の自国の話題に、私はドキリとする。

 どうやら急用らしいが、いったいなんの用だろうか。


「あの日は怒りで何も言わずに帰国してしまったからな……後で文を送ったが、やはり無礼すぎたか」


 クレオードは親交パーティーの夜を思い出したのか、額に手を当てて深いため息を零した。

 たしかに、あの日のクレオードはかなり取り乱していた。

 私は少し考え、クレオードに頼み込む。


「お願い。わたくしがあなたの婚約者になったことは、なるべく内緒にしてほしいの」


 最低限エメラルド国にいることは知られても構わないが、地位を取り戻したことを知られては都合が悪い。無闇な諍いが生まれてしまうかもしれないから。

 あちら側には、私は力のない罪人だと思わせておいた方が良い。

 私の意図を汲み取ったのか、クレオードは「もちろん」と笑う。


「復讐のためにも、君の存在は隠しておいた方がいいだろう。父上や母上にも簡単に事情を話しておくよ」


 クレオードはそう言って、「行ってくる」とジャケットを羽織り、屋敷を出て行った。


「使節って誰かしら……まさか、ユリウスじゃないでしょうね」


 気が重くなり、息を吐き出す。

 この国でユリウスと鉢合わせでもしたら気まずいどころではない。面と向かって非難されるに決まっている。

 また惨めな思いをするのは……あの薔薇の紋様が刻まれた瞳と視線を合わせるのは嫌だった。


 日が暮れてしばらくすると、クレオードが少し疲れた様子で帰ってきた。外交に気を張っていたのだろう。

 ディナー後の紅茶を飲みながら、彼は詳細を話してくれた。


「やってきたのは宰相様と騎士団長だった」

「騎士団長?」

「うん、あの夜の無礼はあまり怒っていないようで安心したよ。今回の要件は、最近の魔物の動きを見てサファイア国とエメラルド国の関係を強化したい……という話だった」


 私は首を傾げる。


「同盟を組むの?」

「いいや、そこまでは考えていないそうだ。同盟を組むとなれば、他国の情勢も鑑みなければならないからな」

「へえ」


 私は使節の訪問の理由に納得しつつ、その人物に引っ掛かりを覚える。


 ……あのアイクがやってきたの? わざわざ?

 アイクとはサファイア国の騎士団長で、薔薇恋では攻略対象の一人だった。作中では人一倍彼女への愛が強く、「なんとしてでも守り抜く」との誓いを立てていたのを覚えている。歳が近いユリウスとも親交が深く、従順だ。

 騎士団を統括する立場のため、国から離れることはほとんどないはずなのだが。


 クレオードがティーカップを置いて、私を見据える。


「君のことも聞かれたぞ」

「えっ」

「この国にマリーゼ・ジルベールはいるか? って。とぼけておいたが、なんか怪しまれてるかもな」

「そうだったのね……ありがとう」


 まさか、サファイア国側は、私がエメラルド国に逃亡したことに気づいているのだろうか。

 それで、アイクがユリウスに命令されてここへやってきたとか。そうならば、いったいどこで知ったのだろう。


 これは、やっかいなことになったわね……。

 アイクの生得能力は、感知魔法。特定範囲内にいる人間や動物を全て感知することができる。認識済みの対象ならば、個体の特定も可能だ。

 アイクがこの国の王宮に泊まったのだとしたら、私が今いる屋敷は射程範囲内てある。彼が魔法を使っていた場合、私の居場所は既に知られてしまっているだろう。


 ふと、クレオードの背後にある窓の外に目をやると、夜空にきらりと星が落ちるのが見えた。変哲もない星空だ。

 だけど、妙に胸がざわめく。誰かに見られている、そんな気がする。 

 アイクの魔法を思い出したせいで敏感になっているのかもしれない。

 気をつけなければ、と私は拳を握りしめた。

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