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16.悪役令嬢、狩りをする(上)

 アルジーに別れを告げて魔法道具工房を出た後、クレオードと私は馬を引いて歩いていた。

 ちょうど太陽が輝く昼時なので、近くでランチでもしようという話になったのだ。


 私は腰に提げた、アルジーから貰った短剣を見つめて口を開く。


「……ねえ、思いついたんだけど、わたくしが王宮で魔力を供給し続ければ、この国もサファイア国みたいに魔法大国になれるわよ?」

「え?」

「この国に連れてきてもらったんだし、計画まではずっと力を貸してあげてもいいわ。王宮での生活も慣れっこだしね」


 魔法道具工房で、保管装置に魔力を注いでいるときに考えていたことだ。

 もしも、自分がエメラルド国の役に立つことをするのならば、サファイア国にいた頃と同様に王宮の地下で供給を担うのが一番効率的だ。


「そんな、君を閉じ込めるようなことはしたくない。エメラルド国はサファイア国とは違う。別に、魔法がなくたって人間は生きていける。実際、魔法がなくともこの国はあの国よりも発展してるだろう」


 私の提案に、クレオードはゆるゆると首を横に振った。


「それはそうだけど……」

「マリーゼはさっきのように、自分が力を貸したいって思ったときに魔法を使えばいい。君には君の自由がある。俺たちが君に頼りきるのはよくない」

「そう、あなたって本当に優しいのね」


 真っ直ぐ目を見て語りかけてくれるクレオードに、胸が熱くなる。この男はいつも私に、自由に生きていいのだと教えてくれる。


 二人並んで歩いていると、突然、森の奥からパァン! と激しい音が鳴り響いた。銃声のような鋭く重い音である。


「なんの音……?」


 私がぎょっとして身体をびくりと揺らす。すると、クレオードは庇うように肩を抱き寄せた。


「え」

 

 思わずきゅんとしてしまう私に対して、クレオードは空を見上げて平然と返す。


「狩りだよ。ハンターが獲物を狩ってるんだ」


 そうだった。この世界にはあちこちに野生の獣がいて、ハンターがいるのだ。


「あなたもできる?」

「まあ、ある程度は」


 クレオードは頷いてみせる。

 この世界で、狩りに特別な資格は必要ない。ハンターというジョブになるには認定がいるが、そうでなくても獲物を狩るのは法律上許されているのだ。


「本当? 見たいわ!」

「今はなんも持ってきてないんだけど……って、そういうことね」


 私が期待の眼差しを向けると、クレオードは「わかったよ」と頷き、真剣な表情になって手を空にかざした。


「木材はオーク。弦には耐魔性を持つ獣毛……芯に魔力を通す導線も入れておくか」


 そう呟きながら、空間に指でなにかをなぞるように動かしていく。その軌跡に沿って、淡い光が編まれ、形を成していった。

 やがて、しなやかな曲線を描いた弓と、鋭い矢が数本、浮かび上がる。

 クレオードはそれを手にして自慢げな顔をする。


「ほら、この通り創ったぞ」

「ありがとう! ハンカチーフをくれた時も思ったけれど、本当にすごいわね……!」

「ふふん、そうだろう。そんなすごい俺に対して、君は少々扱いが雑だな」

「でも、わたくしがいればあなたの弱点を補えるでしょ? ……もしかして、創造魔法って結構疲れる?」


 魔法を使うのには副作用が伴うこともあるが、自ら魔力供給のできない人間は私よりもずっと疲れるのではないか。


「いいや、マリーゼのおかげで全然魔力を消費しないし、疲れない。君の近くにいるだけで、いつもより速く自然回復もできてる気がするんだ」


 クレオードは、私を励ますように笑って言う。


「まあ、そうなのね」


 私の近くにいれば、魔力連携魔法の恩恵を受けられるとは知らなかった。王宮では元から人々に魔力を供給していたから、気づかなかったのだろう。

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