テスト前日、部屋の掃除をしていたら、死体を見つけてしまった
明日はテストだ。それもかなり大事なやつだ。
当然それに向けて対策やら準備をしなきゃいけないわけだけど、どうもその気になれない。今一つ、やる気が出ない。
しかし、準備なしにいい結果を残せるわけはないわけで……。
時計を見ると、夜の8時過ぎ。とにかく何かしなければ、という焦りは募っていく。
周囲を見回す。
俺の部屋は、床に物が散乱していて、ちょっと汚い。
そうだ、掃除をしよう。
掃除して、部屋がピカピカになったら、やる気も湧いてくるかもしれないぞ。
そうと決まれば、俺はさっそく部屋の掃除を始める。
床に放り投げられた服はきっちり折りたたむ。
ティッシュの箱も所定の位置に置く。ゴミ箱も部屋の隅にスタンバイ。
雑誌なんかは机の上に置く。
ついでに掃除機なんかもかけちゃったりして……。隅々まで丁寧に……。
だいたい一時間ぐらいかけたら、床はすっかり綺麗になった。
おおっ、やればできるじゃないか。自分で自分を褒めたくなる。
時刻はまだ夜の9時、今からでも準備をすれば、明日のテストはいい結果を出せるはず……。
だが、本棚が目についた。
本棚には漫画があるが、並び方がムチャクチャで、どうも汚い。
これも整理しなきゃ、という義務感に駆られる。
俺はある漫画の一巻を手に取る。
そういえば最近読み返してなかったなと思いつつ、ページを開く。
すると――面白い。
本棚に入ってた漫画なんだから内容は知ってるんだけど、久しぶりに読んだからか、細かい部分は忘れており、やけに面白く感じる。
一巻を読んだら二巻、二巻を読んだら三巻、てな具合に読む手が止まらない。
気づいたら全巻読んでしまっていた。
こりゃさすがにヤバイと思ったけど、時間はまだ夜の10時。
朝までには十分時間はある。大丈夫だ、まだ慌てるような時間じゃない。
ふと、俺は自分の机の引き出しを見る。
そういえば、引き出しの中はまだ手をつけてなかったな。
引き出しを開けると、そこにはアルバムが入っていた。
うわ、懐かしいな……。
アルバムを開けると、子供の頃の俺や、学校の仲間たち、教官なんかも写ってる。
なんだかみんな初々しくて、いい顔してるぜ。
ページをめくるにつれ、みんなの顔つきも逞しいものになっていき、時間の経過を感じさせてくれる。
たっぷり昔を懐かしんでいたら、すっかり時間が経ってしまった。
時計を見ると、11時を回っている。
試験の準備をしなきゃならないが、まだその気になれない。
俺の視界に押し入れが映る。
ああ、そういえば押し入れが残ってたな。掃除なんてのは押し入れやらなきゃ意味ないみたいなとこあるし、ちゃんとやらないと。
押し入れの戸を開けると、中にはたくさんの道具が入っていた。
えーと、ナイフにノコギリ、針、ロープやワイヤーもある。
懐かしいなぁ。昔は俺、こういうの使ってたっけなぁ。
道具の一つ一つに想いを馳せながら、押し入れの中を整理整頓していく。
そして、ちょうど日が変わるぐらいの時刻の頃――
「あっ!」
押し入れの一番奥で、俺はあるものを発見した。
これは……死体だ。
俺は死体を押し入れから出すと、検死を始めた。
性別は男、年齢は20代から30代、体格はがっしりしており、服も着ている。
外傷はなく、首にロープで絞めた跡がうっすら残っている。
死因は窒息死で間違いないだろう。
死後一年は経過しているが、防腐処理が完璧に施されており、臭いもしなかったので、俺もずっと気づかなかった。
さて、誰がこいつを殺ったのかというと――他ならぬ俺だ。
ちょうど一年前、腕試しのつもりで殺ったのだ。
といっても、道端で酔って絡んできたのはこいつの方だったし、俺に落ち度は一切ない。
多分俺は、絡んできたこいつをサクッと殺して、防腐処理を施して、押し入れにしまい込んでしまったのだろうなぁ。
このまま放っておいても別に困ることはないし、また押し入れに戻そうとも考えたのだが、俺はふと思いつく。
そうだ、この死体は利用できるぞ!
時計を見るとすでに1時を過ぎていたが、俺にとって、そんなことはもうどうでもよかった。
俺はこいつをこの部屋から“消す”作業に夢中になって取り組んだ。
***
一週間後、俺は教官から呼び出される。
テストの結果についてだろう。
黒い制服を着た教官は、めったなことでは見せない笑顔を俺に見せてくれた。
「今回のテスト、とてもよかったぞ! 満点だ!」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げる。
「今回は標的殺害後の死体処理の実技テストだったわけだが、他の者はみんな痕跡を残したり、死体の扱いに手を焼いたり、どこか詰めが甘く、満点合格者はなかなか出なかった。しかし、そんな中、お前だけが満点だ! 本当によくやった!」
あの日、押し入れから出てきた死体を使って、俺はじっくりと死体処理の予行演習をすることができた。
おかげで俺は、通っている暗殺者養成学校の実技テストで、満点を取ることができた。
いい成績取ると学校からの扱いもよくなるし、こうして褒めてもらえるとやっぱりモチベも高まる。立派な暗殺者目指して、これからも頑張るぞ。
いやぁそれにしても、やっぱり試験前日にはきっちり準備しておくことが大事だな。
おわり
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