07話
クラウディアの踏み入れた足から、手から、胴体から、そして頭から、その敷地に入った瞬間に目には見えない異質の空間に入った感覚を脳が感じ取った。それはいわば、水の膜が張ってあるところを通過したような感覚。先ほどまで居た空間を外側とするなら、その膜を越えた空間は内側で、その内側の空気感は外と比べて重みがある。
膜を超えた瞬間、先程まで聞こえなかった騒騒しい音が耳を刺激した。
目の前には今まで見掛けなかった兵士達の姿。50名ほどが2人1組になって相手を攻撃している。ある者は剣を使い、ある者は槍を持つ。みな同じ白銀の西洋甲冑を見に纏っている。
(驚いたな……これは、地稽古だ)
兵士達の戦う様を見学していると、面白いことが分かった。それは武器から炎や水、電気などが出ていたり、人によっては手を翳して防護壁を作り出す者や、地面を変形させて土の壁や武器まで作る者までいて、多種多様だ。
恐らく彼らが出す騒音や魔術が外に出ないように、聞こえないように膜が張られているのだろう。
(これが、魔法世界の戦い方。各々異なる能力を持ってるみたいだが……見ていて飽きないな)
クラウディアが棒立ちになっていると、恐らく上官の1人らしい人物が近付いてきた。
なぜ上官だと分かるか? その人は周りの兵士達には無い金の模様が甲冑に装飾されていたし、指導する側の人間らしく地稽古には参加せずに兵士達を見ていた中の1人だったからだ。
その人が彼女の前まで来て、話し始める。
「フィンレー殿、もう体調は宜しいのでしょうか?」
(知り合いか)
「はい。身体の方はお陰様で大分良くなりました」
無表情の男に、にこやかに回答する。それに男は少し驚いた様子を見せたが、すぐに表情を戻して会話を続ける。
「それは良かったです。ーーーーそれで、帰隊後すぐで申し訳ないのですが。隊長がまた体調を崩されたので、お願いできますか」
えっ、と口から声が漏れた時には、男は既に踵を返し隊の方へ戻ろうとしていた。彼の行く先に視線を向ければ、また一段と立派な装飾をした男が剣を地面に突き刺し立って、真っ直ぐに兵達を見据えている。
(隊長って言ってたから、彼がそうかな。一番装飾が華美だもんな)
クラウディアがちらりと先程の男を見たら手招きしているので、慌てて彼等の方へ走って行く。
「……隊長、フィンレー殿と休憩しに行ってきてください。ここは自分とアレクが見ますんで」
少女が来るや否、男は隊長にそう言う。それに対して言われた方は身体を微動だにせず、紅の目だけをこちらに向けてきた。ジロリ、という擬態語が聞こえてきそうな眼圧だ。
ーークラウディアは何かその目に見覚えがある気がした。