備忘録
備忘録
記
あの夏の日、私は確かに死んだ。が、不思議なことに怜弌の記憶を持ちながらも、こうして令嬢としての人生が始まった。
考えを整理する為にも、この数日過ごして得た情報を整理する為にも、ここに書き記そうと思う。
これは、自身の経験と、エミリアやメイド達から聞いた事だ。
【 生活について 】
これを書くにあたって気付いたことがある。今書いている文字はアルファベットに似通ったものだが、これを一切の迷いも無く書き綴っている。恐らく、日常生活で身に染み付いているものは、このように容易くできるのだろう。
【 家族 】
私の名前はクラウディア・フォン・フィンレー、17歳。
レイモンド・(省略)・フィンレー侯爵を父に持ち、兄アーサー、妹エミリアの3人兄妹。母は既に鬼籍に入る。
フィンレー家は代々オストランド国に仕える由緒正しい家柄で、優秀な魔術師を多く輩出している。現に父レイモンドは侯爵として国境地域の防衛や統治に従事しており、兄アーサーは王宮で呪文師として働いている。私も既に軍人として在籍していて、所属は近衛。王直属の兵士だ。妹エミリアは、国が所有するオストラント魔法学校の最上級生で、次の秋になったら卒業し、軍に入隊する予定。
どうやら魔法を使うのに魔力が要るらしく、その魔力を持って生まれる確率が王族貴族に多い……というのも、この国では魔法で武功を立てた者には称号が与えられる。武功が積み重なり、称号のランクが上がり、それがいつの間にか貴族になる。その魔力のある血が脈々と現代まで受け継がれているので、必然、強い魔力を持つ者が貴族に集中する。
また、血に魔力は宿るので、魔力がある者同士が結ばれて子を成すと、その子もまた魔力を持って生まれてくる。そうした流れを繰り返していけば自然と、国で権力を持った人間というのは、当然魔力のある人間ということだ。
そういうわけで、私達兄妹もご多聞に漏れず魔力を持っている。アーサーは言葉に魔力を乗せて具現化させる能力。エミリアは動物を操る能力で、多少の治癒も可能とのこと。私は猛毒や業火生み出す殺傷能力が高い能力だそうで、試しにやってみたいと伝えたところ、危ないので止めろと断られてしまった。
なので、怜弌の意識を持って目覚めてから、まだ自身の魔力というものの実感がなく過ごしている。
【 魔法と世界情勢 】
この世界では魔法が使える。
魔法が使えると聞くと、何でもできる、便利だと思ったものだが、そう云う訳でもないらしい。
基本的にこの国では魔法を使えるのは軍事目的の時だけ。主に人々の生活は魔法に頼らない様式をとっており、災害や事故の時、式典の時などの非常時において魔法を発動する。
これは国民の平等制を守る措置らしいが、正直守られているかは不明とのこと。
先ほども触れたとおり、魔法とは軍事力だ。国がどれだけ多くの魔術師を持ち、どれだけ優秀な魔術師がいるかで、その国の軍事力は変わってくる。
国にとって魔術師の確保は最優先事項と言ってもいい。なんせ、武力なき国は他国に侵略されるような世界だから。
どの国も魔力を持つ者を欲しがる。特に、戦闘能力の高い魔術師を。それを鑑みて、私は超優良株なのではと問えば、実際にそうらしい。