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12話


 エミリア・L・フィンレーは、今の生活を心から楽しんでいた。少し前もそれなりに楽しんでいたが、前世での高祖父が今世での姉に乗り移り……ではなく、高祖父の記憶のみで構成された今の姉との生活はとても楽しいものになっている。


 特に、昨日から姉・クラウディアは職場復帰して軍人としての城勤めが始まったのだが、そこで面白いイベントが発生するらしく、心浮き立ち幸せを噛み締めているところだった。


「それはーーーー舞踏会!!!  あぁ……なんて心響く言葉なの……!?」


 そうして夢見る少女は自室で、くるくる踊ったり飛び跳ねたりベッドに飛び込んだり、自分の使い魔(ファミリア)に抱きついたりして喜びを抑えきれない様子でいる。


 それを同じ部屋で見ていたクラウディアと使用人のアン、そして兄のアーサーは、静かにその様子を見る。クラウディアとアーサーはそれぞれのソファに腰掛け、アンは部屋の扉付近の壁際に立つ。


「ねぇ! しかも、オストラント校の7年生も参加していいってことは、あたしも参加できるのよね!! 参加できるの〜〜〜〜!!!」


 国立オストラント魔法学校は、その名の通りこの国所有の魔法を教える教育機関で、この世界では魔法こそが軍事力であり国力である。その為、どれだけ才能のある者を見出しその能力を最大限に活かす為に教育できるか、自国の所有にできるかというのは、この魔法世界で政権を握る者にとっては第一課題といってもいい程の重要事項だ。


 一頻(ひとしき)り踊って歌って満足した末妹は、いい笑顔で兄姉達に向かって行く。


「もちろん、アーサーもおじいちゃんも参加するのよね?」


「エミリー……その………おじいちゃんって呼ぶのは、どうなのかな? ディアも高祖父だった記憶があると言っても、さすがに今は女の子なんだし、嫌なんじゃないの?」


 エミリアの問いかけに、アーサーが優しく諭す。

 

 あのあと庭園から城に戻るときに、普律(ふりつ)が兄の研究室まで送ってくれた。最初部屋に入った時は本の山に埋もれて、分厚いメガネを掛けた、髪もボサボサ服もよれよれ、髭も伸びっぱなしの、あまり清潔に見えない男だったが、休日の今日、癖がありそうなブロンドヘアもきちんと整え髭も剃り、服もピシっとアイロンの掛かった質の良いものを着ている。なにより流石貴族の御曹司というべきか、物腰柔らかく教養や育ちの良さが見え隠れする所作、表情、言葉遣いでクラウディアを感心させた。それに、この2人の兄なのだから、むろん容姿も良い。正統派王子の面構えをしている。

 また、普律が退室してから記憶のことを話せば、ことのほかクラウディアに同情をし、全面協力を惜しまないと約束してくれた。情にも厚い男なのだろう。


「別に私は構わないけど、周りの人が混乱するといけないから今の名前の方が良いかもね」


「そっかぁ……じゃあ、クラウディアお姉様? アーサーみたく、ディア?」


「フォンは? ミドルネームの。もう、そう呼んでた奴がいたから。……仲の良い間柄で呼び合うんだろう?」


 言ったクラウディアに対して、2人は驚いた顔をする。


「仲が良いの種類が違うかな」


「そうね。この国では、恋人とか夫婦が呼び合うのにしか使わないかも…………」


「あっ、ああ! そうなのか!! あーじゃあ、お姉様呼びは違和感あるから、ディアで良いよ」



 ーーーーなんとなく、普律とのことは言いたくなかった。いずれにせよ、舞踏会が終われば別れるのだし。



 物言いたげな2人の視線を(かわ)そうとして、席を立ち退室しようと扉に足を向ける。呼び止められそうな気配を感じつつも、無事に扉の取手に手をかけるところまでいけた。が、やはりそう上手くはいかない。


「ディア。まだ話は始まってすらないよ。……君のミドルネームを呼ぶ人間のことは追求しない。君が話したくなさそうだからね。でも、僕らはこれからのことーー特にこれから迎える舞踏会のことなんかを話し合う必要がある。そうだろう?」





 


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