11話
この男は、自分達ーーつまり、クラウディアと隊長ーーが交際していると言った。
「えっ、え。どこまでした? いつから?」
「あ"ーークソッ…………あんまこういうの恥ずいから、言いたく無いんだよな……」
「でも、大事なことだ。茶化してるつもりはないよ」
「ほんとかよ……」
正直、怜弌は動揺している。前世で男同士親友だった男と、現世では男女の仲だという。怜弌の記憶を持った今、これまでのように隊長とクラウディアが付き合うことは難しい。気持ち的に。
「……3ヶ月前から付き合い始めて、キスが……数回」
この男、顔が真っ赤である。首筋もほんのり赤いのは、この話題を出してからだった。まともにクラウディアの顔が見れず、あさっての方向に顔ごと背ける。
「……………それだけか?」
「それだけかって…………そうだよ」
クラウディアは肩透かしを食らった。想像以上に元親友が純粋であったことに。
「あ、いや……それならそうで良いんだ。随分と純朴なお付き合いをしていたようで……安心したよ」
「……互いに、真剣だったからな。下手なことして嫌われたくねぇし」
へー……と、怜弌は感心した。それと同時に、そんな真剣なお付き合いをしていた2人ーー1人は自分なのだがーーを、これから別れさせる罪悪感を感じていた。
「……お前の考えてること、分かるぜ。だが、少しだけ待って欲しい。1週間後にホウノ国との合同訓練があるんだ。その前日に舞踏会が開かれるんだが、俺達そこで一緒に踊るパートナーの約束をしてたんだよ。もう時間も無いし、それが終わるまででいい、別れるのは待ってくれないか? もちろん、キスとか恋人らしいことはしないと約束する」
「……わかった」
しばらく沈黙が続く。互いに物思いにふけて、あらぬ方を見て時を過ごす。
先に口を開いたのは男の方だった。
「そういえばお前、フォンの記憶無いって言ってたよな? 魔法は使えるのか?」
「あー……それが、彼女の能力は殺傷能力が高くて周りを巻き込むとコトだからって、まだ試してないんだ。私はやりたいんだけどね、止められちゃって」
そういうことか、と独りごちて隊長は首に掛けていたペンダントを取り出す。
それは人の眼球ほどの大きさの、透明な石で、よく見ると金色や虹のような筋が見える。
「それは……?」
「これは魔法道具のひとつで、結界を張ってくれる優れもんだ。ここだと人の魔力を吸っちまうから、人が結界を張るには面倒な場所だが、魔法道具であれば効果テキメンってな! ……フォンもよくここで魔術試してたぜ」
言って男は石を空に投げる。天高く上がったそれはそこで止まり、虹色で透明の膜を地面までするすると降ろしていく。
「これは、さっきの……?」
「いーや。これは演習場のより強力なやつ」
隊長だから良いのを持ってるのかな、とクラウディアは頭の片隅で疑問を解決させた。
そうこうしている間に膜は全面しっかり地面に根差し、それを確認した隊長は声を掛ける。
「さて、やるか!」