08話
地稽古をしている兵士達は皆、顔まで隠れる兜を被っていたし隊長も同様だったが、クラウディアに話を付けてきた男と他一名は兜を脱いでいる。
その兜というのは頭から顔全面に覆われた物で、目と口元の辺りがY字に穴が開いたデザインだ。
だから、隊長の顔がどのような顔なのか、ましてや顔色を見ての具合の悪さがどんなものかは、兜の外からは分かりにくかった。
それでも、この男に何かを感じたのはクラウディアの記憶が蘇ったのか……? と、思案してみるも、惚けた彼女をせっつく例の男がいたので、それ以上は考えるのを止めた。
「あ……じゃあ、行きましょう。どこがいいですか?」
流れに流されて、自分の記憶喪失のこと、それを相談する為に兄の元へ行く途中だったことを伝えそびれた。
(でも「帰隊」と言ってたし、クラウディアの所属はここみたいだから、とりあえずこの隊長にも後で話すか)
隊長に近づくと、その大きさに関心した。背が、じゃない。いや、背も高いだろうが、そうじゃない。圧というか、空気、オーラとでもいうのだろうか? それが、彼をより大きく見せている。
その隊長はしばらくその場で動かなかったが、意を決したように一つ溜め息をついてから、地面に刺さった剣を引き抜き鞘に収めた。そしてクラウディアを一瞥すると、彼女が来た方向とは逆のーークラウディアが向かおうとしていた方へーー歩み始める。