ひまわりの瞳に恋してる
「やぁひまわり君。ご無沙汰しているね」
「烏水さん! こんにちは。ご無沙汰って昨日もお会いしましたよね」
「そ、そうだったかね。まぁいいじゃないか。ところでこのあとは暇かな。先日我が社が統括しているグループで英国菓子と茶葉を取り扱ったカフェがオープンしてね。これから顔を出そうと思っているんだが、君も一緒にどうかな」
「そんな! 大丈夫ですよ! 社長さんの烏水さんが顔を出すってことは仕事の一環ってことですよね。迷惑になってしまうと思うので遠慮しておきます。お誘いいただいてありがとうございます。今度一人で行ってみますね」
また白昼堂々とやってるよ。
烏水の斜め後ろに立ちながら、月岡はうんざりした様子でやり取りを聞いていた。
いきなり車を止めろと言われた時は何事かと慌てたが、柄に似合わず飛び出していった社長の視線の先にいた人物に長いため息が漏れ出てしまった。
業界では「傲慢で高飛車な帝王」と称される烏水が、形なしになるほど熱を上げているうら若き女。
真夏の日差しに負けない輝かしさを咲き誇らせる花を表した人物──西條ひまわりがいた。
主に同僚の田中森から話は聞いていたが、確かに「向日葵の君」というあだ名が似合う女だ。
(しかし社長も苦労してんな)
溌剌とした雰囲気ではあるが、一見どこにでもいそうな平凡な女だと月岡は思う。だからなのだが「まさか社長である烏水が好意を持っている」なんてことは微塵も考えていないのだ。
「そ、それなら! その時は僕と一緒に」
「多忙な烏水さんを煩わせられないですよ! 感想お伝えしますので」
現に今も無自覚に好意を一刀両断してみせた。連日ひまわりを見かければあの手この手と誘ってみせる烏水の面子が丸つぶれである。
(でもまぁ)
それでも烏水はへこたれず、ひまわりへの想いを一直線に向けている。
大輪の花と同じ名の瞳がいつか社長を見つめ返すのを期待しながら、月岡はそろそろ業務に戻るようにと伝えることにした。