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何でもいいや

適当に書いてます


入学式の日も終えて友達がすぐ出来る〜なんてのは才能だ。けれどまぁ変な話、校歌を真面目に歌ったら数人が僕の席に屯していた。


人の視線に慣れていなくて、輪の中心にいるのが最高に居心地が悪い…。目眩がする。


「一年だーれも歌ってなかったのにお前すげぇな!」ガハハハハハハ!


「歌ってなかったの!?」


生徒手帳を開いて必死に音調を合わせようとした僕は赤っ恥を掻くことで有名人となっていたのも素直に喜ばしい事じゃない。まぁ要するに馬鹿にされてるのだ。


周囲が誰しも口を紡ぎ、在校生の声がこだまする体育館の中で僕は一人だけ声を上げていた。

当然浮いていて、周囲の空気に馴染めている気がしたのだけれど一年の中では見事に独奏を務めた。

何故か担任の先生が馴れ馴れしかったのを覚えている。入学式途中から参加した身の上なのに、対してお叱りを受けなかったのはそのせいなのか、関係ないのか。何にしても周囲の方々はそんな僕を笑う事で大盛り上がりだった。


ちょっと辛い。けれどまぁ、ある程度慣れてたこともあって無傷だ。


それに漫画や小説に出てくる主人公はこういう時、塞ぎ込むことも多いけれど、いつだって僕は最後の成長しきった顔を見ている。その上で、その上でこういう選択ができる。


「君たちより僕の方が強いって事でいい?」



「空気を読む事ができる人間でよかったね。」


それだけ言うとすっと静まり返った。正面きって僕の言葉を食らった誰かはぐっと何かを飲み込むように顔をこわばらせた。


僕はこの瞬間、あっやばい。と思ったのだけれど時すでに遅し。


拳が飛んできた。


ここでカウンターを食らわせていたなら優秀だ。

だけど僕は割と平凡だし、何かに意欲的にならない人生を送ってる。だからこそ、何の取り柄もないし、いつだってどこかの主人公に憧れてる。


これから先、どんな事が待っていても。だけど僕は慣れている。これから先、何があっても、僕の身体は痛いだけ。心に一度だって傷はつかない。


好きなようにしてやるとあの瞬間、冬の季節に誓って全部放り投げてやった。その結果として自分がどれだけ空っぽだったのかを思い知ったのだけれど。


それでもこの瞬間に一切の後悔はない。


気を失いそう。普通、それだけ言っただけで殴られるなんて彼はあまりにも短気なんだろう。気をつけなきゃ。だけど、殴られる覚悟はいつだって持つことにしよう。


『お前はみんなから嫌われてたよ』


『俺が友達でよかったな?』


嫌われ者でいい。だから好きなようにだ。


___入学式だよね?

入学式初日濃すぎる。なんで今保健室にいるんだろ。

遠くの方でごたつく音がして、僕のすぐ横には三峰さんがいた。入学式の後の説明会や道具を買うターンはものの見事に不意に終えてここから見えた壁掛け時計は無情にも課外時間を指していた。

眠りすぎ、普通病院とかに連れていかれていいんじゃない?そう思ったのだけれど、意識ぼんやりにすぐに目覚めた後のことを思い出して教室に戻りにくくて殴られ被害者の特権を活かして保健室に立て篭ってふて寝したんだった。

後日また教材とかは買うし、必要な道具が揃えれば後は淡々と学校に通うだけ。別にこの事からくる支障はないので、この時間まで眠れたのだろう。


「…きたきた」


三峰さんは優秀なランドセルを読んでいた。最新巻だし、僕の鞄は勝手に開いてるみたいだし、完全に僕の私物だ。リアルじゃないから嫌いだとか嘯いておきながら目が齧り付いているし、小声で唸ってる始末だ。

素直じゃないのか、読んだ事もないのに適当に言ったのか、だとしてもどちらにしても僕からの最初の心象は悪かったのに。あの人と比べれば落ち着ける空間なのは何故だろうか。


「勝手に他人の本を読まない」


「うわぁっ!!!」


漫画が跳ねた。最新巻だし、態々学校に持ってくるって事はまだ一読もしてないところもある新品なのだけど、天井と僕たちの中間までふわりと浮き上がった。


「勝手に他人の本を投げ捨てない」


どさりと地面に落ちて何枚かの頁は折れ曲がったけれど対して気にはならない。元より僕は本の扱いは粗雑な方だったのもあるのかもしれないが。


「いや起きてるなら起きてるって言ってよ!」


「さっき起きた。待ってたの?」


言いながら自分に酔ってる気がして頬を叩きたくなったが、まぁもうどうでもいいと思えるのは不思議だ。


「お世話になったからお礼がしたかったし」


「…まぁ結局遅刻したんだからお礼なんて」


「したかったから!それに帰りも分からないから!」


「もう普通に親を呼べばいいのに」


「男子と帰ってるところ見られたら変な勘違いされるから」


「だから僕を置いていけば」


「お礼はさせろ!」


最早強引だ。そして何よりここまですらすらと会話できることに充実感があった。思えば家族と話すときにすら僕は口籠る事が多かったのに不思議な事に彼女に対してはすらすらと言葉が出てきた。鞄を手に取った三峰さんを見て、僕もまた鞄の開いたチャックを締めてから持った。そして気付く


「教材とかどうしたの?」


「入学式に来てた親に全部渡した」


もうそのときに送って貰えば話は早かろうに。

ていうかそうか、僕の親も来てた筈なんだよな。

薄情にも今の今まで殴られた子に顔を見せないなんて変な親だ。けれどこういうところが気楽でいいんだ。


ふとすぐ重くなるから鞄の底に沈んでいた携帯を手に取った。案の定、グループチャットの家族からのメッセージが来ていたのだが、それは前を歩く彼女が危惧した通りの事が起こっていた。


…最悪だ。いやもう。はぁ…。


三峰さんと母さんがツーショットだ。


「……あーーーーー」


「なに?」


「変な勘違いされてるんだ」


「あーー…どんまい」


何と淡白な…。なんて話そうか、友達だなんて言ったところでそれはそれで…。もう敢えて何も言わない事にしよう。携帯は再び鞄の底に沈めた。


また再び触ることの方が気が重い。ていうか態々家族間の共有にしないで欲しかった。


「何して欲しい?」


「弁め……いや何でもいいや」


「じゃアイスね。ここら辺から近いコンビニはっと」


あっちは通信量とか気にしないらしい。もしかすると制限は無いのかもしれない。携帯に備え付けのマップで器用に扱ってるところを見るに頼もしさすら感じる。なのにどうして電車のホームを間違えるのか。


今にして思えば僕もよくよく確認していたなら気付ける瞬間は幾らでもあった筈なのに、はぁ。でも三峰さんと会えてよかったかもな…本人には言わないけど。


あの人たちよか何百倍だって居心地が良い。

時計は14時。別に茜色に差すわけでも無い校舎に人気はなくすいすいと昇降口へきて、自分の靴が入った来客用の靴箱の前に立った。


「そういや僕の靴箱とかどこになったんだろ」


「あっそうだ、上靴入れて帰るんだった」


言いながら彼女はそそくさとどこかへ駆けて行く。

僕は僕で気になったので職員室の方へと赴くことにする。殴られた箇所は思ったより痛くはないから気にする事はなかったけれど彼女の目が一々そこに向いていたからどんなものになってるかは気になっていた。


「大丈夫そうだな」


自分の名前を読んで礼儀正しく先生を呼んで下さい!というポスターがドアの横に張り出されていたのでその通りにして、遅刻した僕たちを応対してくれた人の名前を言いかけたところですぐにひとりの先生がこちらに駆け寄ってきた。体育系の男性教師にも見えるのは頼もしそうという所感からだろうか。


「まず紹介させてくれ、お前たちの担任になった渡鉄平だ。入学式の後にすぐに喧嘩とはな…もういいのか?」


「大丈夫です。痛くはないので」


「…痛そうに見えるが」


「見掛け倒しですよ。」


そんなに酷いのか…。まぁ気を失うくらいに重いものを貰ったのだろうが、相手はボクサーだったのだろうか。それもこれもどうでもいいけれど。


「それならまぁ、俺が言うのもなんだか。良かった。殴った永井にはキツく叱っておいた。すぐに保健室に運んでくれた宮島には礼を言っておくといい。あと…病院に送ってやろうか?」


…そこだけ切り抜くとヤンキーの常套句にも聴こえてきて可笑しかった。不器用そうな先生だ。愚直に真っ直ぐに物を捉えてその結果、言葉の繋ぎ方が継ぎ接ぎになっている。言いたい事が多くてそれら全てを言い切ろうとしている。


まぁ言わんとしてる事は全て通ずるのだから不器用だろうと綺麗に言葉を紡ぐ必要はない好例だ。


「友達待たせてるんで、自分の足で後で行きます。」


「そうか…ならいい。後は何か用事があってきたんだろう?」


「靴箱の場所が分からなくて」


「テープが貼ってある…そうか遅刻してきたから案内もされてなかったんだな。1年4組の靴箱は1番右端だ。」


それだけ聞いてお礼を言ってそそくさと昇降口に戻って、言われた通りの場所に足を運ぶと三峰さんが低い靴箱のすぐ下の地べたに座って靴をかつかつと鳴らしていた。僕は元より靴箱に入れるものはなかったからか一つだけ開いた靴箱がよく目立った。彼女はそこをじっと見ているようで、こちらの視線にも気づかない。


鮮烈だった。


春の日が昇降口から学校の奥まで入ってくるような、その奥に見える青い空がよく見えて、飛行機雲まで鮮烈に映った。グラウンドの前に立った旗がよく翻っていて、風は相変わらず暑そうな外を涼しげにした。


彼女はそんなところへ溶け込むように青く光っている。この光景を僕はよく知っている。

漫画の一コマだ。そして大きな見出しで読者を惹きつける瞬間だ。


よくよく思っていた。中学の時からだ。

憧れる度に現実の齟齬を感じた。思ったより冷たくて、ふとした瞬間に崩れる薄氷を僕は見ていた。


実際に簡単に崩れた。あの言葉を聞いて僕は携帯を投げ捨て、そして一切の交流を一切合切の交流を全て切り捨てた。


簡単に壊れた。そして僕の目にはより色濃く、漫画に映る青春という二文字が鮮烈に見えていた。


青い春とは青い空の事だったのかと、この瞬間に僕の胸を打ち抜いた。これは友達だ。

彼女は友達だ。そう強く強く、僕の頬を上に引っ張り上げた。


顔面を殴られて可笑しくなったのかもしれない。

だけど僕の足取りはハッキリと彼女の下へと駆けていた。


「できるだけ高いアイスがいいかも」


「…いきなり消えんなし」


「分かりやすいところで待っててくれたから良かったよ」


踵を返して来客用の靴箱の方へと向かう。一瞬目を見開いた三峰さんの顔は何を語っているのか、そんな事は気にならなかった。彼女はもう当たり前となっていた。


遠くからローファの音がする。見えないけれど、段々とこっちに近づいて僕もまた靴を履く頃には彼女と再び目が合った。


「…部活とかどうするの?」


「部活…。」


「帰宅部なんて退屈でしょ」


何かに打ち込む。それも高校生からってなるとかなりキツい気がするけれど。同好会とかは楽だったりするのだろうか。


「あのさ、私やってみたいものがあるから付き合って欲しいんだけど。ダメ?」


帰宅部なんて退屈か。確かにと思った。


「…何かによるかも」


「おし、話そう」


こうして入学式、学校での一日は終えた。

僕の胸にまざまざと青春という二文字を叩きつけて高校デビューというものは三峰さんという人によってスタートを切らされた。ホントに彼女に会えてよかったと。






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