宮の村返せだって?あんたバカぁ?↑
永禄六年(1563) 七月 大村館 小佐々弾正
「おお!よくぞ来た平九郎!小佐々の家督をついだそうだな。」
俺が来たのが嬉しいのか、それともなにか魂胆があるのかわからない。主殿に案内された俺は、喜々とした純忠の態度に驚いた。
日の出の勢い(自分で言うのも変だが、日の出かどうかもわからんし)の俺が、わざわざ会いに来たのが嬉しいのだろうか?
(ただの社交辞令なのに。今はまだ敵対したくない。)
「その・・・。こたびはその、申し訳なかった。わしを逃がすために小佐々の柱石である三名を失ってしまった。毎日祈っておるのだ。」
申し訳無さそうに顔をゆがめる。
寝ぼけた事を言うなよ。デウスに祈る?
その祈りのせいで戦が起こって死んだんだろう?ちなみに前世で残っていた弾正・甚五郎塚はない。前世で首は敵に奪われたが、現世では三人の首は遺体と一緒に多比良に運んで、一族と一緒に埋葬してある。
塚もその功績をたたえて、そばに建てた。
「は、そのお気持ちだけで十分にございます。三人とも、大村様のお役に立てたと、あの世で喜んでおりましょう。」
俺は心にもない事を仕方なく言った。
「そうか。そう言ってくれると、少しは気が楽になる。」
少し表情が明るくなる。本当に悲しんでいるようだ。
「それでな。こたびはそなたに、ひとつ頼みがあって呼んだのじゃ。」
そら来た!
「は、なんでしょう。」
「実はの、先代にも話しておったのだが・・・そなた、キリシタンにならぬか。」
予想を裏切らないねえ。
「キリシタン、でございますか?」
「そうだ。知っての通り南蛮との貿易には、キリシタンの布教は必要であろう?」
「さようにございます。」
「で、あれば、領主であるそなたが、率先してキリシタンになれば、領内の布教も滞りなく進み、貿易も円滑になるであろう?」
「仰せのとおりにございます。ただ、某には先代弾正様の遺言がございますれば、破る事はできません。」
「遺言とは?」
「されば、(キリシタンも御仏の徒も領民であり、皆久しく我らの宝である。したがって領主が一方に偏れば、かならず争いが起き、かえって安心して布教ができぬであろう)と。」
なるほど、そうであるか。
そう純忠は言い、口をつぐんだ。
当たり前だよ!だからお前んとこトラブルばっかりなんじゃねえか!
「あいわかった。しかしよく考えておいてくれないか?」
おれは小声で返事をし、平伏した。
「それからの」
なんだまだあるのか?
「宮の村、なんだが、その、言いづらい事なんだが、返してはくれぬか?」
「はあ、それがし粗忽者ゆえ、大村様の仰せになる意味がわかりかねますが・・・。」
まったく、予想はしていたとはいえ、ハマりすぎだろ。
「あそこは元々大村領であったし、その方らと我が領地を結ぶ要衝でもある。それゆえ後藤もそれを狙って、我らにくさびをうつ目的で、純種の謀反をそそのかしたのであろうからな。」
「しかし、要衝は民部大輔様が治める川棚の方ではございませぬか?道も交わっておりますし、立地的に重要でござる。」
「それは・・・そうなんだが・・・。とにかく、返してはくれぬか?」
俺は純忠の家臣ではないので、突っぱねる事はできる。家臣であっても犠牲を払って得た地を簡単には渡せまい。
俺は熟慮を重ねるふりをしたが、その答えはすでに決めてあった。
「かしこまりました。それではその様に手配させていただきます。」
「おおそうか!すまぬな。礼を言うぞ!」
とんでもございませぬ、と俺は答えた。今はまだ、まだ、敵に回せぬ。
「それで、宮の村はどなたが治めるので?」
「ああ、宮の村はキリシタンの村にしようと考えている。その方も言った様に諍いが領内で絶えぬでな。キリシタンだけの村をつくれば、争いも起こるまい。」
!やっちまったな!大丈夫か?
そんな事をすれば後藤の思うツボだぞ!間違いなく反キリスト勢力を集めて攻め込んでくる!そんな時に領内で反乱起きたらどうするんだ?今度こそ収拾付かないぞ。
「恐れながら申し上げます。キリシタンの村でございますが、非常に危険にございます。後藤領に近く、やつらが反キリシタンを糾合して、攻め入って来る恐れがございます。」
「それは問題ない。我らには主がついておるゆえな。もし攻め入って来たとしても、今度は負けはせぬよ。もう言うな。」
純忠は無能な武将ではない。無能であれば幕末まで家を永らえる事など、出来なかったはずだ。ただ、宗教とは、かくも人を盲目にするものか。
そう思いつつ、俺は下がった。
大村湾の海路を来た時と同じ様に帰り、途中で小田鎮光に指示をだした。宮の村の第一連隊を小佐々砦まで下げ、部隊を編成し直した。領民にもその旨伝え、移住を促した。
梅雨があけ、本格的な夏の訪れを思わせる暑い日であった。




