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第825話 『地震対策とトゥパクアマルとクイトラワク』

 慶長元年二月二十五日(1596/3/23) 南近江蒲生郡安土山 大日本国政庁


「それで、具体的な案とその進捗をおしえてくれ」


 純正は国土交通大臣の遠藤千右衛門に聞いた。


「はっ、畠山修理大夫様(畠山義慶・大日本国国交大臣)とも諮らねばなりませぬが、子細は次のとおりにございます。また、より子細は弾正大弼(だいひつ)様(沢森政種・純正の父)にお聞きくださいませ」


 純正の父親は御年七十歳。


 前世が定年前に亡くなった反動なのか? 還暦を超えてもなお、盛んである。


「うむ。ではつぶさなる施策の旨(内容)を聞かせてくれ」


「はい。まずは地震対策として、木造建築の改良に着手しております。筋交いや貫を強め、柱と梁のつなぎ目を改めて良くなるよう進めております」


 千右衛門は姿勢を正し、かしこまって答えた。


「また、都をはじめとした待づくりの見直しも行っております。狭い路地を減らして広い街路を設け、地震時の避難路確保と火災の延焼防止を図っております」


「うべな(なるほど)。して、以前より研究しておった鉄筋コンクリートでの建造は進んでおるのか?」


 この時、畠山義慶と父である沢森政種が入室してきた。純正と千右衛門の会話に耳を傾けながら、静かに席に着く。


「関白殿下、こたびは遠路くれぐれ(はるばる)と……」


「ああ、よいよい。次郎殿、昔のように平九郎殿でよいのです。千右衛門、父上は無論だが、修理大夫どのとは親しい間柄ゆえ、斯様(かよう)な言葉遣いとなる。ことさら騒ぐでない。よいな?」


「は」


 千右衛門は2人に頭をさげ、報告を続ける。


「して、鉄筋コンクリートの件だが……」


「それはわしから話そう」


 政種が会話に入ってきた。


 純正は大阪城の建設と都市計画を父親である政種に任せていたが、天正地震をふまえて延期されていたのだ。そのかわりに防災都市計画の現場責任者として働いている。


「試しにつくりの違う建物を五つほど用意し、それと同じ物を豊後や伊予、大坂や畿内のあちこちに建てておる。いずれも丈夫なつくりじゃ。されど、いずれがもっとも効果があるのかは、不謹慎な言い方じゃが、起きてみんとわからん」


 様々な構造の建物を建造し、どの構造が最も耐震性に優れているかを調べるのだ。大規模な実験設備を持つ、ハウスメーカーが行う人工地震による耐震実験はできない。そのため、できる範囲で検証する。


 政種の言葉に、部屋の空気が張り詰めた。純正は腕を組み、思案にふける様子を見せた。


「うべな(なるほど)。起きるのを待つしかないか……」


 されど、と畠山義慶が口を開いた。


「その間にも策を講じ、進めねばなりませぬ。天正のない(地震)の教訓を活かし、山崩れへの備えも重しかと存じます」


 千右衛門が補足する。


「それにつきましては殿下、特に飛騨県での大き(大規模)なる山崩れの例を踏まえ、城や集落の立地にも注意を払っております」


 地盤沈下や崩落が起きれば、そもそもどうにもならない。だが、それは現代でも同じだ。


「うむ。されど地震対策は建物の強化だけではあるまい。災いの後、いかに処すかも考えねばならぬ」


 純正はうなずきながら答えた。


「そのとおり。被災者への施しや救護施設の設置も重要じゃ。『義倉』や『悲田院』の例もある。また、年貢等の免除も考えねばならん」


 政種が純正に続けた。前世は寡黙だったが、これも反動なのか、どちらかと言えば豪放磊落(らいらく)な性格である。


「そうか。備えと復興、両面から策を練らねばならぬのだな」


「然に候」


 千右衛門が付け加えた。





 1.木造建築の改良

 ・筋交いや貫の強化

 ・柱と梁の接合部の改良

 ・実験を踏まえた鉄筋コンクリートの家屋を設置


 2.都市計画の見直し

 ・狭い路地を減らし、広い街路を設置

 ・火災の延焼防止用の空き地の確保


 3.避難所の整備

 ・寺社や城郭を利用した避難所の設置

 ・食料や毛布などの備蓄


 4.土砂災害対策

 ・山麓や崖下での建築制限

 ・土どめや石垣の強化


 5.救護体制の整備

 ・義倉(備蓄倉庫)や悲田院(救護施設)の整備


 6.災害時の経済対策

 ・被災地域の年貢免除制度の確立

 ・復興資金の準備


 7.情報伝達システムの整備

 ・狼煙や太鼓による警報システムの構築

 ・飛脚による迅速な情報伝達網の整備


 8.防災訓練の実施

 ・定期的な避難訓練の実施

 ・消火訓練の実施





 ■メキシコシティ(テノチティトラン)


「クイトラワク様、トラカシペワリストリの祭祀の準備は、滞りなく進んでいます」


「ありがとう、すまないね。世が世ならそなたに苦労はかけないのだが……」


 クイトラワクはメキシコシティの中央広場で小さいながらも露店をいくつか開いている。スペイン人相手に食事や酒を提供する店や、工芸品や農産物を売る店を経営していたのだ。


 滅びたアステカ王国の第11代皇帝であったクアウテモックのひ孫であるが、往時の栄華はすでにない。


 クアウテモックの息子のシワコアトル(火のヘビ)はすでに死亡。2人の息子がいたが、長男のテスカトリポカ(煙る鏡)は戦死、次男のネサワルピリ(断食する王子)も病死していた。


 クイトラワクは次男の一人息子として1575年に生まれている。


 アステカ王国の民衆は侵略したスペイン人によって強制的に改宗させられた。しかし江戸時代の隠れキリシタンと同じく、信仰を続けていた者も多かったのだ。


 露店の片隅でクイトラワクと小声で話しているのはトラロック・シウコアトル。


 神官の家柄の子孫で、クイトラワクの身の回りの世話や祭祀(さいし)の手配をしていた。周囲にはスペイン人の商人や兵士が行き交い、彼らの視線を気にしながら2人は慎重に言葉を選ぶ。


「トラロック、毎回の事だが、今宵の祭祀も細心の注意を払わねばならない。スペイン人の目を欺くのも一苦労じゃ」


「承知しております。地下の密室で行うよう手配いたしました。祭祀ごとに場所を変え、同じ祭祀でも続けては使わないようしています。参加者も最小限に抑えておりますので心配いりません」


 クイトラワクは商品の中から小さな人形を取り出し、それをトラロックに渡す。


「これを祭壇に置くのだ。かつての人身御供の代わりじゃ」


「かしこまりました。アステカの魂を守り続けましょう」


 トラロックは人形を袖の中に隠しながら、深く頭を下げた。クイトラワクは苦笑いを浮かべる。


「我らの祖先が見たら何と言うかな。しかしこれが、今の我らの精一杯だ。だが生け(にえ)をささげなくても、我らはこうして生きている。神々がまだ我らをお守りくださっている証拠だ」





「ところで陛下、わが国の民ではないのですが、スペイン人でもない男が会いたいと言っているのですが」


「なに?  どんな男なんだい?」



 


 ■ペルー ビルカバンバ


「陛下、怪しい者を捕らえました」


「何? スペインの者か? しつこい! 何度きてもこのビルカバンバは落とせん」


 トゥパク・アマルはインカ帝国18代皇帝であり新インカ帝国第4代皇帝である。クスコを都とした実質のインカ帝国はピサロに攻め落とされ、第13代皇帝のアタワルパは処刑された。


 その後傀儡(かいらい)として第14代トゥパック・ワルパ(アタワルパの弟)、第15代マンコ・インカ・ユパンキ(末弟)と続く。しかしマンコ・インカはしだいにピサロと対立し、ついにスペインに反乱を起こしたのだ。


 クスコを包囲するほどまでになるが、最終的に撃退され、ビルカバンバに撤退して新インカ帝国を建国して今日に至る。


 トゥパク・アマルは3人兄弟の末弟で現皇帝である。





「スペイン人ではないと? では何者だ?」


 トゥパク・アマルは、ビルカバンバの宮殿内にある玉座に腰を下ろしていた。その表情には、長年のスペインとの戦いによる疲労と、なお残る決意が混在している。


 周囲には忠実な臣下たちが控え、緊張した空気が漂っていた。


「はい陛下。スペイン人ではありませんが、陛下にお伝えしたいことがあるようです。言葉は我らと同じですが、なまりがあります」


 トゥパク・アマルは眉をひそめ、報告した臣下に鋭い視線を向けた。

 

「興味深い。会ってみるとしよう。だが十分警戒せよ。もしやスペイン人の新たな策略かもしれぬ」


「ははっ」





 次回予告 第826話 『知られざるスペインの内情と、敵の敵は味方』

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