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『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』  作者: 姜維信繁
肥前五強!non無双でもやるしかない。-横瀬浦開港 敵が味方 味方が敵に-
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母、沢森 吉野と妻、沢森 舞

 沢森城 沢森政忠


 結局、平戸松浦は平戸島内の川内村、大野村、平戸村、小引村、田浦村の三千七百八十石を割譲した。


 松浦郡の海岸、街道沿いの二十四ヶ村の豪族たちも、あわせて一万一千五百八石。佐世保と同じやり方なので、ほぼ直轄地。


 沢森は二万石程度の家格にはなるわけだ。


 平戸松浦は志佐、伊万里を半従属させて、松浦郡の三分の二を支配していた。これで波多、志佐、伊万里単独よりも弱まった事になる。


 しかも、四氏の中で一番石高の低い有田氏は、従属を願い出でてきた。もちろん、直轄地法で説明する。


 しかし……。


 ここが今のところ限界。


 これ以上割譲させれば統治も難しいし、反乱も起きかねない。また、周辺勢力も結託して我らに逆らうだろう。ギリギリのボーダーラインだ。


 それから平戸には、第二連隊を置こう。平戸と波多、伊万里、志佐への抑えだ。

 

 周辺の勢力図を考えていると、城にはすぐに着いた。


「どうしても、千寿を平戸に出さなければならないのですか?」


 母は言う。


 仕方がないのだ。でも、でも……そんな顔をしないでください、お母さん。お願いします。そんな顔をされたら何も言えなくなってしまいます。


 困り果てた俺を見かねたのか、親父が声をかける。


「吉野、止めぬか。そなたの気持ちはよう分かる。わしとて養子になぞ出しとうない。しかしこれも(いくさ)の世の定め。平戸を抑え込むにはこれしかないのだ」


 と援軍を出してくれた。


 親父はいつも母上に対して笑顔を絶やさない。その親父も、この時は、頑張ってくれた。


 泣きながら親父の胸に顔をうずめている母の体を、包み込む様にそっと抱きしめている親父。

 

「わかった、わかった。まめに文も出そう。遊びにもいこう。こさせよう。心配するな。平九郎がしっかりやってくれる。な、な、大丈夫だ……」


 兄が若くして死に、俺は家督をついでせわしなく動き回っている。雪姫もそろそろ髪結いだろう。千寿丸が養子に出てしまえば、家に子供がいなくなる。


 幸若丸がいるが、母である幸姫(喜々津御前)にべったりである。もちろん慕われてはいるが、千寿丸ほどではない。


 親父が左手の肘を曲げて手をあげ(大丈夫だから、もう、いけ、いけ)と合図をしてくれた。


(ありがとう、親父)


 そして俺は、舞の部屋に行った。侍女が部屋の外にいたが、誰も通すな、と言明する。


「舞、入るぞ」

 

 と言って中に入った。


 義父上や義理の叔父上が死んだあと、舞姫は涙もみせず、気丈に振る舞っている。


「舞、すまぬ」

 

 俺はまず謝った。


 当主の仕事とはいえ、妻の実の父親が死んだのに、そばにいてやれなかった。誰よりも悲しいはずなのに、その悲しみを受け止めてあげる事ができなかった。


「との、謝らないでください。舞は武家の妻。悲しき事なれど、いつかこのような時がくるのでは、と覚悟はしておりました」

 

 そう言って、両手で俺の手を握る。


(泣いている?)

 

 一瞬、少しだけ潤んでいる様に見えたその瞳には、力強い覚悟を感じる。


 俺は舞をぐっと抱きしめた。

 

「舞、これから俺は義父上のかわり、にはなれぬかも知れぬが、できるだけの事をやろうと思う。なんでも、気になる事があれば言ってくれよ」


 明るく聡明で、それでいてしっかり自分の役目をわかっている女性が、弱っている。


「そうだ舞、こっちへ」

 

 俺は舞の手を引いて壁際に近づき、壁をぐっと、押さえる。すると壁がぐるんと回り、通路が現れた。


「まあ!」

 

 俺は驚いた顔の舞をつれ中に入る。


 この通路は、結婚が決まった時につくらせた。何かあった時に、すぐに駆けつけられる様にだ。いたずら心もあった。まあ今はそれはいい。


 通路は俺の部屋とつながっているのだが、途中で上に上がる階段がある。昇っていくと一坪くらいのベランダのような空間に出る。


 庭には藤の花が綺麗に咲き誇っていて、眼下には真っ青な海、そして角力灘を行き来する商船がみえる。天気がよく心地いい。


「舞、俺はね、この景色が好きなんだ。そしてこの景色を、俺も舞も俺たちの子供も孫も、(いくさ)とは無縁で、幸せを感じながらいつも眺めて過ごせる様な世界にしたいんだ」


「できますよ、あなたさまなら。きっと」

 

 舞はじっと俺の顔を見る。


「ありがとう。ついてきてくれるかい?」

 

 はは、なんだかものすごくくさいセリフだな。


「はい。もちろん」

 

 そういって舞は体を寄り添わせてきた。


 春の日差しと暖かな風。潮風と海の香り。舞の長くて黒い髪の、いい香りがした。

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