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第802話 『実行』

 文禄三年四月十五日(1594/6/3) 京都


 その日は大日本国会議が開かれ、副首相である信長をはじめとする閣僚が集まっていた。議会制度を充実させるため、各州から1名ではなく、各県もしくは各郡から1名を選出しての議会運営を始めようと考えていたのだ。


 信長はその圧倒的な存在感で会議を主導し、国の未来について熱く語っていた。


 一方足利義昭、六角義治、斎藤龍興の3人は、密かに計画していた暗殺の準備を進めていた。


 彼らは純正に対する復讐心から、まずは信長を狙うことを決めたのだ。


 副首相とはいえ純正よりは警備の数が少なく、暗殺しやすい。もちろん簡単ではないが、信長を排除することで純正も動揺し、その権力を失わせられると考えていたようである。


 



 なんとも短絡的な思考だ。


 



 確かに個人的な感情を考えれば純正に与えるダメージは大きいかもしれない。しかしすでに国家運営に関しては、信長の死がすなわち国家の崩壊、という図式は成立しなくなっていた。


 肥前国ではすでに官僚機構が成立し、大日本国もそれに倣って構造改革が行われ、何かあった場合には補佐もしくは三席である者が臨時で代行し、しかるべき手順を経て次の代の閣僚になるのだ。


 南近江蒲生郡、安土山にあった大日本国政庁は天正大地震の復興の象徴として再建がなされていたが、純正いわく慶長年間にまた地震が起きるため、おおがかりな城や天守は建造されていない。





「では次の議題ですが、十四時過ぎには関白殿下もお越しになりますので、先に琵琶湖の水運に関する議題を論じたいと存じます」


 時間も定時法を用いて24時間で表すようになって久しい。


 純正は総理大臣ではあったが会議の全てに参加するわけではなく、議題の全てがほぼ内政に関することばかりだったので、事実上は信長が取り仕切っていた。


 不在時の会議内容は事後報告で共有される形である。





 どがん! ずどん! ががががーん!


 轟音(ごうおん)とともに崩落音が聞こえ、直撃ではないが付近から火の手が上がっているのが確認された。


「殿! こちらです!」


 数名の兵士を従えて信長を誘導するのは秀吉である。


 非常通路を避難する一同であるが、さすが歴戦の強者ぞろいであった。誰一人パニックになることなく、先導する兵士に従って順序よく政庁の建物より脱出していく。


 しかし政庁に勤める者すべてが武士ではない。武士でさえ10年以上太平の世の中で騒乱から遠ざかっていたのだ。市井の者ならば恐れおののくのは想像に難くない。


 轟音が響く中で混乱した人々は建物から逃げ出し、恐怖が広がっていった。


 政庁警護部隊はすぐに反応し、周囲を警戒しながら人々を守るために動き出したが、反逆者たちはその混乱を利用して信長への接近を試みている。


「今だ!」


 と義治が叫ぶ。彼らは混乱した人々の中へ突入し、一気に信長へと接近した。しかしその瞬間、警護部隊も即座に反応し始めた。


「反逆者だ!」


 という叫び声とともに、多くの武士たちが刀を抜き、一斉に反逆者たちへ向かって突進していった。信長も混乱した状況を把握しようと必死に命令をとばす。


如何(いか)なる有り様であるか! 子細を知らせよ!」



 


 一方、純正は京都の東本願寺でその報を聞いた。


 安土と京都の烏丸七条までの距離は約47km。信号所の職員が独断で信号を京都へ送ったのだ。報せを聞いた純正は、すぐさま安土へ使者を送り、情報を探らせたのである。


 使者は馬を飛ばし乗り継いで安土に到着した。


 すでに政庁周辺は鎮圧されており、騒乱を起こした者たちは捕縛されていた。負傷者は多かったものの、死者は出ていなかった。信長も無事であったが、事態の収拾に追われている。


 使者は信長に面会を求め、純正からの伝言を伝えた。


「関白殿下より、『事態の収拾を最優先とし、詳細は後日報告せよ』との仰せでございます」


 信長は疲れ切った表情でうなずき、使者に礼を述べた。


「うむ、大儀である。あい分かった。殿下には心配には及ばぬと、そうお伝えせよ」


「ははっ」


「反逆者は足利、六角、斎藤の残党であった。もはや風前の灯火とはいえ、油断はできぬ。備えを怠ることなく、徹底的に鎮圧せよ」


 信長は周囲の兵士たちに指示を出し、改めて政庁の警備体制を強化した。騒乱は鎮圧されたものの、不安要素は残っていたのだ。


 



 純正は信長襲撃の情報が入った直後、念のために東本願寺内に避難していた。


 東本願寺は周囲を堀と土塁で囲まれた堅固な寺院であり、非常時には避難所としても使用されている。純正は本願寺法主と今後の対応を協議していた。


「中将殿(信長)はご無事とのこと、まずは安堵(あんど)いたしました。()れど斯様(かよう)なことが再び起こらぬよう、策を講じねばなりませぬ」


「誠にそのとおりでございます。関白殿下におかれましては、くれぐれもお心をお鎮めくださいますよう」


 法主は深くうなずき、静かに言葉を返した。


 その日の夕刻、周辺の安全が確認されたので、純正は東本願寺を後にすることとなった。





 警護の兵士たちが周囲を警戒し、馬車が寺門を出ようとしたそのときである。


「天誅!」


 一人の男が群衆の中から突然飛び出し、純正の馬車に向かって猛然と走り出したのだ。


 短刀を握りしめたその姿は、明らかな殺意を帯びている。男の異常な行動に気付いた警護の兵士たちは、瞬時に叫び声を上げて対応し、間もなく男を取り押さえることに成功した。


 激しく抵抗する男に対して兵士たちは数の力で抑え込んでその場を制圧したのであるが、この一件は純正の心に深い衝撃を残す。信長襲撃直後の自らへの襲撃……。


 偶然とは思えない出来事に、純正の胸には不安と疑念が渦巻いていた。


 



 その夜純正は戦略会議衆を集め、緊急会議を開いた。


「こたびの襲撃は、明らかに徒党を組んだ犯行にございます」


 直茂の言葉に純正は真剣な表情で側近たちに語りかける。


「我らはこの陰謀を暴き、真の敵を倒さねばならぬ。そのためには、あらゆる策を講じよう」


 会議衆の面々は純正の決意に呼応するようにうなずいた。彼らはそれぞれの持ち場で情報収集を開始し、陰謀の解明に全力を注ぐこととなる。


 数日後、藤原千方を通じて、情報省国内情報局から驚くべき報告が入った。


 反逆者たちは京都市内に大量の爆薬を仕掛け、大規模な爆破テロを計画していたというのだ。その標的は、大日本国と肥前国の政庁、すべての関係建築物であった。


 反逆者たちは大日本国を根底から覆す恐るべき計画を企てていたのだ。


 純正は直ちに関係各所に連絡を取り、厳戒態勢を敷いた。同時に爆薬の捜索と反逆者たちの残党狩りが開始された。


 



 京都市内は異様な緊張感に包まれ、人々は不安を抱えながら事態の推移を見守っていた。


 やがて反乱分子の潜伏先が特定されたのであるが、特殊部隊が突入した後、激しい斬り合いが繰り広げられた。反乱軍の兵士たちは抵抗したが、最期は全員射殺された。


 同時に、市中各所に仕掛けられていた爆薬も発見され、解除された。間一髪、大惨事は防がれたのだ。





 大日本国は、かつて群雄割拠していた時代から、急速な中央集権化と近代化を進めてきた。


 首相である純正はその中心人物であり、多くの改革を断行してきた。しかしその急激な変化は、旧体制に慣れ親しんだ者たちにとっては受け入れ難いものであった。


 特に地方の旧地主層の中には、中央政府の政策によって土地を失い、没落した者も少なくなかった。彼らは純正を恨み、復讐の機会をうかがっていたのである。


 六角義治、斎藤龍興、足利義昭。


 彼らは単純に戦に負け、政争に負けただけであったが、それでも純正憎しという点でのみ結びつき、利害が一致したため行動を共にしたのである。

 

 ・六角義治、市中引き回しの上(はりつけ)獄門

 ・斎藤龍興、市中引き回しの上磔獄門

 ・足利義昭、南硫黄島へ遠流


 3人とも同罪であったが、義昭が罪一等を減じられて遠流となったのは、単純に前将軍であり、かつては武家の棟梁であった、というだけの理由である。


 小笠原諸島は発見されていたが、伊豆諸島の八丈島などとは比較にならないくらい遠く、無人の島である。形の上では遠流であったが、『死んでこい』と宣告したようなものであった。



 


「我らは、過去にとらわれていてはならない。先の世に向かって進まなければならない。新しきことには痛みも伴うであろう。然れど我らはそれを乗り越え、より力強き国を築き上げなければならない」


 純正の力強い言葉は、国民の心に響き渡った。





 次回予告 第803話 『肥前国軍再編計画』

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