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第747話 『モノモタパ王』

 天正十七年十月六日(1588/11/24) ケープタウン


 純正はインドへ駆逐艦を派遣し、カリカットの総督府からポルトガル領のゴアを経由して、ムガル帝国領内の通過を許可してもらって、オスマン帝国へ使者をだした。


 同時にポルトガルへも親書を送り、海戦の経緯を説明し、海上の権益を守るためにやむなく応戦した事、今後も同様の事があれば同様の対処をする事を伝えたのだ。


 純正にとってはポルトガルのオスマン帝国に対する外交姿勢に異を唱えるものではないが、海上にて友好国の艦船が攻撃を受けているのを目撃した場合は支援する、と伝えている。





「はじめてお目にかかります。陛下、モノモタパ王ガティ・ルセレにございます」


「肥前国王ヘイクロウ・コザサです。ルセレ陛下、はるばるご来訪いただき感謝申し上げます。ケープタウンへようこそ」


 純正は丁重に挨拶し、モノモタパ王を迎えた。純勝も父の横に立ち、深々と頭を下げる。


「コザサ殿、評判通りの方だ。貴殿の名声は我が国にまで届いている」


「お言葉恐縮です。陛下のご来訪を光栄に存じます。どうぞお座りください」


 ルセレが純正を見つめながら言うと、純正はそう返して広間の中央に用意された席へと案内した。


「突然の訪問で失礼しましたが、貴殿との対話を求めます。我々の地域で、貴国の影響力が増大しているのを認識しているからです」


「影響とはつまり、交易における我が国の商人の存在でしょうか」


 ルセレの問いかけに純正も率直に聞き返した。一瞬目を細めたルセレであったが、純正の率直さに驚いたような表情を浮かべ、冷静に答える。


「そうです。貴国の商人たちの活動が、我が国の経済にも影響を及ぼし始めている。これは良いことかもしれないが、同時に懸念も抱いています」


 純正はルセレの言葉を慎重に受け止め、穏やかな口調で返答する。


「我々の目的は、この地域の平和と繁栄です。モノモタパ王国を含む全ての国々と協力し、共に発展することを望んでいます。貴国の懸念については、具体的にお聞かせいただければ幸いです」


 ルセレは椅子に深く腰掛けて、しばらく考え込むような仕草を見せた。やがて、彼は口を開く。


「具体的には、貴国の商人たちが我が国の伝統的な交易ルートを変えつつあることです。また、彼らがもたらす新しい技術や商品が、我々の社会にどのような影響を与えるのか、予測がつきません」


 純正は真剣な面持ちでルセレの言葉に耳を傾け、慎重に言葉を選んで答える。


「ご懸念はよく理解いたしました。確かに、新しい交易ルートや技術は社会に大きな変化をもたらします。しかし、我々はこれを貴国に対する脅威ではなく、機会と捉えています。貴国の伝統と我々の新しい知識を融合させることで、より豊かな未来を築けるのではないでしょうか」


 ルセレは深く考えているが、次の言葉が出るまでしばらく時間がかかった。


「ふむ。……確かに貴国がもたらす新しいものは、我が国を豊かにしています。しかし、どうしてもポルトガルのようにならないかと懸念しているのです。今の王セバスティアンは融和政策をとって共存をうたっているが、それまでポルトガルはキルワ島とソファラを破壊し、アフリカ南東部の沿岸地帯の大部分を支配下に置いた」


 純正は真剣に耳を傾けている。


「その後我が国はソファラを取り返し、ポルトガルが支配する土地と分割統治をしてきたのです。貴国は東は我が国の南にあるナタールから、ここケープタウンを挟んで西はカリビブまで支配している。マダガスカルはよいとして、マリンディやキルワも我が国の北にある。今後北上、もしくは南下して我が国の領土を犯さぬという保証はあるのでしょうか」


 純正の表情には、相手の懸念を真摯に受け止める誠実さが表れていた。沈黙の後、純正は慎重に口を開く。


「ルセレ陛下のご懸念、そして歴史的背景をお聞かせいただき、感謝申し上げます。確かに、過去のポルトガル国の行動は多くの国々に不信感を抱かせるものだったかもしれません」


 純正は言葉を区切り、そして再びルセレと視線を合わせて続けた。


「しかし、我が国の方針は異なります。我々は征服や支配ではなく、互恵関係を築くことを目指しています。貴国の領土を侵すつもりは毛頭ありません」


 ルセレは眉を寄せ、疑いの色を隠さない。


「言葉だけでは、信じがたい。何か具体的な保証はあるのでしょうか」


 純正は落ち着いた様子で答えた。


「ご懸念はもっともです。そこで、我々は以下のような提案をいたしたい。まず、両国間で不可侵条約を結びましょう。さらに、我が国の商人たちが貴国で活動する際の規則を共同で策定し、貴国の伝統的な交易の仕組みを尊重する枠組みを作りませんか」


「なるほど、興味深い提案ですね。それが本当に実現すれば、両国にとって利益となる。しかし、すぐに策定はできないでしょう?」


「はい。ただアフリカにおける統治や交易、様々な法令に関しては統督に全権を委任しております。このケープタウンに総督府を設置して以来、それは一貫しています。私はこれからアフリカの西岸を経由して欧州へ向かいますが、帰りにも必ず立ち寄ります」


 ルセレはじっくりと考え、答えた。


「良いでしょう。我が国からも使者を遣わし、貴国からも我が国に使者を遣わしていただき、お互いに利のある条約を結びましょう」


 純正はルセレの言葉を聞き、安堵(あんど)の表情を浮かべる。


「ありがとうございます、ルセレ陛下。お互いの理解を深め、信頼関係を築くための重要な一歩となるでしょう」


 純正はさらに提案を続けた。


「使者の交換に加えて、両国の若者たちの交流も促進してはいかがでしょうか。互いの文化や習慣を学ぶことで、将来的な協力関係がより強固なものになると考えます」


「それは面白い提案だ。我が国の若者たちが貴国の進んだ技術を学び、貴国の若者たちが我が国の伝統的な知恵を学ぶ。互いに利益があるように思える」


 ルセレは興味を示した様子でうなずき、純正もそれに微笑みながら答えた。


「まさにその通りです。知識と文化の交換は、両国の発展に大きく寄与するでしょう」





 モノモタパ王国国王のガティ・ルセレとの会談は成功裏に終わり、両国は友好を深めていくことになる。





 次回 第748話 (仮)『ポルトガルの王都リスボンと新たな転生者』

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