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第652話 『レイテ沖海戦~四~千変万化。機を見るに敏であれ』(1578/6/23) 09:00 

 天正七年五月十八日(1578/6/23) 09:00 カバリアン湾沖東18km


「司令官! 敵、カバリアン湾ではなくなおも北上、アナハワン沖へ北上しております!」 


「なに! ? ばかな! 敵の本隊はカバリアン湾におるのではないのか? なぜ北上するのだ?」


 第45水雷戦隊の司令官は疑問に思ったが、それは自分の任務ではない。任務は敵を追跡し、艦隊を発見したならば誘引しつつ退却することである。





 ■09:40 索敵艦隊南方 24km 第四艦隊先頭艦 旗艦 富士


「何? カバリアン湾は空であると?」


 第45水雷戦隊に敵艦を追わせると同時に、加雲は別の一隻をもってカバリアン湾を偵察させていた。敵艦が北西ではなく、北に向かっていたからである。


 一体どういう事だ? カバリアン湾は空なのか? それとも北上し、我らをおびき出して挟撃するつもりなのか?


「司令官! いずれにせよ我らも続いて北上したほうがよろしいかと。敵が湾内にいようがいまいが、我らの目的は変わりませぬ。湾内の警戒を厳にしつつ、北上しましょう」


「うむ」





 ■キャンカバト湾 スペイン艦隊本隊

 

「閣下、これからどのようにされるのですか? 報を受けていち早く南下したゴイチ提督は、すでに戦闘中かもしれません。フアン提督は盟友のゴイチ提督を放ってはおきますまい。必ず南下して救援に向かいますぞ。そうなればわが軍は半数となります」


 パブロは静かに進言した。


「何がいいたいのだ? よいか、やつらは所詮成り上がり者なのだよ。6年もの間フィリピナスのマニラを占領できず、ここで名を上げたいのだろう。そもそも敵が本当にわが艦隊を超す兵力なのかも疑わしい。少ない敵を多いと偽って、自らの功を高めようとの魂胆であろうよ」

 

 オニャーテの声は冷ややかだ。フアンやゴイチを信用していない。

 

「仮にそうだとしても、今であれば横風です。湾外にさえ出れば南下して合流もできますし、合流せずとも、敵の集中攻撃を受ける事もありません」

 

 パブロは冷静に分析する。彼の言葉には合理性があるのだ。


「馬鹿な事を。まだ……なんだ? ……その、敵の本隊とやらは見つかっておらぬではないか。我が艦隊が負ける訳がない。敵を発見して悠々と出撃すればよいのだ」

 

 でっぷりと太った腹にぴたりとくっついた軍服を着ているオニャーテは、不敵な笑みを浮かべた。この根拠のない自信はいったいどこからくるのだろう。


 パブロは内心ではため息をついた。


(総司令官の判断の誤りは明白だ。しかし、これ以上忠告しても私にメリットは何もない)

 

「閣下、ご決断ならばお従いします」

 

「うむ。それでよい。最初からそうしておれば良いのだ。よし、では敵を探し出すまで待機だ。我が艦隊の実力を見せつけてやろう」


 オニャーテは有力貴族の出身であり陸軍に籍を置いてはいるものの、(事実上の)海戦どころか(事実上の)陸戦の指揮経験もない。今、この地位にいるのは副官でパブロの功績といっても過言ではないのだ。


 彼の言動は、そういうパブロの有能さに反発しているのかもしれなかった。


 ……パブロは無言で海図を見つめたが、目には焦燥と疲れと、絶望の色が浮かんでいる。今回ばかりは無理かもしれない。そう感じたのだ。


 孤児であったパブロを引き取って、士官学校まで出させたのはオニャーテのおかげだが、そのパブロの補佐でオニャーテは軍内でこれほどの地位を築くまでになったのだ。

 

 このまま状況が進めば、スペイン艦隊の敗北は避けられない。パブロはそう直感していた。しかし、彼にできることは何もない。ただ黙って、運命の流れに身を任せるしかないのだろうか。





 ■10:00 アナハワン沖より北方16km ハイヌナンガン湾沖11km ゴイチ艦隊


「急げ急げ急げ!」


 進行方向左からの東風11ノットである。艦隊は横風ビームリーチを効果的に捉え、全力で小佐々艦隊の第45水雷戦隊を狙う。

 

「報告! 前方に敵艦発見! 数は5! 他には見当たらない!」

 

「ようし! 進め! まずはその5隻を血祭りにあげるぞ!」

 

「後方の(に来ているであろう)フアン艦隊ももうじき追いつく、それまでにカタをつけるんだ!」



 


 ゴイチ艦隊は東風を捉え、全速力で第45戦隊に迫る。海面を白く染める波しぶきを上げながら、艦隊は疾走(しっそう)する。

 

「各艦、戦闘準備!」

 

 命令を受けた水夫たちが慌ただしく動き回り、速やかに大砲の装填(そうてん)を始める。

 

「敵艦までの距離、3,300バラ(約3,000ヤード・約2,743メートル)!」


「ようし! 射程に入り次第撃て!」


 ゴイチは双眼鏡で敵艦を(にら)みつける。風を味方につけた艦隊は、順調に第45水雷戦隊との距離を詰めていく。

 

 一方、第45水雷戦隊の司令官は、急速に接近してくるゴイチ艦隊に気づく。



 

 

「敵襲! 全艦急速回頭! 戦闘態勢に入りつつ、離脱する!」


 旗艦の軽巡夕張のマストには『5』の旗旒(きりゅう)信号が揚がり、全艦に急速回頭が伝達される。

 

 敵艦が云々(うんぬん)という細かい伝達はない。急速回頭はすなわち接敵、スペインの哨戒(しょうかい)艦以外の艦隊を発見したという事だ。

 

 第45戦隊の5隻は海域からの離脱を試み、戦闘態勢をとる。しかし、数的不利は明らかだ。



 

 

 ■11:30 接敵地点より南へ20km カバリアン湾沖東22km地点

 

「砲撃、開始!」


 懸命に逃げていた第45水雷戦隊であったが、ついに追いつかれてしまった。急速回頭のため最後尾となった旗艦夕張である。

 

 ゴイチの号令とともに艦隊から一斉に砲火が放たれ、砲弾が着水する音が何度も聞こえる。

 

「被弾!」


「被害状況知らせ!」


「被弾しましたが損害は軽微! 航行可能!」

 

 第45水雷戦隊旗艦の軽巡夕張がゴイチ艦隊の砲撃をうけ、乗組員は修復に全力を注ぐ。艦尾砲から反撃を試みるが、被弾の影響で使えない。

 

「なんとしても持ちこたえるんだ! 援軍が来るまでは!」

 

 司令官は必死の覚悟で叫ぶ。しかし、ゴイチ艦隊の猛攻は止まらない。やがて艦隊は二番艦として位置していた駆逐艦秋風も射程内に収める。

 

「撃て撃て撃てい!」

 

 ゴイチは機敏に艦を操り、有利な位置取りを続ける。風上を制したまま、次々と敵艦に肉薄していったのだ。





 次回 第653話 (仮)『レイテ沖海戦~()~起死回生と窮途(きゅうと)末路』

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