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第628話 『明とスペインの共同戦略。小佐々戦、開戦までのリミット』(1577/2/21)

 天正六年二月四日(1577/2/21) マカオ(澳門)


「首輔様、イスパニアの使者がお目通りを願っております」


「うむ」


 紫禁城にて張居正と面会し、万暦帝との謁見を済ませたフィリピン総督の使者は、定期的に明を訪れていた。今回はマカオに視察にきていた張居正に、再び面会を希望したのだ。


「本日はお日柄も良く……」


「いやいや世辞は良い。使者どの、用向きはなんじゃ?」


 せっかちではないが、合理主義者なのだ。

 

 明とスペインはちょうど2年前(第619話)、小佐々に対抗するために明西(明・スペイン)同盟を結び、交易も盛んに行われていた。


「交易の話ではあるまい? わたしは商人ではないゆえ詳しくは知らぬが、我が大明も貴殿らシーバンニャ(西班牙・Hispania・イスパニア)も、十分儲けていると聞いている」


「さすがは閣下でございます。今回は軍事面でのお話しでございます」


「うむ」


「わがフィリピン総督領は新大陸のヌエバ・エスパーニャ副王国に属し、副王国はイスパ二ア本国に属しております」


 日本で言えば小佐々領が本国で、毛利領が副王領のようなもので、小早川領がフィリピン総督領である。


「それで?」


「はい。小佐々に対するために結んだ同盟ではありますが、わが方としてはおおよそ5年から7年後に、KOZASAに対して攻勢に出ようかと考えております」


 腹の探り合いもなく、二人とも普通に会話をしている。


「ほう? ……これまた、戦の事はよくわからぬが……それまでは、小佐々は攻めてこぬと? なにか確証があるのかね?」


「確証、という訳ではございませんが、我らとKOZASAが争って早6年となります。もしKOZASAにその意思と力があるならば、すでにわがフィリピン総督領は奴らに狙われているでしょう」


「なにも、なかったのか? 呂宋のメニイラ(マニラ)とセブは目と鼻の先ではないか」


「はい。数回交易船同士の(いさか)いがあり、また軍艦同士の小競り合いもありましたが、戦端は開かれておりません」


 張居正は、使者の言葉を聞いて目をつむって思案にふける。


 ? 台湾を譲らぬという事は、かなりの水師(水軍・海軍)を持っているかと思っていたが、そうでもないのか? または国内がまとまっていないために、出兵ができなかったのだろうか。


 いくつかの可能性が張居正の頭をよぎる。


「わが国は、全力をもってあたれば落とせぬ国はありません」


 居正の顔が一瞬ゆがむ。


「失礼! もちろん! 大明国を除いて、という事ですが、ゆえあって全軍を差し向けることができません」


 ニヤリと笑う居正であったが、目が笑っていない。ただし、使者の言う事は理解できた。明も同じなのだ。台湾に出兵しつつ女真の相手をし、蒙古と戦うなどは難しい。


「『譬如獅子捉象亦全其力、捉兎亦全其力』(獅子はウサギを狩るのにも全力をつくす)と申します」


 禅宗の典籍からの引用に、少しだけ機嫌がよくなった居正であったが、この使者もなかなかである。


「聞くところによりますと、KOZASAは我らのガレオンより小ぶりではあるが、40隻ないし50隻の船を持っているようです」


 ほう、と居正は相づちをうった。


「フィリピンはヌエバ・エスパーニャ副王領に属していますので本国に確認したところ、極東の島国など自力で滅ぼせとの命がありました。そこで現在、船をつくり大砲を鋳ているところなのです。それともう一つ」


「もう一つ?」


「チパングにはKOZASAの他にも大小の国があり、そのうち東の大国ホウジョウと、我らは同盟を結んでおります。時を同じくして我らと大明国、そしてホウジョウが三方より攻め寄せれば、いかなる者でも滅ぼせるでしょう」


「ふむ……」


 張居正にしてみれば、今のままでもいい。改革は実施されているとはいえ、永楽帝以降の逼迫(ひっぱく)した財政は、完全には健全化されていないからだ。


 今の状態では出兵は厳しい。


 しかし5年あれば健全化のめどはたつ。それに主力がスペイン軍とホウジョウ軍ならば、特別な海軍力の増強は必要ない。


「それまでにわが軍は倍の80隻の艦隊を用意し、殲滅(せんめつ)の準備をいたしましょう」


「ははははは。倍とは豪気であるな。……なるほど。うむ、陛下に上奏してみよう」


 使者の言葉に少しだけ笑みが戻る居正である。


「はは。ありがたき幸せにございます」


 5年(7年)で80隻はかなり無理な数であったが、現状30隻程度の艦艇に加え、北米と中米の原住民を酷使すればなんとかなると考えたのだ。


 



 ■諫早城

 

「なんですと! 馬鹿な事を仰せになっては困る!」


 血相をかえて叫ぶのは、財務大臣の太田屋弥市(28)である。相手は海軍大臣の深堀大膳純賢(54)と陸軍大臣の深作治郎兵衛兼続(64)だが、今は定例予算会議の最中だ。


「……失礼いたしました。されど、それとこれは別問題にございます」


 二回りも三回りも歳の違う二人は、わかってはいるが気にもとめない。


「五個艦隊を八個艦隊、陸軍五個師団を八個師団ですと? それではあまりに銭が掛かります」


 すでに四カ所の海軍工廠(こうしょう)で8基のドックは稼働しており、修理や整備を行っている。


 74門艦(戦艦と呼称)も昨年の7月に20隻全てが就役し、第1~3艦隊への編入が終わっているのだ。旧型艦は順次6~8艦隊へと再編制がなされている。


 つまり、8個艦隊とは言うものの、正確に言えば8×3個艦隊分の艦艇が必要なわけではない。74門艦を12隻建造し、旧型艦を再編制した上で足りない重巡・軽巡を建造する。


「五年、無理ならば七年ないし八年でも構わぬ。陸海軍に予算が偏っているのは十分承知しておる。そこを何とかしてほしいのだ」


 陸軍は純粋に3個師団の増設だ。


 その後も侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が続いたが、純正は可能な限り、実行するようにと、締めくくった。





 次回 第629話 『雷管と蒸気機関、なんとか7年、いや5年でできないか?』

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戦国 武将 転生 タイムスリップ 長崎 チート 無双 歴史 オタク
― 新着の感想 ―
[良い点] 小佐々領以外の日本には牙を研ぎ続ける国がいくつかと、海外には外交的約束を破って自国領土を自分のものだと主張する国や宣戦布告もなしに侵略してくる国がいる。 そのため、当然の主張として陸海軍の…
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