製塩事業部、倒産?
忠右衛門の声に耳を疑った。
だって、塩だよ塩。原価ゼロの。0だよ。
そして専売商品で貴重で、瀬戸内海にはいくつも!塩で財をなした豪商がいたはず。
そして何より、この当時の製塩法より生産量も人件費も、すべてにおいて優れているはずなんだ。コストがかかってないから儲かるはず。
なのに、なんで・・・?
「どういう事だ。くわしく申せ。」
俺は納得いなかなった。だからこそ、全てを知りたかった。
「は、まずは建屋をはじめ、塩づくりのからくりに、二百貫ほど使いました。ただしこれは、じゃぼんや鉛筆などと同じ様に、もともと城にあった蓄財にて支払いました。それから、そのふたつで十分に利益が出ておりますので、全体で赤字ではありません。」
「ふむ、それで?」
「はい、ただ大量に塩を作れるとはいえ、煮出すための薪代がかかりすぎるのです・・・。」
燃料費か!!
「詳しい数字を申せ。」
「は、まずは保存場所が足りなくなったため、途中で生産は止めました。計算では一日に九百五十二升(1.8トン)の塩を作れます。ひと月三十日で計算すると、二百八十五石(二万八千五百升/54トン)の塩ができます。教えていただいた通り、塩一升が十五文で計算すると、全部売れたとして四百二十八貫の売上になります。」
なるほど。確か瀬戸内海の赤穂の塩の産地で・・・。
江戸時代で400ヘクタールで94,500トン/年間だったっていう文献があったな。
と言う事は、1ヘクタール(10反)で年間19トン。と言う事は月に1トン強。
あれ!一日の生産量が年間生産量オーバーしとる!まじか!
これだけでウハウハやん!!
またこれ道喜にちくちくぐちぐち言われるぞ。
ちょっと待って。塩30グラムとるのに1リットルの海水が必要だから、一升、つまり1,890(1.8キロ)グラムとるのに63リットル必要だ。
1.8トンと言う事は、63キロリットル!
浴槽ためて1回分が200リットルだから、63×5=315杯分。
12時間働いて、1時間に26杯分・・・うーん100人でやれば不可能ではないか。
ただ、ブラックだ。
「忠右衛門、それは何人で、どの程度の時間やる計算で、この量?」
「はい、百人で日の出から日の入りまで目一杯やってこの量です。」
うん、減らそう。
それで問題は燃料費。
「炭代はいくらかかったのだ?」
「はい、炭をくべ、薪をくべ、どれが一番安上がりか試しましたが、どれも出来る量はかわりませんでした。」
「一日に必要な木炭が七十八荷(2,340キロ)でございます。炭が一荷(15キロ×2)二百文でございますれば、一貫五千六百文、月で四百六十四貫。それに人夫代を入れれば、完全な赤字にございます!申し訳ありません!」
「謝らずともよい!そちの責ではないわ。」
おかしい、何が違う?
なんでこの時代にないやり方で、効率よくやっているのに損になる?
「そればかりか、大量の灰の処理に困る始末にて、余計な手間賃がかかり申した。」
・・・・・!!!
「灰だ!」
「灰でござる!」
「木灰一斗つくるのに、木炭十七荷(510キロ)が必要で、塩一日で木灰四斗(400合)ができる!」
「木灰を作るための炭の費用は石けんに含まれておるから・・・実質ゼロやん!」
「そうですゼロです!ん?いや、殿、ゼロとはなんですかな?」
「ん?聞き間違い、聞き間違い!とにかく金がかからないって事だよ!」
職人の給料をもっと上げても十分だ。
良かった~。まじで良かった~。石けんや捕鯨には劣るけど、儲かるな!
そこに平戸道喜と一緒に弥市がやってきた。
「ああ、道喜か。ちなみに今塩は一升いかほどか?」
そうですなあ、と考える様にして、
「肥前の様な海がある国では十五文から二十文。京・大阪では二十五文から三十文。甲斐信濃の様な山国では常に三十五文から五十文にはなりますか。なんにしても塩ほど儲かる品物はありませんよ。」
「仕入れはタダみたいな物ですし、灰は売れるし、腐る物でもないから保管が効いて、高い時に売ればそりゃあ儲かります。なんですか?塩がどうかしたんですか?」
いえ、何でもありません。はい、ありません。ごめんなさい、失礼しました。
商いの事は、全部前もって相談しよう。そうしよう。
塩一俵が米五俵、あれ、本当だね。