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三国連合vs.島津⑤禰寝の陰謀  湊の奇妙な静けさ

 永禄十二年 十月三日 寅二つ刻(0330) 国見城北 肝付軍


「よいか、これから敵の湊へ向けて出立する。一里ほどであるから、一刻ほどで到着するであろう。半刻ほどで月もでてこよう。到着は日の出前だ」。


 兼亮は全員を集め出発前の説明を行った。全員が軽装である。通常の甲冑でも音が鳴りにくい仕様ではあったが、念のためだ。慎重に行動し、襲撃後は迅速に撤退するためにそうした。


 移動に一刻と四半刻程度、襲撃後は敵が気付いて反撃に出てくる前に撤退する。


 夜間の行軍のため時間の余裕を見て早めに出発するのだ。事前に、漁師で禰寝村を知っている者や、商いで街道を行き来した事がある者に道案内をさせた。


 海沿いの街道を南へ進み、半里と三町ほど(2.37km)いけば松崎の浜である。ここからは山の裏側になるので国見城からは見えない。


 瀬脇城と水流城の視界に入ると同時に見えなくなるのだ。そして、明らかに六日前と比べてかがり火が少ない。警戒がゆるい、人が少ない証拠である。


 半刻ほどで月が出てきた。雲は、ない。


 時を同じくして国見城からの死角に入った。月明かりのため行軍は楽になったが、禰寝・島津軍に気づかれない様に慎重に行軍する。


 兼亮が行う今回の夜襲の目的は兵の殺傷ではない。


 湊に停泊している軍船ならびに商船の破壊と、港湾設備への攻撃だ。すでに兵糧などの物資は各城に運び込まれているだろうが、桟橋や家屋などを破壊しておけば、今後の補給を阻害できるだろう。


 卯の三つ刻(0600)ごろに全軍が湊に到着した。


 掛け声など、当然かけない。部隊長同士で決めてあった合図とともに攻撃が開始された。


 空はようやく白み始めてきたが、それよりも先に火矢による攻撃で火災が発生し、その炎が辺り一面を赤々と照らしていた。船に火矢を射掛け、桟橋を破壊し、物資とおぼしいものには全て火をかけたのだ。


 兼亮の予想通り、油断していた守備軍は大混乱に陥って、攻撃軍にまったく対応できない。


 ようやく態勢を整えて応戦しようとした時には、すでに肝付軍は意気揚々と引き上げ、完全に辺りは明るくなっていたのだった。


 ■永禄十二年 十月三日 卯の二つ刻(0530) 妙見原 ※島津義弘軍


「かあかれえーい! 突撃じゃあー!」


 義弘のわれんばかりの号令とともに、田之上城と古城の城兵二百と、義弘が飯野城から夜明け前に密かに動かしていた兵二百、合計四百が伊東軍の先陣めがけて突っ込んでいく。


 ……はずであった。


 ■遡って 十月二日 申三つ刻(1600) 日向 ※飯野城 


「何? 出立したと?」


 義弘は伝令に間違いないか、もう一度確かめる。


「はい、間違いございません。殿御自ら出陣なさいました。その数一万五千」。


「ふふふ、これで勝ったか。義陽は前と同じ様に逃げ帰り、義祐はここでわしが叩きのめす。肝付は、まあ、家久が上手くやるであろう……」


 島津氏の本拠地である内城(鹿児島城)から大口城へ向かうには三つの進路がある。


 ひとつは西進し、海岸沿いを北上したのち出水郡出水村から川をわたって東進する方法。もう一つは北上して大隅国姶良郡へ入り、さらに北上、西浦村から薩摩国伊佐郡へ入る。


 そして虎居城経由でさらに北上していく方法である。蛇行しているが、大口城へ向かうには一番早い。次が義久が選び、歳久や義弘に教えていた作戦経路である。


 同じ様に北上して大隅国姶良郡へ入るのだが、さらに北上して桑原郡に入る。途中の中ノ村で北上する道と、北西へ向かう道へ分かれるのだ。


 北へ向かえば日向国真幸院、北西へ向かえば大口城だ。


 ■十月三日 午三つ刻(1200) 肝付軍本陣


「いや、ご苦労であった。疲れたであろう。兵はみな休ませておるのだ。その方も少し休んだらどうだ」。


 良兼は兼亮にねぎらいの言葉をかけつつも、少しだけ曇った表情を見逃さなかった。


「どうした? 何か気になる事でもあるのか」。


 兼亮はかけられた言葉に感謝しつつも、自らの疑問が、取るに足らないものなのかどうか、考えているようである。


「いえ、気になるほどでもないのですが、ちょっと」


「どうしたのだ?」


「いえ、今朝襲った禰寝の湊なのですが、今考えると船が少なかったように思えるのです」


「船が少ない? どうした事だ。ここからでも、赤々と燃え上がる火の手は見ものであったぞ」


「はい、確かに存分に燃やしてきたのですが、四、五十ほどしかなかったのです」


「なに、五十? 確かに少ないが、禰寝の湊はここだけではない。反対側の大泊にも大きな湊があろう。そこも禰寝の領地であるから、そこではないのか?」


「はい、確かにその通りです。ただ、以前われらが鹿児島を水軍で攻めた時、その半数の百五十は禰寝の水軍にございました。それがたった五十しかおらぬとは」。


 良兼は兼亮の言葉を聞いて考えていたが、すぐに返事をした。


「それは今確かめようがない。疑えばきりがないが、おぬしが夜討ちを成功させた事は確かじゃ」


 兼亮は一抹の不安を抱えながら、良兼の言葉をうけて、提案した。


「少々時間はかかりましょうが、大泊まで間者を忍ばせましょう。さすればこの意味がわかるはずです」。


「あまり考えを巡らせすぎると体に毒ぞ。しかし、おぬしの申すことも一理ある。そのようにいたそう」。


 すぐに半島の東側、南端にある禰寝領の大泊の湊に忍びが走った。


 次回予告 第326話 三国連合vs.島津⑥決断の時と驚きの報せ(仮)

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