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先陣は誰だ?

九月八日 唐津湊 第三艦隊 艦上 戌二つ刻(1930)


「義兄上になる」と伊万里治(18)。純正の妹、雪の夫だ。

「義理の従兄弟になる」と相神浦松浦盛(18)。純正の義姉の義弟で義理の従兄弟になる。

「義理の従兄弟になります」と波多鎮(15)。純正の叔父の娘、糸の夫。


翌日に控えた筑前岳山城救援戦において、誰が先陣を務めるかで議論していたのだ。家格と言うか、国力で言えば波多が一番高い。


ついで伊万里、そして一番国力は低いが、親族になって長いのが相神浦松浦である。なにせ純正が転生した時すでに親族だったのだ。その三人が議論している。誰が先陣になるのかは大将が決めると言うのに。


その第一軍の大将も宗像氏貞、二十三歳と若い。


「伊万里様、松浦様、私は一番年少ですし、お二人は殿と同じく、いえ、殿は格別の存在ですが、お二人を兄のように思うております。ですから、あまり差し出がましい物言いはしたくないのですが、その、言いにくいのですが、わが波多が一番兵を出しておりますれば、先陣の名誉は、ぜひ私に賜りとうございます」。


穏やかに、ゆっくりと波多鎮が言う。


「何を言う鎮。確かに国力は波多が一番かもしれぬ。しかし元は同じ松浦党ではないか。それに私も雪を、殿の妹君を嫁に娶っておる。血縁という意味では一番近い特別な存在。期待もされておる」。


自信を持って話すのは伊万里治である。


血縁、という言葉にひっかかったのか、

「確かに、伊万里殿の立場は重要ですが、私も義理の従兄弟になるんですよ。殿の義姉の義弟という立場で、家族としての繋がりがあるんです。しかもわれら三人の中では一番長い。小佐々がまだ彼杵の少領主だった頃からの関係です」。


緊張気味に発言するのは松浦盛だ。


「確かに、鎮の考えも松浦殿の考えも理解できます。しかし、われら三人とも殿と直接の血の繋がりが無い事を考えると、妹君を娶っている私が一番ではないでしょうか?」


少し考えながら伊万里治が反論する。


「兄様方のお話を聞いていますが、私も義理の従兄弟になる立場です。殿の叔父上の娘、糸の夫という関係です。血の繋がりで言えば一番遠いかもしれませんが、その分家格や国力という点では私が一番高いと言えるかもしれません」。


慎重に言葉を選びながら、波多鎮が穏やかに話す。


そうして三人が活発な議論を交わしていると、武雄後藤の当主、後藤惟明(23)が通りかかった。隣の部屋や廊下にまで聞こえる大きさだったので、当然惟明の耳にも入っている。


後藤家の当主で、小佐々純正が今、五分の盟を結んでいる宗、宇久、後藤の三家の一人だ。年齢はこの賑やかな議論をしている三人より、五つしか違わない。しかし子供の雰囲気はまったく無い。くぐって来た修羅場の数が違うのだ。


幼少の頃より東は龍造寺、西は松浦に波多・伊万里。南は大村・有馬と、盟を結んでは戦い、戦っては盟を結ぶを繰り返してきた。最終的には自分の親、実父ではないにしても養父を追放した。


実権を握らなければ、家どころか命さえ危ない綱を渡ってきたのだ。違うはずだ。


それに比べて波多鎮は一番若いし、元服したとは言え、正直まだ子供である。これが初陣なので憧れと焦りが混ざり合っているのだ。母に翻弄され重臣の逃亡を許してしまい、その後も家臣の甘言にのって危うく家をつぶす所であった。


その波多鎮より三歳年上なのが伊万里治と松浦盛である。二人とも二度目の戦場だ。


伊万里治は優秀ではある。ただ、どうしても主君の妹を娶っているという特別意識が抜けきらないのだろう。時々鼻につく発言や行動で周りをヒヤリとさせる事がある。


松浦盛は、なんと言うか温室育ちと言うか、世間知らずと言うか。斜陽ではあるが、名門相神浦松浦家の養子として、当時権勢を誇った有馬家から迎えられ、紆余曲折を経て今に至るが、どうしてもそういった雰囲気が抜けきらないのだ。


「ああ!伯耆守様!(後藤惟明)どうですか?伯耆守様は誰が適任だと思いますか?」

三人が目を輝かせて聞いてくる。


正直どうでも良かった惟明は、


「そうであるな。三人とも誰もがふさわしくあるが、決めるのは第一軍団長の宗像氏貞殿であるぞ」。

顔はニコニコしているが、内心は


(面倒くせえ、温室育ちのこのくそボンボンどもがあ)。


とでも思っていたのかもしれない。三人は歳も近い事もあるし、地理的にも近いので惟明には親近感を抱いていた。惟明もそれ自体は嫌っていなかったし、三人の事も嫌いではなかった。慕われるのは嬉しいものだ。


ただ、こういった、ぬるい雰囲気がどうにも苦手だったのだ。


「そうですね!誰が先陣を賜るか、楽しみです!」

元のわちゃわちゃした雰囲気に戻る。しかし・・・。


『ハツ ソウシ アテ ゼンシ ヒメ ワレ ヲヲトモト ワヘヰニ ケツス チクゼンタケヤマジヨウ ハウヰ カヰジヨ カウゲキ テヰシ ニテ ゼングン カウゲキ テヰシ リヨウナヰマデ ヒキ タヰキセヨ ヒメ マルハチ トリサン(1800)』


「ええええええええ!!」


三人の悲痛な叫びが夜陰に響いた。惟明は苦笑いである。


亥の一つ刻(2100)の事であった。

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