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波多親の将来 十四箇条の定め

永禄九年 正月 岸岳城 沢森利三郎


主殿上座に座っている波多三河守は、震えているのを見せない様に、必死に堪えている。無理もない。われらが殿より若いのだ。おおかたろくでもない奸臣にそそのかされて出兵したのであろう。しかし、責任は取ってもらわねばならぬ。


「利三郎とやら、なにか用件があって参ったのであろう。早う申せ。」

参った。なぜこうも名家意識の強い方々は上からなんだろうか。重臣有浦大和守高が催促する。


「用件も何も、三河守様におかれましては昨年末、われらの盟友である伊万里兵部大輔様の桃川城に攻め入り、さらには伊万里城までせまりたるはいかなる所存か?盟を反故にし、われらに敵対する意思明白とお見受けするが、いかに?」


「これは異な事を申される。国境を侵したのは伊万里のほうではないか。」


「なんと?」


「われらその報を聞き、ただちに兵を整え向かったところ、聞けば、現地の百姓が確かに兵が通り過ぎるのを見たと申すではないか。桃川城のある桃川村の東、本部村はわが領地ぞ。」


「なにを馬鹿な!その様な誤解が生じぬよう、国境の村を通る事は事前に通達いたしておったであろう。」


「それに本部村は武雄の後藤様の領地だと思っておったが、いつから波多様の領地になったのだ?しかもお主らは自分の目でわれらが兵を見たわけでもなかろう?」

わしは詰め寄る。


「誰が見たか見ないか、は大事ではござらぬ。要は入ったか入ってないか?でござる。本部村に入ったのが事実であれば、そなたらがわれらの国境を侵した事に他ならぬ。」


「事の真偽も確かめず、不可侵の盟の相手であり、しかも手切之一札もなしにござるか?あまりに性急にござる。事実伊万里城下での戦いで、こちらも大勢の死人がでております。」


わしは呆れて物が言えなかった。


「それは、こちらも同じ事。」

と大和守。


ダメだ。話が噛み合わぬ。堂々巡りだ。伊万里城下まで攻め入っておいて、こちらが悪いだと?確かに本部村の領有権に関しては、後藤様と波多で何年にも渡って奪い合いが続いておったときく。


後藤様は不可侵には入っておらぬので、この問題とは無関係だ。仕方がない、最後の手段といくか。


「わかり申した。では、そちらは何があっても譲らぬ、このまま、なにも変わらず現状のまま、でよろしいか?」


「それでいい。最初からそう言っておるではないか。では、この件はこれで終いだな。」


「本当にそれでよろしいので?本当ですか?」


「くどい!よいと申しておろうが!!」

有浦大和守高が声を荒らげる。


「わかりました。では、壱岐の国(元波多領)の件はそのままで。」

大和守はしばらく考えた後に、しまった!という顔をしている。


「今、壱岐国は宗讃岐守様が治めていらっしゃる。讃岐守様は、先だってわれらと攻守の盟を結び申した。もし誰かが、壱岐国をかすめ取ろうなどといたしたなら、われらは全力で排除いたす。」


「また、《《今のままで》》、ならば、われらとその方ら、兵部大輔様とその方らの不可侵の盟は破られておる。しかしてそのうち兵部大輔様が波多領に攻め入るであろう。無論、われらもご助力いたす。どこに助けを求めまするか?誰もおりませぬぞ。」


「ま、待て。その方の言い分ようわかった。今しばらく考えるゆえ・・・。」


「いえ、考えていただかなくても結構にござる。もう決まった事ゆえ。それがしこれから戻り、わが殿にそのままお伝え致す。波多、一戦も辞さず、と。」


「いや、だから、待ってくれと申しておろう!」

腕を掴んできたぞ、こやつ。


「だまらっしゃい!!あろう事か幼き主君をたぶらかし、龍造寺の甘言にのって彼我の戦力を比べる事もなく、状況も考えずに兵を出した。そして敗けた上に我関せずとはこれいかに!!」


腕を振りほどくと、ひいいいっと言う情けない声とともに、大和守は手を離し尻餅をつく。わしは大和守をきっと睨みつけ、そのまま視線を三河守様へ向ける。


「三河守様、話を進めてよろしいでしょうか?」

上座の三河守様は震えてうなずく。


一つ、壱岐国は宗讃岐守が治る事

一つ、伊万里城下に兵二千を常駐させ、随時増減し、事態に対応させる事

一つ、大和守は隠居、政の一線から退く事

一つ、小佐々の行政顧問団を常駐させ、政は一切相談の事

一つ、波多家中、家臣総じて他家との婚儀の際は、必ず小佐々の許しを得る事

一つ、本部村は武雄後藤氏の領有とする

一つ、小佐々領内諸法度を守らせる事

一つ、これまでの外交文書は無効とし、新たに協議の上作成する事

一つ、家臣の知行・俸祿は勝手に決めない事

一つ、全ての訴訟において勝手に行わない事

一つ、年貢の徴収・分配・利用も一切顧問団に任せる事

一つ、新たに法を定める事を禁ず

一つ、賠償として月五百貫を小佐々に十年にわたって支払う事

一つ、暇を願う者はこれを許し、望む者は小佐々が召し抱える事


こうして波多領の保護国化がはじまった。

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