心を蝕む
それは…小さな場所で…
小さなものによって、始まった。
初めは、誰も関心をしめさなかった。
しかし、
じわじわと、染み込んできた。
最初は、夜の暗闇から…
次は、夜の明かりに照らされ、
そして、
それは、普通の日差しの中にまで、存在しょうとしていた。
激しく、扉を叩く女がいた。
壁のような一枚鉄の扉は、頑丈だ。
女の力では、びくともしなかった。
拳から、血が出るまで、いや…出ても、叩き続けた。
だけど、
扉は開かない。
発狂したような声を上げると、女は両手で、しばらく叩いたが、しばらくして…女は、扉に耳をつけた。
微かな振動で、中の音が聴こえた。
それだけで、女は涎を流して、うれしそうな顔をした。
ああっ…。
声をもらしていると、
ゆっくりと扉が開いた。
光のない光…
外の暗闇より、明るい癖に、暗かった。
ぬ~うと、細長い手が扉の中から、出てきて、女の首筋を掴むと、そのまま.....中へと引きずり込んだ。
扉は、すぐに閉まった。
「何をしにきた…」
まだ喘ぐ女は、歓喜の声を上げた。
さっきは振動だったが、
今は直接、浴びることができたからだ。
音だ…。
この音は…。
狂ったように、両手を天に向けた。
そこにいる者たちは…。
「チッ!壊れてやがる」
女を中に入れた男は、そう呟くと、女を離し、乱暴に床に投げ捨てた。
「仕方がないでしょ…」
奥の方から、ブロンドの髪を束ね、黒いスーツを着た女が、出てきた。
「直接、聴いてるんだから…」
ブロンドの女は、後ろを振り返った。
そこは、百人程が入るライブハウスだった。
そのステージの下では…
観客は叫びながら…狂っていた。
本能のまま…
快楽を楽しむ。
「あたしたちだって…これがなければ…」
ブロンドの女は、髪をかきあげた。
耳につけたヘッドホンなようなもの…。
「これをつけていても…体が、火照ってくるのに…」
ブロンドの女は、喘ぐ女をちらっと、蔑むように見る。
「こいつがしつこく、ドアを叩きやがるから!」
男は女を掴むと、無理やり立たす。
「聴きたけりゃー金」
男の肩に、ブロンドの女が手を置いた。
「ティア…」
ティアと呼ばれたブロンドの女…。
ティアは微笑み、
「いいのよ…お金なんて…後で」
ティアは女の耳元で、そっと囁いた。
「今日は、一人で来たのね。それはダメって…言ったはずよ」
ティアはさらに、微笑むと、女の耳を掴み、
そのまま、女を外へ引きずり出した。
女は、耳がちぎれそうになっていても、興奮していた。
「次に、来る時は…あなたの、大切な人を連れて来なさい」
ティアは扉を閉めながら、
「あなたの大切な人…それが、この会場のチケットよ」
外に出され、泣き叫ぶ女。
女は這いずりながら、中に戻ろうとするけど、
ティアは鼻で笑いながら、扉を閉めた。
「大切な人ねえ…」
男は笑い、
「金の方が後悔しないぜ…」
ティアは苦笑し、
「狂うときはいっしょ…」
ステージの上を仰ぎ見た。
そこにいる者…。
それは…闇。
心の闇。