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足取り

「和也!」


学校に登校すると、直樹はすぐに、和也を探した。


教室にはいなかった。


あまり人が来ない、理科室とかがある南館に通じる…渡り廊下にいた。


一人、物思いにふける和也に、直樹は近づいた。


「おはよう!こんなところにいたのか」


和也は、直樹に気づき、


「ああ…おはよう…」


少し目を伏せた。


直樹は、和也のいつもと違う雰囲気に気づいた。


「どうかしたのか?」


和也は驚き、直樹を見た。


しかし、あまりにも真っ直ぐな瞳に、すぐに、目をそらした。


「別に…何でもない」


そんな台詞で、直樹が納得するはずがない。


和也は笑顔をつくり、


「ちょっと昨日…眠れなくてな」


「大丈夫か?何か、心配事とかあるのか?」


和也は首を横に振り、


「単に、寝苦しかっただけだ…ありがとう」


「…モデルの仕事は、きついんじゃないのか?あまり無理するなよ」


「ああ…」


和也は目をつぶり、直樹のやさしさを噛み締めた。


目を開けると、直樹を見、


「お前。何か話があるんじゃないのか」


直樹は照れくさそうに、頭をかき、


「お前に、相談したいことがあるんだ…」


「相談?」


直樹は、顔を真っ赤にして頷くと、


「速水さんとの…ことなんだけど…」


「速水…」


和也の脳裏に、昨日の光太郎の言葉が蘇った。


(香里奈をものにしろ!)


「クッ」


和也は、少し顔をしかめた。


「どうした?」


直樹は、和也の顔を覗き込んだ。


「何でもない」


和也は顔をそらしながら、直樹にきいた。


「それで…相談の内容は」


直樹は訝しげに、和也を見つめながらも、


相談内容を思い出し、また赤くなる。


「は、速水さんと…デートしたいんだけど…どこかオススメないかな…」


「デート…か…」


「和也だったら…どこかいいところを、知ってるかと思って」


和也は、もたれていた手すりから離れ、


歩き出す。


「すまん…直樹。思い浮かばない」


「和也…」


「もう授業…始まるぜ」


教室に向かう和也の後ろ姿を、直樹はしばらく見送った。








都市の中心地にあるビル。


周りに比べたら、大きくはないが、それでも、名前は有名だった。


Pーレコード会社。


明日香が、所属する会社だった。


ビルの一室。


海外事業部に、明日香はいた。


「残念だけど…くわしいことは、わからないね」


海外事業部課長、井上は世界中から送られてくるFAXに目を通しながら、こたえた。


「確かにネットでは、話題になっているみたいだけど…メジャー会社とは、まだ契約していないみたいだし…」


「そうですか…」


明日香は、肩を落とした。


隣には、和恵がいる。


「最近は…向こうの話題は、うちらレコード会社より、ネットやファンの方が詳しいよ。こっちに送られるより、情報早いしさ…」


「わかりました…お手数をおかけしました」


頭を下げる明日香に、慌てて井上は、席を立った。


「やめてください!所属アーティストに頭下げられるなんて…それも速水さんに!上に怒られます」


井上は、頭をかき、


「何か入りましたら…すぐに知らせますんで…」


「お願いします」


また頭を下げると、明日香は去ろうとする。



慌てて、井上は止めた。


「ま、待って下さい」


明日香と和恵が、振り返る。


井上はさらに、頭をかき、


「今朝新聞見て、気になったんですが…」


資料で、散らかっている机の上をかきわけ、新聞を取り出す。


「あった…これだ」


井上は新聞を開け、明日香に見せた。


「引きこもりの男性…母親を殺害…?」


明日香は、記事を読んだ。


「ネット上で…音楽の情報を、ダウンロードして聴いていた男性が…いきなり、ナイフを持って暴れだした…」


「男は神のお告げが、パソコンに宿ったと…わめきながら…そのまま…逃走…」


井上は補足する。


「最近こういった、パソコンでダウンロードした音を聴いて…おかしくなった、気分が悪くなったというのが、多いんですよ」


明日香は、井上に迫った。


「その音楽は、何です!」


「わかりません…新聞に、そこまで載ってないし…」


「調べられませんか?」


明日香のあまりの迫力に、井上は後ずさる。


「わ、わかりました…ネット検索してみます」


机の上から、ノートパソコンを探しだし、井上は検索する。



「でました…」


すぐに情報は、得ることができた。


しかし、その文字を見た瞬間、絶句した。


「KK…ダブルケイ」




パソコンの画面上に現れた、数多くの同じ文字…


KK。


それは賞賛と、お薦めの嵐だった。


感動した。


凄くいい。


気持ちいい。


癖になる。


数多くのホームページが、絶賛し、


すぐにでも、KKのホームページにアクセスできるようにしていた。


井上は、唾を飲み込み、


「いきますよ」


KKのホームページに、アクセスしょうと、カーソルを持っていった。


クイックしょうと、指に力を込めた。




「待って!」


明日香が叫んだ。


「え!」


驚いて、井上は思わず飛び上がる。


「井上さん…あたしが後で、別の場所でアクセスしてみます」


明日香は、画面の文字を見つめ、


「井上さんは、しない方がいいです」




丁寧に挨拶して、去っていく明日香たちを見送った後…


井上は再び検索した。


「俺だって、音楽業界にかかわっているんだ」


画面をクイックする。


「どんな音か気になる…」


画面上にKKの文字。


ホームページは、何の変哲もない。


至って普通だ。


ライブ活動などを、PRしている。


「ダウンロードと…」


井上は、CDRをセットした。



普通に、CDRは焼き上がり、


井上はそれをかけた。






「ただの普通の音楽…?」


ビルを出た明日香の携帯電話に、着信があった。


電話に出ると、横田からだった。


「ああ…ダウンロードしたやつから、聴いたんだが…別に、頭がおかしくなるとか、気分が悪いとかは、ないみたいだ」


横田は昔、河野和美のマネージャーをやっていた。


和美は日本を去るとき、明日香に、横田を紹介していった。


明日香は学生時代、いろいろお世話になり、


今は、明日香のマネージャーになっていた。


「ただし…」


横田は言葉を切り、


「毎日聴きたくなる程…BGMとしては、最高らしい」


「BGM…」


明日香は呟いた。


(あの人の音楽とは一番程遠い言葉…。)


しかし、


インストなら、仕方ないのだろうか…。


「それと…もう一つ」


「もう一つ…?」


横田は勿体ぶる。


「今とれる音は…昔のと違うという噂がある」


「音が違う?」


「まさしく、その通り!演奏は同じだが、音の感じが違うと」


明日香は考え込んだ。


隣で、和恵が不思議そうに、明日香を見上げている。


「それは、いつからなの?」


「わからない…少なくても、あの事件以降はないと思うが…」


「できれば…以前の音を、手に入れられないですか?」


明日香の手を、和恵が握った。


もう退屈なのだろう。


「何とか探してみる」


携帯が切れた。


明日香は、すぐに和恵に微笑むと、手をつないで歩きだした。


「ママ…早く、お姉ちゃんこといこうよ」


「そうね。早くお姉ちゃんとこへ、帰りましょう」


「うん!」


元気よく頷く和恵を見て、明日香は、手をしっかりと握り、決して離さないと、

改めて、心に誓った。













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