臓器売る
私の下にやって来る人間は二種類居る。
残忍酷薄な犬畜生にも劣る悪人と、不憫な善人。
一方は私欲が為に、一方は人が為に。
『お父さん借金がいっぱい。目一杯がんばって来たけど、もうお父さん無理みたい。だから、買って下さい』
今回は、後者の哀れな売り手だ。
『どこを売ってくれるのかな』
『お腹、全部』
『いいの? 死んじゃうよ?』
『うん。借金無くなる……?』
『どうだろう。でも君は随分若いから、とても高く売れるよ』
『どれくらい』
『そうだね。あすこに馬車あるだろう』
『うん』
『それが三台は買えて、かつ毎日おいしい物が食べられるよ』
『そっか』
首を傾けて暫く考えた後、哀れな善人は先程よりも大きい声で言った。
『じゃあ買って!!』
満面の笑みに私の心は悲しくなった。だが仕事に感情は全く関係ないので、父の氏名などーー
ーーその他諸々尋ね、善人に麻酔を施した。
胸骨から臍のあたりに赤い切り取り線を入れ、腹を裂くとーー嗚呼憐憫。
『やはりか。同姓同名であって欲しかった。……君の父親はね、随分前に私から臓器を購入したのだよ。ーー君の為にね。それなのに今度は君が、父の為に命を』
親孝行なのか、親不孝なのか。私には解りかねる。