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誘蛾灯が語る恋
陽も隠れなすった暗夜に、おりゃアの意識が朦朧とする筈もない。だから夢ではねェんだ。
『将校は』
威光たる声は、確かにそこにあった。
『言わぬが花』
失望した女の声も、おりゃア覚えているーーはっきりと。
『嫌な時代ですね』
『いいえ、あたしはそうは思いませんわ』
女はそれだけ言うと、何処かへ行っちまった。
代わりにやって来たのは、おりゃアの灯に誘われたーー蛾だった。
次に威光たる声を聴いたのは、お月さんが半分になっている時分だった。
『賊國の泥棒畜生がっ! 将校が皆に変わり、お前を害してやるっっ!』
怒鳴り声が止むと、呻めき声がーーそして笑い声が。
『……』
今でもおりゃアの耳には残っている。
群衆の高笑い、女の呻めき、ともすれば男の泣き声も。