友人の話
世の中にはこんな言葉がありますね。
「百害あって一利なし」
煙草狂いの太郎くんも、よく友達に『百害あって一利なしだよ』と言われてたそうです。それはともかく、太郎くんの職業は冒険家でした。
「人跡未踏の地で世間が驚くーー大発見をしてやる」
そう言った心持ちで彼は色んな場所に赴きました。
雪山では『暖をとる』と言って煙草に火をつけてましたし、洞窟では『灯を灯す』と言って松明の代わりに、煙草に着火してました。
それはともかく、太郎くんが次に向かったのは野生動物跋扈するーー立入禁止の薮の中。
恐怖知らずの太郎くんは、太々しい歩幅でどんどん進んで行きます。
「動物に悪影響があるんじゃない」
友達の注意を無下にして、太郎くんは更に歩幅を早めます。すると日本狼が現れました。
「絶滅してなかったのか!!」
興奮する太郎くんは、煙草を取り出しました。
そして火を点火しました。ーーいつも通りです。
状況が逼迫しようとも、私の心臓が緊張の為に圧迫されようとも、彼はいつも通り、煙草を吸っておりました。
近づいて来ます。手が届きそうです。
と思ったのも豈図らんや。日本狼は背を向け、大急ぎで逃げて行きました。
後に動物学者とやらに話を聴きますと『煙草の臭いが君達を守った』との事でした。
そして、それを聴いた太郎くんが一言。
「百害あれど、時には一利あり」
御後が宜いようで。