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何れ菖蒲か杜若
執行人は逡巡する。
すると艶かしい女が、
「どうぞ、斬って下さいまし」
執行人は、妖艶な女の名を気だるそうに呼んだ。
「菖蒲」
しかし女は返事をしなかった。
すると、たわいない女子がーー
その幼さと無邪気さをもって、
「じゃあア、あたしは助かりますのね。良かった。これで貴方様と」
執行人は、可憐な女子の名をーー
哀しそうに呼んだ。
「杜若」
が、女子も返事をしなかった。
執行人は刀を頭上高く上げると、故意に言葉を漏らした。
「選べぬ」
ーーだが斬首しなければならぬ。どちらかの人名をば犠牲に……矜持を保とうぞーー
執行人。否、男は自分に言い聞かせた。
虫が喧しい白昼に上がったのは嫌アに輝く刀。
それは天高く上がり、あるいは構えられたる。
「何れ菖蒲か杜若」
不幸を主とした物語が延々と続きます。連載という形ですが、短編を集めた一編の小説となります。