第7話 洞窟③
「なんか、寒くないか?」
6層に入り肌寒さを感じ始めた俺たちは、未だにアジールパーティを見つけることが出来なかった。
「そもそもアジールパーティにここまで来る実力なんてあるの?」
「8層までは問題ないと私は聞いてます」
この寒さに不快感を感じ始めた俺は急ぎ足で歩く。
「分かれ道ね」
ここまではサキさんが道を案内していてくれたが、これからは自分たちで決めるしかない。
「もう!どっちでもいいじゃない!女神の私が決めるわ・・・私は右手で杖を持つから…右へ行こう!」
せっかちな女神は考えることもしないで先に進もうとする。
「多数決にしようか」
俺は皆の意見を聞くために多数決を選ぶ。
「せーので指を指そう。それじゃ、せーの」
ベニトアイトは勿論右。俺とマルツは左、そしてシグーナが右を選び見事に分かれた。
「・・・どうするのよ?」
「・・・それじゃ、間をとって真ん中を進もうか…」
実は間の壁に違和感を感じていた俺は、左右の道の間に立つ岩壁に向かって矢を放った。矢の先端に魔力を込めた一射は壁にぶつかると同時に爆発。崩れ落ちる岩壁からは塵とホコリと冷気が俺たちを襲う。
「こ、これは…」
砂煙が収まったことろで、3つ目の道が姿を現す。
「もしかして隠し通路?」
「そのようですね。しかし、この先にアジールパーティが居るとは考えづらいのですが…」
「それもそうだよな。やっぱり右の道に進むか」
その時、1匹の兎(?)見たいな動物が6層の入口から跳ねてきた。
口にくわえた手紙を俺の前に落とすとそのまま来た道を戻って行く。
「何だったんだあの生き物は?」
兎の姿が見えなくなったとこで俺は手紙を取った。
日下部秋人殿
アジールパーティと思わしきパーティが4人帰還しました。
サキ
要件だけ書かれたその手紙は俺たちの捜索の終わりを告げると共に、未知の道へ踏み込む為の一通となった。
「進むか?」
「未開拓地ですか。危険が伴いますのであまりオススメは…」
「そうよ!今日はもう帰ってゆっくりしましょ!」
どうやらここまで来て、お疲れの様子のベニトアイトは引き返す提案をしたシグーナの意見を推す。
「しかし、未開拓地で見つけた金銀財宝は、どの街が所有している洞窟だったとしても発見者に持ち帰る権利があるのも確かです」
「さぁ!私たちの探検はここからよ!」
マルツの発言によりベニトアイトは見事に手のひら返しで進むことを決めた。
俺もこの先へ進むことに賛同している。マルツも行く気満々だ。問題はシグーナだ。
「ですが、もし女神様の身に危険があれば…」
「私は大丈夫よ!なんせ秋人が居るのだからね」
「いや、俺に頼られても探索経験なんてないから役には立たないぞ」
「でも、お金はいるんでしょ?」
「・・・それもそうだな」
「ってことで決定ね!」
「は、はぁ…」
ベニトアイトは強引にシグーナを丸め込み、中に入る事になった。
「さぁ行きましょ!いざ億万長者の道へ!!」
何も見えない真っ暗な道を、明かりの灯す魔法をシグーナが使って進み10分ほど経ったが、特にこれといったお宝は出てこない。それどころかモンスターの気配すらしない。
何かがおかしいと感じた俺は引き返す事を提案しようと考えた瞬間、目の前に出てきた3m程の大扉が行く道を遮った。
「引き返そう」
「えぇなんで?ここまで来たのだから入るべきよ!」
大扉から感じる忌避感に胸騒ぎを覚えた。
そんな俺はベニトアイトと行く行かないの口論になる。
しかし、そんな状況とは関係なく大扉は、自ら俺たちを招待するように開いた。
扉の中から溢れ出る冷気は、肌を纏うように全身へ行き渡る。
「それでは僕が先行します」
この異様な雰囲気の中、マルツは戦士としての宿命なのか、己を盾に進み出す。
「待つんだマルツ」
俺の呼び声に聞く耳を持たず進むマルツにベニトアイトは意気揚々とついていく。渋々シグーナと後をついていくと、4人が大扉の中に入ったと同時に扉がしまる。
「しまった!」
これが罠だと気付いた時にはもう遅かった。
大扉が閉まるにも関わらずマルツはこちらを見向きもしないで進む。
様子がおかしい。緊張でもしているのか?
そう思った俺は小走りで先行するマルツの肩を掴む。
「な、何だこれは!?」
驚く俺にベニトアイトも駆け寄る。
「もしかして洗脳?」
明らかに目の焦点が合っていないマルツは何も喋らない。
「これは治せるのか?」
「そんな魔法は持ち合わせてないわ」
次第にシグーナも俺たちの元へ追いつく。
「大変だシグーナ…」
彼女に協力を求めようとした時、俺は気づいた。
「お前も、なのか…」
明らかに様子のおかしいマルツを見ても反応を示さないシグーナ。少し前に出会ったばかりだが、彼女は人を見捨てる様な人間ではない。こういう時にはいち早く駆けつけて心配するはずだ。
だが、何を問いかけても答える気配すらないシグーナ。
「おいおい、これはどういう事なんだ」
異常事態に戸惑う俺とベニトアイトの前に現れたのは人型のモンスターだった。
「俺の洗脳魔法が効いてないのが2匹もいやがるのか。折角冷気に混ぜて分からないようにしたのに…こりゃボスに怒られちまうな」
大きな独り言をブツブツと吐くモンスターは、見るからに硬そうな堅氷を身に纏い、氷でできた剣と盾を持つ。
「おい!そこの洗脳が効いてない奴」
「おい、どうする?洗脳されとるふりしてやり過ごすか?」
俺はベニトアイトに提案をする。が、
「ぶっ倒す!」
と何故か意気込む。
「おい!無視すんなよ!誰が洗脳にかかってないか俺には分かるんだぞ!そこのひょろひょろな猿と、変な女」
「さ、猿だと…」
「わ、私が、女神であるこの私が変な女だと…」
この一言でどうやら2人の殺る気スイッチが完全に入ったようだ。
「やるかベニトアイト」
「えぇ、溶かしてやりましょ秋人」
同調した俺たちをは氷のモンスターに向け武器をとる。
「おいおい、野蛮だ…」
モンスターが喋ろうが今はどうでもいい。俺は相手の言葉を遮るように矢を放つ。
先程のように魔力を込めた矢は、モンスター目掛けて一直線に進むと爆発を起こした。
「おいおい、いきなり酷いじゃないか」
どうやら矢は敵の盾で防がれたようだ。爆発で舞う煙の中から出てきた奴はピンピンしていた。
攻撃を完全に防がれたところで俺は少し冷静になる。
第2射を構えながら対話する事にした。
「俺たちに何の用だ?」
「おいおい、それは無いぜ若造よ。俺たちの住まいに土足で足を踏み入れたのはあんた達だぜ?用件は俺が聞きたいぐらいだ」
「それもそうだな…」
それなら戦う必要は無いのじゃないか?と思った時、ベニトアイトが女神にあるまじき発言をする。
「金品をよこしなさい!さもなければ彼の矢が火を吹くわよ」
「おいおい、面白いじゃないか!やってみるんだな侵入者共よ。それと名乗っておこう!俺の名は〝量産型ゴーレム タイプアイス モデルヒューマン バージョンFー68型〟だ!!」
「わかった!量産型ゴーレム…あれ、何だっけ?」
「フレイムエンチャント!さぁ頼んだよ秋人。あのポンコツアイスマンに一撃を!」
ベニトアイトの援護で俺の矢には炎が宿る。
「こんな炎で倒せるのか?…って、熱っ」
矢の先で燃える炎が手に近付いた瞬間、思ったよりも熱かった炎に驚き俺は矢を放った。
だが、その矢は俺の心配を払拭するかのように、大気中の酸素を取り入れ大きな龍の姿を彷彿とさせポンコツアイスマンを襲う。
「おいおい、これはないだろ…」
氷の剣を持つ奴は接近戦で戦うしかない。その為、炎の中で盾を構え、溶けながら強引に進む。
「どこまで進んでくるんだこいつ…」
矢を放った俺は、こっちに来るなと神に祈る。
補足しておくが、断じてベニトアイトに祈っているわけではない。
「くそぉ!この俺がこんな所で!」
そう言い残してモンスターは俺の2m程前で溶け落ちた。
「や、やったわね秋人!」
喜ぶベニトアイト。だが、俺はそんな事よりも、溶け落ちたモンスターの跡から出てきた小さな水晶玉のような石に心を奪われた。
「こ、これが、戦利品というやつか」
トロール戦ではサキさんが敵の首を落とした為、倒した感が無かったが、今回は戦利品もあるということで俺の心は踊っていた。
だが、そんな状況は長くは続かない。
ドン、ドン、ドン。
鈍い足音が響く。
敵が一体だけでない事は予想出来ていた。俺は戦利品を落とさないようにポケットに入れると、撤退を選択した。
「ベニトアイト戻るぞ!」
この時の俺は、まるでお宝を見つけた少年のように純粋な笑顔を浮かべていた。
それを不気味に感じたのか、ベニトアイトは「そうね」と言い珍しく俺の意見に素直に従う。
しかし、残りの二人が微動だにしない。
「どうしたんだ2人共?さっきのモンスターはもう倒したぞ。これで洗脳は…」
まだ2人の洗脳は溶けていなかった。それどころか石のように固まった2人に加え、ベニトアイトまで様子がおかしくなっていた。
「秋人、早く戻りましょうよ…」
やけに弱腰のベニトアイト。
その瞬間、俺も感じた。
禍々しい魔力の塊を。
「おいおい、俺の試作品を壊したのはお前か?」
それは、既に俺の背後に立っていた。
エムール大陸
1位 ダイタリス
2位 ヘアタイトス
ターコイズ・・・?
デムルド・・・使者
11位 トルピカ
ヒスイ・・・トルピカの担当女神
サキ・・・転移者
12位 ダキア
ベニトアイト・・ダキアの担当女神
日下部秋人・・固有能力(豪運、視野強化、解析)
イリネス・・住民、次の捧げ者
エルマス・・・街唯一の男爵家当主
サルフィル・・・街の長
マルツ・・・14歳の戦士
シグーナ・・・女冒険者
アジールパーティ・・・不明