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最弱の街を担当する女神様は次の転移を絶対に成功させたいのです!   作者: 野寺 いぶき
第一章 街の繁栄と初めての同盟
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第1話 無知な女神

 エムール大陸の最果てに位置する小さな街ダキアで、女神ベニトアイトは復活の兆しを目にしていた。


「さぁ少年よ。名をきかせよ」


 小さな部屋で行われた転移。召喚に必要だったスクロールは端から燃え跡形もなくなる。燃えたスクロールの煙と共に出てきた少年は制服を着た高校生ぐらいの男子だった。


「は?普通は尋ねてきた方から名乗るのが常識じゃないのか?」


 顔を上げ放った第一声は女神の度肝を抜く。どうやらこの少年は思ったことを口にしないと気が済まない性格のようだ。


「そ、そうね…」


 出鼻をくじかれたベニトアイトだが、女神としての威厳を保つため、胸を張り堂々とした態度で名乗る。


「私の名はベニトアイト、この街の担当女神よ。さぁ、次は少年の…」

「駄目だ駄目だ!」


 ベニトアイトの言葉に覆い被せるように放った少年の発言が場を静める。


「えぇーと、ベニトアイトさんだっけ?」

「そうよ」

「なにそのフェイスベールは?君の顔が全く見えないのだけど」

「これは女神の正装なのです」

「だから取らないと?」

「そういう事です」


 少年は軽くため息をついた。


「顔の見えない相手を信仰しろと?」

「私は女神なのよ?この私のお告げを聞けるだけで十分なのでは?」

「今までに転移した奴らはそれで納得したのか?」

「・・・そうよ」


 喧嘩腰の少年に対抗する女神。両者とも譲らない会話の中で、少年は女神の欠点を指摘する。


「この貧相な部屋はなんだ?こんな所に呼び出された側からすると、とても歓迎されているとは思えないのだが」

「それは…」


 ここでベニトアイトが言葉に詰まる。


「それに護衛はいないのか?もし俺が、相手が女と分かれば見境なく襲う変態だったらどうするつもりだったのだ?」

「それは問題ないわ!女神である私が転移してすぐの人間に負ける訳がないわ」


 この辺りから少年は薄々感じていた。


 この女神…アホだな。


 この事実に辿り着いた少年は、言い争いをしている事自体バカバカしく感じ、一息ついて冷静に答える。


「ベニトアイトさん。女神って事はこの街には必要不可欠な方なんですよね?なんでそんな重要人物に側近の1人すら付いてないんですか?貴方が強いとかはさておき、普通は貴方に手出しすら出来ない状況にするべきだと思うのですが。それに、この配置だと、俺が後ろを向いて全力で走れば逃げられますよね?」

「それは…その…」


 既にベニトアイトは口答えする気もないようだ。


「まぁ、状況は薄々理解出来てますが…一応、街の状況など聞かせてもらってもいいですか?」

「はい」


 会話は主導権は完全に少年のものとなり、ベニトアイトはこれまでの経緯を少年に話す。


「そういう事ですか…」


 少年は少し考えると、次の疑問を(てい)する。


「そういえば、この世界に来て肉体の上昇とか特に感じられないのですが、転移特権とかないのですか?」

「あっ!それはこれから…」


 まるで今思い出したかのような反応をするベニトアイトは、1枚のスクロールを取り出た。


「へぇ、スクロールか。これは時代を感じさせられるな」


 この世界に転移する者は、多少なりとも転移願望のある者から選ばれる。この少年もその1人であり、異世界への憧れは常人よりも強いと自覚していた。

 目の前に広げられたスクロールに浮かび上がる文字はそんな少年の心を射止める。


「どれどれ…」


 興味津々で近付く少年に女神が一喝。


「駄目です!」


 部屋中に響き渡るベニトアイトの声は少年の足を止めた。


「これは女神のみが扱うことの出来る神聖なスクロール。転移者

 と言えども触れさせることは出来ないわ」

「それは絶対なのか?」

「絶対です」

「破ったらどうなるのだ?」

「それは…」


 ここでもベニトアイトの知識不足が露呈(ろてい)する。


「お前、挑戦って言葉知ってるか?」

「それぐらい誰でも知ってるわよ。馬鹿にしてるのかしら?」

「それじゃ、なぜ挑戦をしない?疑問を疑問のまま放置する。それが今の状況を招いているとは思わなかったのか?」

「それは…でも、この世界に来たばかりの貴方では言葉が理解できないはず」

「そんなもの見て見ないと分からないだろ?」

「・・・わかったわ。これが貴方のステータスよ」


 スクロールにはベニトアイトの言った通り意味のわからない言葉が(つづ)られていた。たが、それはほんの一瞬だけだった。1度目を通した文字は自分でもよく知ってる日本語に自動翻訳されていった。


「ふむふむ。平均的に筋力値と器用値が高くて、耐久値と俊敏値が低いのか」

「ひえっ!読めるの?」


 生意気だったベニトアイトは、ここで初めて女神らしい可愛い声で反応した。


「あぁ、問題ない。それよりもこのステータスもいじれるのか?」

「もちろん。まずはここから選択するのよ」


 そう言うと、ベニトアイトは全ての値を筋力値と耐久値に当てようとしていた。


「ちょっと待て!」


 少年はベニトアイトの手を掴む。


「ちょっと!神聖な女神に触れるとは…」

「そんな事はどうでもいい。それよりもこの振り分けはなんだ?俺に何を求めているんだ?」

「戦士よ!やはり敵を殲滅するには攻撃と防御に長けた戦士が必要なの」

「お前、俺がここに来る前何やってたか知ってるのか?」

「学生でしょ?」


 見たまんまの大雑把な解答が返ってきた。

 この女神は今までこんなやり方で転移者のステータスを決めてきたと思うと頭が痛くなってきた。


「あのな…なんで俺のステータス、筋力値と器用値が高いのか分かるか?」

「そんなの生まれつきじゃないの?そもそもなんでこんな器用貧乏見たいな値なのか私が教えてほしいぐらいだわ」

 

 はぁ〜と大きなため息をつく少年。ベニトアイトの世間知らずは折り紙付きだ。そんな何も知らない女神様に少年は優しく教えてあげる事にした。


「学生なのは間違いない。でも俺は青春を弓道部に費やしてきたんだ」

「キュウドウ?なにそれ?」


 部活などという概念のないこの世界で弓道という言葉を知らないのは仕方ない。しかし、他の転移者ともしっかりコミュニケーションを取っていたらと思ったが、少年はその感情をそっと胸の奥にしまう。


「弓道部は弓を扱う部活動のことで、的に命中させた矢の数を競うスポーツで…」

「あっ!弓の事ね。わかったわ」


 どうやら彼女はこの話題に興味を惹かれなかったようだ。


「でもね。折角異世界に来たんだから戦士の方がいいと私は思うんだ」


 なんと押し付けがましい女神なんだ!

 と、ツッコミたいが、こういう所も全部引っ(くる)めて彼女を理解していかないといけないのだろう。


「悪いが戦士になるつもりは無い。俺が向こうの世界で弓を扱っていたのは異世界に来た時に大きなアドバンテージになると思っていたからだ。だから、値は器用値、魔力値、精神力、知性、あとは運に平等に振ってくれ」

「それじゃ勇者にはなれないわよ?」

「誰が勇者になると言った?お前はなんでも決めつけすぎなんだよ。勇者じゃなくても街は救える。俺がそれを証明してやるよ」


 少年の言葉を聞くと、ベニトアイトは渋々、指示通りの能力値に振り分けた。


「それじゃ次は固有能力ね。基本は1人に付き1つ。今回は20回目のボーナスも付くから運が良ければ2つになるわ」


 弱小措置20回連続ボーナス

 ・能力値10倍

 ・超速回復

 ・豪運

 ・瞬間移動(半径100m)

 ・転移(大陸内)


「この中から選べと?」

「そ、そのはず…」


 当たり前のように並ぶチート能力を前に両者とも動揺を隠しきれない。


「お、おい。いつもこんな能力が出るのか?」

「い、いえ、これまで19回もやってきたけど、こんなの初めて見たわ…」


 少年は息を呑みながら最善の選択を考える。

 一方、ベニトアイトは・・・


「うへへへ、どれにしようかな。瞬間移動……いや、ここは万能な能力値10倍か?」


 まるで、目の前に出された高級料理を選ぶ腹ぺこ人間のようだった。


「よし!豪運にしよう!」

「えぇ!?豪運?」


 瞬時に少年の顔を見上げたベニトアイト。「え、なんでよりによってこれなの?」とでも言いたいのだろうか。フェイスベールのせいで表情が見えないのでよく分からないが、先程よりも明らかに低くなった声のトーンと、豪運?という疑問を持つ答え方が彼女の心境を表しているように思えた。


 だか、少年は1度決めた選択を変えることは無かった。


「豪運だ。この街で成り上がるにはこれしかありえない」


 ハッキリ言い切るとベニトアイトはこれも渋々受け入れる。


「それでは、これで貴方の能力は決まりね」

「固有能力は2つじゃないのか?」

「どうやら今回も運が悪かったみたいね。20回ボーナスしか出てこないわ」

「これはなんだ?」


 スクロールの右端に浮かぶ〝︙〟。少年はこの点に付いて尋ねる。


「知らないわ」

「触れた事もないのか?」

「そんな事しなくても能力の入力は完了するので…」


 興味すら示さなかったベニトアイトが右端の点に触れると、スクロールから新たに文字が浮かび上がる。


 固有能力

 ・水中耐性MAX

 ・硬化

 ・視野強化


「・・・おい。これはなんだ?」

「え、えーっとこれは…」


 なんと、右端の点には固有能力を選択するといった大切な役目が隠されていた。


「お前、この街に来る前にレクチャーとか受けてないのか?」

「あ〜、確かに1人目の転移者を召喚した時には上級女神に教えてもらったけど、しっかりも聞いていなかった…かも…?」


 ・・・はぁ〜、ダメだこの女神…


 いちいち文句を言っていたら進まないと痛感した少年は、これ以上追求することなく話を進める。


「それじゃ、ここは視野強化で」


 ようやく少年の2つ目の固有能力が決まったが、次の瞬間、更に驚くべき事実が発見される。


「おい、この数字…」


 2/19


「なんか2ページ目に入ってないか?」


 少年の予想は当たり、スクロールは再度、3択の固有能力選択が可能になる。


「これ…絶対今まで転移してきた奴らの分だろ」

「さぁ、少年よ。どれを選択する?」


 なんと、この無知な女神はここにきて何事も無かったかのように開き直り選択を強いる。


「はぁ〜〜〜」

「どうしたの?この私。女神ベニトアイト様が転移者に選択の余地を与えているのよ?さっさと決め…」

「それじゃ、これで。次はこれ。次は…」


 少年はベニトアイトが話しているにも関わらず、話を途中で遮り、今まで温存(?)していた19人分の固有能力を流れ作業のように決めた。


「そんな適当な決め方で。後から文句言っても知りませんわよ?」


 この女神「さっさと決めろ」とか「そんな適当な決め方」とか散々文句言いやがって…

 たしかに、最初の固有能力を決める時は少し悩んだが、自分の戦闘スタイルが決まれば残りの選択は簡単だった。


「問題ない」


 少年が決心を決めると、スクロールが光輝き辺り一帯を包み込んだ。


 今の心境を一言で表すと、自分の体のことは自分が一番わかっている。という言葉が一番しっくりくる。脳天から足の指先まで、感じたことの無い魔力の流れが感じられる。

 更に、この感覚はゾーンと言うべきだろうか。身体中の感覚が研ぎ澄まされる。今なら狙って継矢(つぎや)を出来ると言っても過言ではない。


 そんな感覚に包まれること1分弱。徐々に光が収まると、元いたボロっちい部屋の景色が広がる現実へと引き戻された。


「これで貴方のステータスも確定したわ。さぁ、少年よ。行くがよい。貴方の力でこの街を救ってみせるのです!」


 もっともらしいことを言って少年を部屋から追い出そうとするベニトアイト。


「そうだな。こんな力を貰ったのだから、それに報いる働きはしないといけないな」

「私はこの部屋から常に貴方を見ています」

「その必要は無い」

「えっ!?」


 その瞬間。少年はベニトアイトのフェイスベールに手を伸ばした。

読んでいただきありがとうございます。


面白い、続きが読みたいと思いましたら★★★★★を頂けると幸いです。もしかしたら、投稿頻度が上がるかもしれません…



ここでは登場人物や街などなるべくわかりやすくまとめておこうと思います。



エムール大陸


1位 ダイタリス


2位 ヘアタイトス



12位 ダキア


ベニトアイト・・ダキアの担当女神

少年・・固有能力(豪運、視野強化)

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