№3 東京でハナクソが固まりました
ええ、でっかいのが。
大助の地元八女の景色が一望できる場所でコーヒーを2人で飲んでいた時の話である。
「ねぇ、大くん、私ライブに行きたいんだけど」
「いいやん、行っておいでよ」
「そう」
「いいよ、いいよ」
「やった。ありがとう」
みたいな会話だったと大助は認識している。
ところが・・・。
ある日の電話にて、
「ライブ一緒に行ってくれるって言ったよね」
と、芽衣。
「えっ、一緒?」
戸惑う、大助。
「そうよ」
「そうだっけ?」
「東京であるから」
「へっ」
「東京」
「そっ」
「行ったことないかも」
「よかったじゃん」
「・・・そだね」
電話を切った後、
「なんだかなあ」
と、大助は一人呟いた。
という訳で2人は東京へ一泊二日の弾丸ツアーへやって来ている。
昼時、空港に着くと慣れた芽衣の後に続き、東京駅を降り、東京ドームへと向かう。
大助は一体、どこ歩いているんだろうと、はじめての東京におのぼりさんよろしく、きょろきょろと都会の景色を眺めながら、彼女に付き従う。
東京ドームでは韓流男性アイドルの「シャイニー」のライブだった。
大助は「東方神起」と「2PM」そしてこの「シャイニー」は車中で嫌というほど聴いているので、一応、知識はあった。
なので、大丈夫なのである・・・彼女の為・・・仕方ないのである。
会場でペンライトを渡される。
「えっ、これ腕につけるの」
ライトは腕時計型になっていて、これの取り扱いに大助は戸惑う。
「そうみたいね」
芽衣はライブがはじまるのを心待ちにしている。
「これ振ればいいんだよね、どのタイミング」
「楽しめばいいよ」
「女性ばっか」
「そだね」
「凄く多いね、人酔いしそう」
おのほりさんあんど久々のライブに大助は饒舌となり、矢継ぎ早に芽衣へ話しかける。
「そね」
開演時間が近づき、全集中に入る彼女。
「東京ドームって、福岡ドームより狭い感じが・・・」
「もう!そろそろ始まるから・・・集中、集中、きゃーっ!」
ステージ上に彼らが姿を現すと、芽衣はその世界へ浸った。
「・・・・・・」
「あー、楽しかった」
芽衣は満面の笑みを浮かべ、ライブの余韻に浸っている。
「俺は疲れたよ」
「ありがと。付き合ってくれて」
「いいえ、こちらも初東京貴重な体験が出来ました」
2人はライブの後、夕食をとり、宿泊先のビジネスホテルの部屋にいる。
「さて、明日も楽しむよ~」
芽衣ははりきっている。
「そ、そう」
大助はベッドに倒れ込んだ。
「明日もハードよ~」
「・・・はい」
翌日、2人は電車で鎌倉へ向かう。
鎌倉の大仏を見学し、途中タコ煎餅を食べる。
鶴岡八幡宮でお参りと御朱印ゲット。
江ノ電で江ノ島へ、それから徒歩で江ノ島弁天橋を渡る。
「これが江ノ島・・・♪江ノ島が見えてきた俺の家も近い♪」
「そうそう」
2人は江ノ島神社でお参りし、御朱印をゲットし、弁天仲見世通りでしらす丼を食べる。
帰りは小雨が降りだし、滞在時間リミットもなくなり慌てて戻る。
大助はひたすら芽衣の後に従い、電車を乗り換え無事空港へ到着する。
息つく暇もない、まさに弾丸ツアー。
芽衣の来た以上は絶対、満喫する精神を象徴する旅だった。
待合の椅子に2人は腰掛ける。
大助はぐったりとうなだれる。
「楽しかったね~」
芽衣が微笑む。
「うん。楽しかったけど疲れたよ」
「・・・ちょっ、大くん」
「へっ」
「鼻・・・ハナクソでている」
「ん?」
大助は自分の鼻にそっと触れてみる。
固形の感触がそこにあった。
でかいハナクソが鼻の穴から飛び出し固まっていたのだ。
「はっ!」
驚き、赤面する大助。
「気づかなかったの?」
くすくすと笑う芽衣。
「俺ってさあ、疲れるとハナクソ固まるんだよね」
と、何故か大助は気取って答えた。
これが、世に言う「ハナクソ固まった事件」である。
知らんけど(笑)。
激動の旅を終え、現実へと戻る。満開の桜の下、語り合う2人に直面する数々の難題が・・・次回「げんやま公園の満開の桜を愛でる」で、バカップルはやっぱり、おじさん、おばさんだということに気づく(笑)。
固まりましたっ。