↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/12

あなたたちは破門です

 ヘルドラゴンは洞窟の奥へと帰っていってしまった。



「おい、どうしたんだヘルドラゴン。なに勝手に帰っているんだよ!!」



 焦ったクリスがどれだけ叫んでも、ヘルドラゴンは主の方など振り返ることなく歩いていく。

 もうすでにヘルドラゴンには、クリスに対する服従の姿勢は完全に切れていた。



「ふふっ、作戦通りね」



 ヘルドラゴンの行動を見ながら、アリエルは満足げに笑う。

 彼女は一仕事終えると、そのままエドワードの肩の上に帰ってきていた。



「いったい何をしたんだよ?」


「ヘルドラゴンとクリスの契約が薬の力によって無理やり結ばれている以上、それ以上の衝撃を与えてしまえば簡単に契約は断ち切れると思った訳よ」


「そんな簡単に契約って断ち切れるものなのか?」


「魔物を制御できるだけの魔力を契約者が持てなくなったら、その時点で力で押し切られるなんてことはあることよ」



 アリエルは自信満々に、自分がやったことの詳細をエドワードに説明してくれている。


 クリスが薬の力で、ぎりぎりでヘルドラゴンを服従させていたことは彼女にはすぐにお見通しだったのだ。

 ヘルドラゴンさえ使役してしまえば楽勝だと思っていたクリスの作戦を、軽く上回っていた。



「大丈夫?!」



 ヘルドラゴンを追い返したところで、アキ先生もエドワードたちの方へと戻って来た。

 先ほどまでシャドーハンド達に拘束されていたフェネットも、今はアキ先生と一緒にくっついていうる。

 どうやらこちらも無事に制圧することができたようだ。


 アキたちの後ろでは、クリスの取り巻きたちが力なくうなだれている。

 魔力増強剤の副作用でもう余力もほとんど残されていないようだ、

 たとえ残されていたとしても、クリスのために動き出す意思が彼らにあるわけではないが……



 こうなってしまうと、完全に追い詰められたのはクリスの方だ。

 法を犯してまで手に入れた切り札はあっさりと返されてしまった。


 対するエドワードやアキたちはまだまだ戦う余裕を存分に残している。

 ヘルドラゴンは契約を打ち切り、彼に力を貸す気はない。

 そして、取り巻きたちもシャドーハンド達を抑えきれず、使えるものではない。


 追い詰めていたはずのクリスは、今は滑稽なほどに丸腰になってしまった。



「お、おい。何しているんよ。ヘルドラゴン……さっさとかえってこいよ」


「諦めなさい。薬で無理やり抑え込んでいただけのあんたの契約じゃ、もうヘルドラゴンはいうことなんて聞かない」


「嘘だ……嘘だ嘘だ。俺は選ばれた使役者なんだ」


「あんたは使役者なんかじゃない。ただの質の悪い犯罪者よ」



 アキは冷たい目でクリスのことを見下していた。

 もうそれは弟子を見つめる師匠の目ではなかった。

 目のまえに居る下衆を吐き捨てるような目だった。


 まだ現実を受け入れきれないクリスは、何か打開策はないかとあたりをきょろきょろ見渡す。

 しかし、そこで目に入って来るのは、ぐったりとうつむいている取り巻きたちだけだ。



「おい! お前ら何そこで倒れこんでいるんだよ!! 取り巻きなんだから、さっさとこいつらをぶっ倒せよ! 何のために俺が力を与えてやったと思っているんだ!!」



「力を与えた」なんて発言を自らしてしまっては、自分の首を絞めるだけだというのに、そんなこともお構いなくクリスは取り巻きに叫びかける。

 何かを考える頭なんて、今の彼には残されていなかった。



「「……」」



 しかし、彼らはクリスの呼びかけに答えることはなかった。

 ただ、希望の失った瞳を彼に向けながら、憐みの目を浮かべるだけだった。


 彼らだって自ら進んで薬を飲んだわけではない。

 ここまでボロボロになってまで、クリスのために身を費やす程の意思は今の彼らにはもうなかった。



「くそっ!! どこまで言っても使えないやつらだな!!」



 他人に頼れないのなら、自ら動くしかない。

 そう思って立ち上がろうとするクリスだったが、彼ももうフラフラしていてまともに動けるだけの力も残されていなかった。


 むしろ、無理に立ち上がった反動でこれまで感じなかった副作用が一気に彼のもとに押し寄せる。



「う、ぐ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



 鈍い叫び声がエドワードたちの耳に鳴り響く。

 一時は大丈夫だと思われたクリスの副作用も結局は一時的なものだった。


 ヘルモードを無理やり制御するために、自らの許容量を明らかに越える魔力を引き出してしまった彼にはそれに見合うだけの反動が襲って来る。


 目のまえが真っ白になるほどの頭痛が彼を襲い、せっかく立ち上がったクリスはそのまま地べたに倒れこむ。

 ギリギリで働かせていた思考も、痛みの前では全てが無為に帰されていた。



「もう、クリスはおしまいね」



 アリエルも冷め切った声色でいい放つ。

 これが薬に身を染めたものの末路だった。



「最後の一押しをしてあげるわ」


「え?」



 それだけ言うと、アリエルはもがき苦しむクリスの前に身を出す。


 一見すれば、倒れこむ男に心配して近寄るスライムの、ほほえましい光景かもしれない。

 しかし、いまのクリスにとってはそれは違う。



「もきゅ?」


「うわあああああああ!!! スライム、スライム……こっちに寄るな!!」



 目のまえに現れたスライムの姿に、混乱したクリスは恐怖の悲鳴を上げる。

 完璧だったはずの自分の計画。

 そのすべてをたった一撃でぶち壊した悪魔のスライム。


 クリスにとっては、それは恐怖の対象以外の何物でもなかった。



「やめろ!! やめろ!! そんな化け物を俺に近づけるな!!」


「化け物って、そいつはただのスライムじゃない? あんたのバカにした、ただのスライム」



 アキもスライムの横に立って、すっかり弱り果てたクリスを見下ろす。


 そして、最後の一言を言い放つ。



「あんたたちは、この瞬間を持って破門よ。もう顔も見たくない」


「な、なんだと……」


「もともと、あんたから言い出したことでしょ?」


「俺を、破門にして、ただで済むと思う、な、よ……」


「あんたこそ、こんな劇薬までつかっておいてただで済むと思わないことね。あんたみたいな犯罪者が、一秒でも私の弟子だったことが嘆かわしいわ」



 それだけ言うとアキはアリエルを拾い上げて、さっさとクリスに背を向ける。

 もう、彼の表情は見たくないらしい。



「お、おい」


「二度と私たちに絡んでこないことね。このくずが」



 その後、アキは二度とクリスの方を振り替えることはなかった。

 そのままエドワードの手を引いて、クリスたちを置き去りにして去っていく。



「そうそうこの辺、たまにS級の魔物も出現するらしいから、いつまでも倒れていると大変よ? まあ、素晴らしい魔力をお持ちのあなたたちなら大丈夫かもしれないけど」



 エドワードを引き連れて、アキはそのまま洞窟のもとから去っていくのだった。


お読みいただきありがとうございます!


ざまあ。


投稿が空いてしまい、すみません。

明日からもう一本の連載と共に隔日で投稿していきますので、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。