夏休みの終わりと誓い
「お疲れ様!フォティア大丈夫?自分の炎に巻かれてたように見えたけど」
「ちょっと熱いくらいでそれ以外は何ともなかったよ」
やっぱり焼かれてたんだ…………自分自身を焦がすほどの炎を扱えるように、というよりも放出できるようになるなんて急成長なんて言葉以上に成長してるぞ!
「あの炎は君自身で制御できないの?」
「まだ扱いきれないんですよ」
もしあれが制御できるようになったらと思うと、末恐ろしいな。現状、僕よりも強くなっているのにこれ以上強くなると…………どこまで行けるのだろうか?もしかしたら帝の称号をもらえるかもしれない。
「まだってことは、制御はできるようになるってこと?」
「2年に上がるまでには制御できるようにしておきたいですね」
「へ~それじゃ、代表戦には間に合わないって感じか~」
代表戦?入学当初にやったクラス対抗戦をもう一回やるのか?
今ここにいる3人の中でミーナが言った「代表戦」について知らないのはエインだけだった。
顔に出ていたのか、二人は驚いた表情で僕を見ていた。
「エイン、もしかして代表戦が分からないのか?」
「えっと…………うん。入学してすぐのクラス対抗戦の事じゃないよね?」
「違うよ~僕が言ってる代表戦ってのはね。学園代表戦のことだよ」
学園、代表戦?言葉の意味そのままであれば学園の代表が集まって試合をするってことだろうけど……
「もしかして、こことミルスとヘイルドの三つでやったりします?」
「「うん」」
2人が首を縦に大きく振る。
「勇者が学園長を務めている学園の生徒が交流を兼ねて代表戦を行うことになってるんだよね~」
「代表に選ばれるだけで知名度が上がるから、選ばれたいって人が多いんだ。だから、夏休みの間に猛特訓する人が結構いるらしい」
「そういう君も猛特訓した側だろ~?」
「まあ、そうなりますね。選ばれるかはわかりませんが」
意外と爺さん、いろいろ考えてるんだな。強くなるためだけなら、代表戦しなくていいのに。卒業してからのことも考えてるだなんて。
「代表戦に参加する生徒ってどうやって決めるんですか?もしかして、生徒総当たりで決める、なんて言いませんよね?」
「そんなことしてたら、何カ月もかかっちゃうよ~!学園長と面談したでしょ?そこで代表にする生徒を決めてるんだって」
「そのための面談だったんですね」
「メイさん曰く代表を決めるためというよりも、夏休みの間にどれだけ自分で成長できたかを見るためだって言ってたけどね」
僕やゴルドー達の前では怠惰感じなのに生徒の前だとしっかり学園長してるんだな~
「結局は夏休み前の…………」
「どうしたんですか先輩?」
先輩が何か言おうとして口をつぐんでしまう。
「ううん。何でもないや」
いたずらをたくらむ小さな子供のような笑みを浮かべながら先輩はスタスタと歩いて行く。
「僕のわがままに付き合ってくれてありがとね!それじゃ僕はこれでお暇させてもらうよ~」
扉の近くまで行くとくるっとターンして僕たちの方を見る、
「ありがとうございました!機会があればまたやりましょう!」
「絶対リベンジしに行きます!」
「バイバイ!」
先輩は手を振りながら部屋を出ていった。
「文字通り嵐みたいな人だったね」
「そうだね。それに僕たちでも歯が立たなかったし」
「うん。そうだね」
無言で先輩が出ていった扉を見つめる。
神の力を使ってなくても動きが負えないくらいの速さだった。それに近づいて攻撃できたとしても倍以上の力で返される。
リュウガと戦ったときにも思ったけど、僕がいかに小さな世界で生きていたのかが分かったよ。
ブレイズと契約して、コロシアムで殺し合って、師匠と特訓して夏休み前の自分よりも強くなった気でいたけど、まだまだだ。
(サラマンダー様の器の人間も言っていただろう、及第点だと。お前はまだ俺の力のほんのちょっとしか使えてないんだ)
(わかってる。俺がまだ未熟だってことは。だから、もう一度コロシアムにもいったし、魔獣とも戦った。でも足りなかった。神の力が無くても多分負けてた)
圧倒されるエインを見てそう感じざるを得なかった。そして、神の力を解放した先輩を前にして、腕が振るえた。
あんなすごい人たちがこれから同級生に出てくると思うと恐ろしくてたまらない。
「強くなるしか、ない」
「そうだね。ミーナ先輩とやり合えるくらいに…………いや、それ以上に強くなりたい」
強くなって、そして父さんを──────
フォティアも同じ気持ち、か。爺さんからは僕の強さは頭打ちだって言われてるけど、どうすれば強くなれるのかな?もっと経験を積むか、それとも武器に手を出してみるか…………
そんなことを考えていると、フォティアに呼ばれた。
「エイン。今日はこの辺でお開きにしないか?全力で戦ったから、ちょっと疲れちまった」
確かに、今になって疲れがドッと押し寄せてきた。これは、続けていたらフォティアよりも先に僕が音をあげそうだ。
「そうだね。もうこれで終わりにしよう。しっかり休んで明日も…………」
「それなんだが、ちょっと別のところで特訓したいんだ!」
エインの言葉を遮ってフォティアがこれからのことについて話し始めた。
「エインとの訓練もいいんだけど、挑戦してみたいことができたんだ」
「そうか。僕は止めるつもりは無いよ。それに、僕が教えれそうなことはもうないから、ちょっと気が引けてたんだ」
「いやいや!謙遜しなくてもいいよ。俺が知らないことをエインは知ってる。何でも吸収したいんだ。強くなるために」
貪欲になったな、フォティアは。
「わかった。でも、僕よりも強くなってるのは本当だからね?それこそ謙遜しないでね」
「あまり実感はないけど、エインが言うなら…………」
少し納得がいっていないようだが、渋々受け入れてくれた。
「ここの鍵は俺が返しておくよ」
「ああ。ありがとう。それじゃ、出ようか」
目の前の扉を開け、外に出る。持っていた鍵をフォティアに渡す。
もうすっかり日も傾いて来ていた。短いように感じたが、意外と長い間戦っていたらしい。
「それじゃあ、今度は夏休み明けに」
「うん」
訓練室がある廊下を抜け、フォティアは職員室へ、僕は正門がある方へ互いに分かれた。
先輩と戦って完敗し、強くなると誓った日から一週間が経ち、夏休みが明け、新学期が始まる。
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