先輩
「お、やっと来てくれたよ~僕はミーナ!よろしく!!」
訓練室の前には見知らぬ生徒が立っていた。
フォティアの方に顔を向けてみるが首を横に振られた。どうやら彼の知り合いでもないようだ。
「えっと、あなたは?」
「あ、僕のこと知らない?僕は二年のミーナ・ティンベル。君たちがここから出ていくのを見かけたから、ちょっと話してみようかなって思って待ってたんだよね」
「俺たちに何か用ってことですか?」
用ってことの程じゃないんだけどね、と言いながら訓練室に入るように促された。
扉を開けて中に入り、扉のすぐそばに対面になって座った。
「僕たちはミーナさんのこと知らないんですけど…………」
「そうだよね!二年生とはまだ交流ないもんね~。でも、エイン君のことは嫌でも耳にするよ。一年生トップ2だからね!」
二年生でも僕たち一年生のことを気にしてるのか。今後競い合う相手になるからなのかな?
僕に向けられていた視線がフォティアに向けられる。僕を見ていた時よりも少し険しく感じる。
「それで、君は、凶炎、だよね?」
”きょうえん”?
「なぜ、それを!?」
フォティアは”きょうえん”という名前が出た瞬間、視線が鋭くなる。
「目が怖いよ~~。たまたまあの場にいただけだよ」
あの場?コロシアムにいたということか?
「何であそこにいたかは知りませんけど、その名前は出さないでください。俺としては不本意な名前です」
「いいじゃない。凶悪なまでに熱い豪炎で相手を焼き尽くした君にはぴったりだよ。は~僕も二つ名みたいなのが欲しいな~~」
「欲しいならあそこで活躍してくればいいじゃないですか」
「ま、それも手だね~」
軽口をたたき合っているが空気がピりついている。
それにしてもさっき先輩が言っていた豪炎で相手を焼き尽くしたって、文字通りなのか?
「フォティア、相手を焼き尽くしたってどういうことだ?コロシアムで何があったんだ?」
「決勝で相手に大技を当てただけだよ。火力の調整もしたし、見た目が派手なだけだから」
「へ~それにしては結構相手の人絶叫してたけど?」
炎魔法を喰らったんだし、絶叫するのは当然なんじゃないかな?
「そりゃあ炎で焼かれてるんだから当然でしょ」
「あっはは~まあそうだね」
目の前の先輩はつかみどころがないというか、まだ出会って数分しかたってないから当然と言えば当然だけど、まったく先輩の人物像がつかめない。
「ま、この話は単なるきっかけに過ぎないんだよね。あの試合を見て僕、感じたんだよね。君となら楽しい戦いができるって」
「楽しい戦い?」
とても目をキラキラさせている。それと対を成すかのようにフォティアの眼は相手の言っていることが理解できずに険しくなっている。
「そ!エイン君とかリュウガ君とかと試合をやっても楽しいんだろうけど、な~んか珍しく二人とも超近接型じゃん?だから、魔法戦ができる一年生がいるってわかってテンション上がってるんだよ!」
確かに魔法主体として戦う人が多いこの学園では、魔法戦が主流だとは授業で聞いた。そのうえで、僕やガウダ、フーリアみたいに無属性魔法主体かつ体一つで戦う生徒は珍しいと先生に言われた。
さらに、僕は一年生の中でもトップの実力があるせいで少し浮いているとも言われた。それはリュウガにも言えることらしい。
「俺が先輩とですか?正直相手にならないと思いますよ?」
「へ~言ってくれるじゃん!」
先輩の闘志に火が付いたらしい。
がしかし、フォティアは相手を煽るために相手にならないと言ったわけではない。
「相手にならないのは僕の方です!!二年生ってことは神の力を宿してますよね?その力相手に人間の力だけで勝てるわけないじゃないですか!」
神の力、僕に宿っているフォルトゥと同じ力。
全知全能ではないが、宿した神の力を分け与えられ行使することができるようになる。
神の力の一部を器となる人間の体に宿すことで、常人では扱うことができないであろう魔法を行使できるようになる。
「僕が神の力使ったら君たち二人がかりでも勝てる自信はあるけど、今回はそんなことしないよ!当然神の力は使わない。楽しい戦いは自分の力だけでやらなきゃ意味がない」
それなら、一方的な試合になることはないだろう。しかし、そうなるとフォティアに宿っている精霊の力をどうするかが問題になるだろうが、今言わない方が良いだろう。
「それじゃ、やろうか!」
勢いよく立ち上がった先輩は初戦の相手に僕を指名した。
軽いウォーミングアップのつもりだろう。
「本気で、行きますね」
「おーおー!やる気があっていいねぇ!!僕も気合入れないとね」
軽い準備運動をしてからフォティアに開始の合図をしてもらうように頼んだ。
「それじゃあ…………始め!」
開始の合図と共に僕は猛進。魔法を主体として戦っているのであれば近接は不得意なはず。
「そう来るよね。君なら」
失敗だと気が付いたころには上へ打ち上げられていた。さらに追い打ちをかけるように殴られるような感覚が体全体を襲った。
「早い!それにいつ魔法を!?」
外から見ているフォティアですら、ミーナがいつ魔法を発動させていたのか理解できていなかった。
「クッソ!」
今もなお殴られるような衝撃が体を駆け巡っているが、その程度でねを上げるようなエインではない。
「このまま空中にいるのはマズい…………」
そう考えたエインは両足からブーストを発動させ、無理やりミーナが発動させている魔法の範囲外へと飛ぶ。
「えっ!?抜けれるのあれ?」
ミーナは驚きはするもののすぐに意識を切り替え追撃に移る。今度は魔法陣が見えるので魔法が飛んでくることが分かる。
「さっきのは、先輩独自の技か?」
先ほどの見えない攻撃を今自分を襲う魔法と比較して分析しようとする。
ブーストで緩急をつけながら風魔法の嵐を抜け、ミーナに接敵する。
あと一歩踏み込めば拳が当たるというところまで来た。
「『インパクト』!」
インパクトの衝撃を拳に載せ相手の腹めがけて突き出す。確かに相手を殴った間隔が拳に伝わってくる。
しかし…………
「危ないね~~!あとちょっとでお腹殴られちゃうところだったよ!」
確かにエインの拳は当たっていたが、間一髪で風の壁に阻まれてしまった。
「攻防一体の風の鎧…………」
突き出した拳から血がぽたぽたと地面に落ちる。
ブーストで強化した肉体を傷つける程の鋭さを持った風。
「ゲイルテクス……」
「へ~知ってるんだ使い勝手悪いから使う人全然いない魔法なのに」
以前、小屋に居る時に爺さんに見せてもらったことがある。確かに、あのとき使い勝手が悪いと言われたが爺さんが使っている姿を見た限りそうは見えなかった。
「そんな風には見えませんけど?」
「使ってみればわかるよ~!使えればだけどね!!」
先輩が両手を勢い良く広げると彼女の周りを守っていた風が襲い掛かってきた。
ブーストで防御を固めているはずなのにその上から切り裂かれる。
鋭い風に切り裂かれながら走り出す。
「『トリプル・ブースト』!!」
全身に無理やり魔力を流し、さらに加速する。
風の猛威から抜け出し、先輩の視界の外へとさらに走る。
右手に魔力を溜め、炸裂するようにさらに魔力を変化させる。
「トリプルまで使えるんだ」
視界外のはずなのに風が追いかけてくる。
「サーチか」
学園の生徒だからという理由で、サーチの使用を無意識のうちに除外していた。
「ちょ~っと違うかな~」
先輩の操る風がさらに速度を上げる…………
いや、違う!
「風の網!?」
脚に網状の風がまとわりついて動きを阻害している。
「ウィンド・シーク、の改良版ってとこかな」
風魔法版サーチのウィンド・シーク。使用者の周りに風のフィールドを展開し、風の動きで相手の位置を把握する魔法。消費する魔力の量が多いのであまり使われない魔法であはあるが、それを改良して相手を捕縛するための魔法に仕上げたらしい。
「バインド!!」
気づかない程度に絡みついていた風の網が強く絡みつき、身動きを封じられる。
「動けない…………」
トリプル・ブーストで身体能力を格段に上げているにもかかわらず、風の拘束を解くことができない。
「これで、チェックメイトだね」
悠然と歩いてきた先輩は屈みながら左手を僕の顔の前に突き出した。
「そう、ですね。僕の負けです」
負けを認め、体の力を抜く。先輩はニッっと笑顔を作ると、立ち上がり、風の拘束を解いた。
初めての二年生との戦いは完敗で幕を閉じた。
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