とある酒場にて
リュウガと別れたエインはとりあえず近くの店に入る。
「いらしゃいませ。空いている席に座ってください。」
どうやら酒場のようで、メニュー表が机の上に置いてある。
「見ない顔だね、ここは初めてかい?」
エインに近づいてきたのは、気さくな雰囲気をした女性だった。エインを席に案内した店員と同じ服装をしている。違っているところは、エプロンに金のバッチがついていることくらいだ。
「はい、この国に来たばかりなんです。」
「もしかして、魔導学園の新入生だったりするのかい?」
「なんでわかったんですか?」
「それくらいの歳の子供がこんな時期に一人でこんな所に居るのは、迷子か魔導学園に入学する生徒くらいなもんだからね。とりあえず長旅で疲れてるだろう何か食べていきな。」
快活な店の店員に促されるままエインはとりあえず店のおすすめの品を頼むことにした。
「魔導学園に入学するってことはお前さんも王国騎士志望か?」
エインが座る席の近くの席に座っていた強面の男が話しかけてくる。
「なんでそんなことを?」
エインは男を警戒するように見る。
「そんな警戒しなくてもいいだろ、俺はジルフって言うんだ。この街で冒険者をやってるんだ。」
「冒険者がなぜ僕のことを聞くんですか?」
「まだ警戒してるのか…………ただの興味だよ。あの学園に入学する奴らはたいてい『王国騎士になるんだ』って言ってるからお前もそうなのかと思っただけだよ。」
エインはゴルドーに、初めての相手(特に大人は)まず下心が無いか確認するのが必要だと教えられていた。
そのためいきなり話しかけてきたジルフを警戒していたのだ。
話を聞く限り何か企んでいるようには聞こえなかったのでエインは警戒を緩める。
「そうなんですね、失礼しました。僕はエインと言います。学園入学の目的は自分の知見を広めるためなので王国騎士志望とかではないです。」
「外から来たにしては珍しいな。お前歳はいくつだ?」
「14ですけど…………」
「見えねな…………こいつ14だってよミレさん」
ちょうど食事を運んできてくれた店員に話を飛ばす。
「ほんとに?16、7くらいだと思ってたよ。」
ミレさんと呼ばれた店員は驚いた様子でエインの顔を見る。
「どうぞ当店自慢の特性オムライス、残さず食べるんだよ。」
忘れていたとばかりに手に持っていたオムライスをテーブルの上に置く。
「ありがとうございます。」
エインはスプーンでオムライスを食べ始める。
「そいえば、新入生歓迎のために上級生と入学早々親善試合があるって話だけど、あんたは何か知ってるかい?」
「初めて知りました。その親善試合って『光帝』が相手してくれたりするんですかね?」
「なんだお前、『光帝』に興味があるのか?」
「興味というか戦ってみたいです。学園最強がどれくらいなのか知りたいので。」
「その口ぶりだと、相当腕に自信があるようだな。お前がどれくらい強いか知らないが、学園最強は伊達じゃないぜ。」
「ジルフは『光帝』と戦ったことがあるのかい?」
「戦ったことはないが、一回だけ戦ってるとこを見たことはある。そん時は、遠くから見てただけだから詳しくはわかんねぇが、百匹くらいいた魔物が一瞬で消えてたな。俺らが命懸けで倒してた魔物をいともたやすく倒されて俺ら冒険者の立つ瀬が無かった。」
「あの時は大変だったわよね〜この国にいる冒険者と王国騎士全員で魔物の対処にあたってたからどうなるか心配だったわ。」
ジルフとミレさんが以前あった魔物の侵攻について話し始めた。
エインは聞き耳を立てながらオムライスを食べ進めていく。
「ごちそうさまです。オムライスおいしかったです。」
「お粗末様です。そういえばエイン君はもう街は見て回ったのかい?」
「まだですよ。」
「だそうだよ、ジルフ。」
「なんでそこで俺の名前が出てくるんだ?まだ何もしてないだろ。」
「その言い草だとこれからするように聞こえてくるんだけど…………?」
「悪かったよあの時は。全然覚えてないけど。」
何も知らないエインは置いてけぼりにされていた。
「何かあったんですか?」
「一昨日ね、ジルフがギルドメンバーと一緒にここに飲みに来たんだけど、その時に酒を飲みすぎてギルドメンバー含めてここにいた客とどんちゃん騒ぎしたせいで食器だのテーブルだのを壊してくれたんだよ。」
「弁償したんだから許してくれよ~。今もこうやってお金落としに来てるんだからさぁ」
「ここに食べに来るのはいつものことでしょうがっ!いいからエイン君に街を案内してやりな。」
「はぁーわかったよ。エイン行くぞ。」
ジルフはそう言って席を立つ。
これから街を散策する予定だったエインにとってはガイド役がいることはありがたいことだった。
エインも席を立ち、勘定を済ませて店を出る。
「とりあえず今俺たちがいるここは、『メインストリート』の東側にある『イーストストリート』だ。ここには冒険者とそいつらをターゲットにした酒場や宿屋が並んでる。もうちょい行った所に、『ギルド統括本部』がある。まぁみんな『ギルド本部』って呼んでるけどな。」
ギルド本部があるという方に向かってエインとジルフは歩いていく。
「さすがにギルドについては知ってるよな?」
「知らないです。」
「まじかぁ、ほんとお前どんな環境で育ってきたんだよ。」
山の中で平和に暮らしてました、とは言うことができず愛想笑いを浮かべるエインであった。
酒場を出て5分ほどして周りの建物とは雰囲気も大きさも違う建物が見えてきた。
「あそこがギルド本部だ。冒険者登録、クエストの発注、受注とかいろいろやってるのがあそこだ。学園の生徒は冒険者登録できない決まりになってるから冒険者になれないが、クエストの発注はできるから覚えておくといい。」
「覚えておきます。」
「イーストストリートをこのまままっすぐ進んでいくと、お前が通うようになる『魔導学園』の正門があるんだが、行くか?」
「それよりも西側がどういう所なのか知りたいです。」
「了解。」
ジルフとエインはギルド本部を左に曲がって西側に向かっていく。
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