久しぶりの仲間たち
山奥の小屋に着き、ドアをノックする。
返事は返ってこないが、誰かが近づいてくる気配はする。
『コンコンコココン』
『コンココンココンココン』
扉をたたいて暗号のやり取りを行う。
この山奥まで来る人は皆無と言って良いが、ゼロではない。
そのため、危険回避のためにこのようなことを行っている。
そしてやり取りが終わると扉が開き…………
「おぉ帰り~~~~」
「うわぁ!?」
僕の元へ飛び込んできたのはシルニアだった。
抱き着いてきた勢いで僕は地面に倒れこんでしまう。
とても柔らかいものが当たっている気がするがそれは無視する。
「シルニア、歓迎は嬉しいけど移動で疲れてるから中に入れてくれない?」
「ん?ああ、そっか、ここって山奥だから馬車とかで来れないんだった」
首元から腕をどけ、僕の体を起こしてくれる。
起こしてくれたシルニアの奥に視線を向けるとシルニアとギルダが並んで立っていた。
「ただいま」
「…………うむ」
「お帰りなさい、エイン」
半年くらいしか離れていなかったが、とても長い間離れていたような気がする。
それくらい、学園での生活が濃厚なものだった。
「さ、中に入ろ」
シルニアが扉の方へ足を向け、僕もそれに付いて行く。
中に入り、いつもみんなが食事をしているテーブルがあるリビングに向かうと玄関で出迎えてくれた3人以外が待っていた。
「おお、帰ってきたか」
「言ってくれれば、迎えを出したのに」
「エインの性格を考えれば遠慮するだろう」
「まあ、そうだな」
やっぱりみんな変わってないな。
大人だから、かな?
学園にいた時はリュウガやフォティアたちがいて楽しかったけど、ここに来るとやっぱり安心感がある。
「頼もうかなって思ってたんだけど、友達が馬車で帰省するって言ってたから僕もそうしてみようかなって思ったんだ」
「お、その友達とやらの話が聞きたいね」
「私も私も~!どんな子とお友達になったの?男の子?女の子?」
「シルニア、近い近い!話すから」
「ムギュッ!?」
ゴルドーに首根っこを掴まれ、無理やり僕からはがされる。
そういえば、グルトがいないけど、仕事かな?
「えっと、まずここを出て見つけた馬車に乗ってたのが極東出身のリュウガでその子が一番初めの友達、かな?」
「え?極東出身のこといきなり馬車で出会うとかあるの?」
「珍しいですね」
「ああ、珍しい」
リュウガの話をし始めるとシルニア、セイン、ギルダの三人が喰いついた。
それほど極東出身者というのは珍しいということか。
「そのリュウガってやつはどれくらい強いんだ?」
やっぱりゴルドーは強さが気になるのか。
「極東出身ということはそれなりに強いとは思いますよ。あそこは、島にいる住民全員が侍か忍の修行を受けさせられるらしいですからね」
リュウガも同じことを言っていた。
それにしてもシルニアはいろんなことを知ってるな、ほんとに。
「リュウガはシルニアが言ったとおり侍の修行を受けてたらしいよ。強さだけでいえば、学年で一番強い」
「ほう…………」
「!?」
「へ~~」
「すごい子がいるんだね!」
「それは、なかなかだな」
意外にもみんな驚いているな。
「学年で一番ということは、お前よりも強いということか?」
「まあそうだね」
驚いているみんなの中でもゴルドーが一番興味を持っているようだった……
「エイン、負けたのか?」
わけではなくギルダが一番興味を持っていた。
ギルダが質問してくるなんて珍しいな……
「お前が俺たち以外に興味を示すとはな」
「ガルダは俺を、なんだと思ってるんだ……」
すまん僕も同じこと思ってた……
心の中ですまんと謝りながら話を続ける。
「全力でやって負けた」
「お前と対等に戦えるやつが同学年にいるとは思えんが、エインが言うということはそう言うことなのだろう」
「驚いた。俺も、ゲルフと同じことを思っていたから」
僕も同じようなものだ。
たいして強いやつはいないと思っていた。
しかし、実際は僕より強い生徒はたくさんいたし、強くなりそうな生徒もいた。
「やはり、あの爺さんが集めているだけある」
「お、グルト。開発の方は終わったのか?」
この場に居なかった最後の一人、グルトが疲れ切った様子でリビングに入ってきた。
「無茶を言うな、ゴルドー。魔力を極限まで抑え込んで最大限の火力を出せる銃なんておいそれと作れん!」
「そんな銃が作れるの?」
「俺なら、な」
とても傲慢な言い方だが、グルトがこれまで魔道具で作れなかったものはない。
エインたち学園の生徒が着ている制服もグルトが製作に一枚嚙んでいたりもする。
「あと二日で何とかしてくれ」
「それより飯をくれ。腹が減った」
聴けば、グルトは昨日の昼から何も食べていないらしい。
それほど、開発に注力していたようだ。
「わかった。ちょうどエインも来たことだし、豪勢なものを作ろう」
「それなら、わたしも手伝いましょう」
「おう、頼む」
ゲルフとシルニアがキッチンへと向かうとすぐに、フライパンなど調理器具の音がしはじめた。
しばらくして、香ばしい香りがキッチンから漂ってきた。
『グゥゥ~~~』
昨日から何も食べていないグルトのお腹は今か今かと料理の完成を待っていた。
「私もお腹すいて来ちゃったな~」
「久しぶりにあの二人が作っているからな。無理もない」
キッチンからの香りにセインの食欲が刺激されたようだ。
確かにゲルフとシルニアが二人でキッチンに立つのを見るのは久しぶりかもしれない。
僕が学園に入学する前もそんなに見たことがないし、本当に珍しい。
おいしそうな香りが漂い始めてから20分ほど経ち、目の前のテーブルには色とりどりの料理が並べられている。
「昨日ぶりの飯はうまい!!」
全ての料理が並ぶ前にテーブルに並んでいる料理に手を出し始めるグルト。
「うまい」
そんなグルトと同じく料理に手を付けているものがもう一人。
「お前も腹減ってたのか?」
「ああ」
ガルダの質問に端的に答え、ギルダはすぐに手を動かす。
「もおぉ~私の分も残しておいてよ~!」
もう一人セインも二人に負けじと(?)食べ始めた。
「まだ、あるからゆっくり食べろ」
「そうですよ~ゴルドー達も召し上がってください」
料理を運んでくる二人は今もガツガツと料理を口へ運んでいる三人に苦笑いをしている。
「さ、こいつらが全部食べちまう前に頂こうか」
「そうだな」
「いただきます」
「お、エイン珍しいな!合掌なんかして」
「あ…………」
ガルダに言われて気が付いた。
リュウガと一緒にいた時間はそう長くはないはずだが無意識的に極東流のご飯の食べ始め方をしていた。
「もしかして、極東出身の子に教え込まれたのかなぁ~?」
「向こうにいた時はリュウガといることが多かったからその影響かも」
かも、というより十中八九そうだけどね…………
そんなこんなでゲルフとシルニアが作った料理がすべてテーブルに並び、久しぶりに小屋に居るみんなで一緒にご飯を食べることができた。
「そういえば、さっきの話の続きだが…………」
ゴルドーがリュウガの話をもっと聞きたいと言いてきた時、扉の外から物音がした。
「なんだ?」
「俺が見てくる」
ギルダが席を立って扉の方へ向かう。
その後ろをガルダが追いかける。
二人が席を立ってすぐに扉が開く音がした。
「依頼が来たぞゴルドー」
二人は封筒とその中に入っていたであろう『紙』を持っていた。




