呼び出し
教室を出て少し行ったところに先生は立っていた。
「何か先生に呼ばれるようなことしましたか?」
エインは呼ばれた理由が自分にあることに薄々気づいてた。
「それは君が一番わかっているんじゃない?あ、それとここじゃなんだか職員室まで来てくれない?」
先生は手に持っている生徒名簿などを抱えなおす。
「わかりました。」
職員室まで来たエインは個室に案内され、先生は荷物を置きに行った。個室の扉が開き、先生が入ってくる。
「エイン君、昨日、ライアル君と試合をしたそうじゃない?しかも、それに勝ったって聞いたけど……」
「そうですね。昨日僕はライアル君と試合をして、勝ちました。」
「はあ~そう、ですか。」
そう言いながら先生は額に手を当てる。
「先生は知らなかったんですか?」
「朝までは何も知らなかったわよ。その後、他のクラスの授業で生徒から私のクラスの平民が貴族に勝ったって聞いたから、もしかしたらと思って昨日闘技場担当だった先生に聞きに行ったの。」
「それで、貴族に勝った平民が僕だってことがわかったと。」
「そういう事。しかも五対一で勝ったなんて聞いたからびっくりして、気を失うところだったわ。」
エインはすみませんと軽く頭を下げる。
「ライアル君に勝っちゃまずかったですかね?」
「いいえ、そんなことないわ。むしろ、よくやってくれたと褒めてあげたいくらい。」
勝ってはいけなかったと返されると思っていたエインは先生からの意外な返答に驚く。
「ライアル君ね、最近魔法がうまく使えるようになったせいか、天狗になってたのよ。元々、態度は大きかったんだけど、それが輪をかけて大きくなっていたから彼にはいい薬だったかもしれないわね。」
「そうであればいいんですが……」
ライアルのようにプライドがとても高い人、特に貴族は平民に負けることをとても嫌がっている。ましてや、国の外から来た田舎者に負けたとなればほかの貴族からは笑いものである。
負けてもそれを跳ね除けて強くなれればいいが、大概は挫折してしまう。エインはそんなことを気にしながらいつにもまして一段と静かだったライアルを思い出す。
「それはそうとして……とうとう、実力を出してくれたのね。」
「とうとう、と言うのは?」
「だってエイン君、入学式のときの親善試合で『光帝』に勝ってたでしょ?」
勝ち方はあれだったけど、と付け加える先生だったがそんな言葉はエインの耳を横切っていく。
「親善試合のときは、僕の負けで試合が……」
「煙の中で、彼を倒していたでしょう?隠す必要は無いのよ。私、見えてたから。」
「見えてたって……あの煙の中を、ですか?」
「当たり前じゃない。それに、あなたが勝ってたってこと知ってる先生結構いるのよ。」
新たな衝撃的な事実にエインは目を丸くする。
「あの煙、結構特殊な煙で、外からの魔力干渉を妨害する粉を混ぜてたんですけど……」
「そうだったのね。どおりで周りの先生が見ずらいって言ってたわけだ。」
「えっと、先生は見えてたんですよね?」
「ああ、私ならしっかり見えてたわよ。ただ、ほかの人とはちょっと特殊でね。」
先生はそう言いながら左目にかかっている髪をどける。
そこには本来あるはずの眼球がなく、代わりに機械の目が埋め込まれていた。それを見たエインは先生になぜ見えていたのか合点がいった。機械の目というのはマシンサイトと呼ばれており、魔力を流すことができる特殊な金属加工を施してある。
マシンサイトは魔力を流した分だけ視力が強化されていくという特徴があり、魔力運用にはなれが必要になる。しかし慣れてしまえば肉眼よりも使い勝手が良く、百メートル先の人の表情を正確に認識できるほどである。
「この目だからばっちり見えてたわよ。」
「そうなんですねって納得したいとこなんですけど、いくら何でも精度良すぎじゃないですか?」
「この目は学園長の勧めでとある技術者に作ってもらったものなの。名前は教えてもらえなかったんだけど、腕利きに間違いはないわ。その証拠に作ってもらってから今まで一度も不調なんてなかったから。」
「相当の腕利きなんですね。不調が無かったといってもそれを作ってからどれくらい経つんですか?」
「私が目をやられたのが七年前で、その一年後に学園長に先生として勤めないかって誘われたから、六年ね。」
「六年、ですか……」
目の代わりとして使われるマシンサイトは機械とは言え、精巧な作りをしている。ゆえに定期的なメンテナンスが必要となるはずだが、それが行われることなく六年も使い続け、不調が一切なかったという事を考えるとマジックサイトを作った技術者と言うのは相当な腕を持っていることが容易に想像できる。
「っていうか、先生って冒険者か何かやってたんですか?」
エインは先生が目をやられたことに興味持ち、質問する。
「冒険者じゃないわよ。こう見えても騎士団員だったのよ。目をやったのは魔物討伐のときね。ベリアルタイガーと遭遇しちゃってその時に右目を持ってかれたわ。」
「そうだったんですね……」
「気にする必要は無ないわよ。多分あのまま騎士団を続けてたとしても限界が来てただろうし。それと最後に学園長からの伝言。」
気を落としていたエインの耳に学園長と言う言葉が入り、エインの脳内に満面の笑みのアルドルが現れる。
「その伝言、聞かないとダメですか?」
「ダメです。」
食い気味に先生が言ってくる。
「それでは伝えますよ。「貴族に勝ったんだからそれなりの戦績を期待しているよ。」だそうです。」
「それなりの戦績って……まあそういう事だよな……。」
エイン脳内のアルドルがエインの肩に手を置いて満面の笑みをさらに満面にしてエインの顔を覗いてくる。
「私個人としても、エイン君にはランク戦で上位に、あわよくば一位を取って欲しいところなんだけど……」
「…………わかりました。一位を取る気で行きます。ただ、取れるかはわかりませんよ。」
「リュウガ君ですね?」
エインが取れるかわからないと言うとすぐに先生はエインと実力が同等であろうリュウガの名前を出す。
「そうです。」
「リュウガ君のことは私も含めて一年担当の先生は全員その実力は知っています。それでも私はリュウガ君よりエイン君の方が強いと思ってますので。」
「期待に応えれるよう頑張ります。」
「頑張ってくださいね。いきなり呼び出してごめんなさいね。」
「いえいえ、僕も結構先生に迷惑かけていたと思うので。それでは、失礼します。」
エインは席から立ち上がり、部屋から退室していく。
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