表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/121

決戦2

アレンは抱えていたエルラを地面に寝かすと両手で槍を掴み、そこに魔力を流し込む。アレンの魔力量は人並みにあるがマジックパスが人より狭いため魔力運用がうまくできない。ゆえに魔力を早く流すためには両手で魔力を流し込む必要があり、集中する必要があるために動けなくなる。

(早く……早く……)

ジルフは、喰らえば致命傷を免れないイグニスの攻撃を何度も避けている。

目をつぶりながら集中しているアレンはそれを感じながら魔力を込めていく。

「はあ……はあ……はあ……。くっそ、酸素が薄くて息が……」

火山の中腹にいるとはいえ、地表にいるときに比べて酸素は薄くなる。そんな中で激しい戦闘をしているジルフはうまく肺に酸素を送り込めていない。

そんなことをお構いなしにイグニスは攻撃を繰り返していく。ブーストを使っているためかろうじて避けているがそれもいつまでもつかわからない。

「グガアアア!!!」

攻撃が当たらず、さらに怒り始めたイグニスは今まで攻撃に使わなかった翼を使って攻撃を始める。

翼を使った攻撃は前足の攻撃とは違い、範囲が広く避けることが出来なかった。

翼での薙ぎ払いを剣で受けたジルフは吹き飛ばされ、むき出しになっている岩に激突する。

イグニスは追撃しようと口の中を赤く発光させる。

「時間稼ぎは終わりだ。……やれえええええええ!!!」

「我が力を喰らい、敵を撃て!!『ノーアトリ・ハスタム』!!」

淡い光に包まれた槍がイグニスの目に向けて投擲される。

ジルフのことにしか目に入っていないイグニスは投擲された槍に気づいていない。

投擲された槍は吸い込まれるようにイグニスに向かって行き、奴の目を貫く。

目を貫くと同時に口内にある火球をも貫き、爆発が起きる。

「ジルフ、早く!!」

アレンは近くにいるエルラを背負い走り出し、それに続くようにジルフも走り出す。

目をやられた痛みと爆発の衝撃で怯んだイグニスはすぐに暴れだし、近くの岩を無暗に壊していく。

目を潰されたせいで離れていくジルフ達に気づくことなく暴れ回る。

ジルフ達は戦局を見守っていたケインも一緒になって麓に向かって走っていく。

ひとしきり暴れたイグニスはジルフ達がいなくなっていることに気づき、潰されていない方の目で周囲を見渡す。

周囲にいないとわかると翼をはためかせ、空に上がる。上空には視界を遮るものはない。山の麓に向かっているジルフ達も容易に見つけられる。彼らのもとに一直線に飛んでいく。

エルラを背負っているアレンに合わせて移動しているジルフ達に追い付くのに時間は掛からなかった。眼下にいるジルフ達に向かって急降下していく。

翼が空を切る音に全員が気づき回避行動を取ろうとする。

「グアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」

イグニスは咆哮と共に飛来し、ジルフを足で掴んですぐに止まることなく地面をえぐりながら着地する。

着地した時の風圧でアレンとエルラは吹き飛ばされる。唯一回避できたのはケインだけだった。

「二人とも大丈夫か⁉」

「俺のことはいい、ジルフを……。」

「あの野郎平気な顔してやがったがやっぱり魔力をほとんど使い切ってやがった。」

吹き飛ばされた二人はイグニスの方に視線を向ける。

いつものジルフなら余裕で回避できる距離間だったが魔力を消費しきったジルフはその判断が遅れた。

イグニスの足と一緒に地面をえぐったジルフが纏っていた防具は砕け、その下にある四肢は砕けた。肺は潰され、イグニスが制止する頃には血反吐を吐いて気絶していた。

自らに傷をつけたジルフを仕留めて気が済んだのか、空に向かって咆哮をしたイグニスは再び空に上がろうとする。

「アレン、ジルフを助けるのは……。」

「……言われなくてもわかってる。クソっ!!」

連れ去られていくジルフを指をくわえて見ていることしかできないアレンは怒りを地面にぶつける。

「ジルフのことは……諦める。奴がこのまま見逃してくれるなら、それに甘えようじゃないか。」

「いいのか?アレン。」

「今の俺たちがどうこうできる相手じゃ……ないだろ?それに、冒険者は命あってこそだ。一つの命で三人分の命が救われる。イグニスと張り合って全滅せずに済んだんだからそれだけで儲けもんだろ?」

「アレン……お前……。」

アレンは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。それほどに今下した決断はアレンにとって下したくないものだった。

「いくぞ。」

それだけ言うと、アレンはエルラを背負いなおして歩き出した。ケインも小さく見えるその背中を追いかけていく。

三人がイグニスに背を向けて歩き出すと、麓の方から誰かが登ってくるのが見える。

アレンがいる位置からでは、男か女かすらわからない。

「お、おい。アレン。誰か登ってきてるぞ。」

「今、上に行くのはまずいな……おーーい。そこの人ーー!今この火山を登るのはまずい……」

アレンが登ってくる人に上らないように言おうとするとその横を駆け抜けていく。

「お、おい!!ま……」

彼らと登ってきた人との距離は少なくとも50メートルはあった。その距離を一秒もたたずに走破していったのは、魔力石をもって下山したはずのエインだった。

あまりにも一瞬のことでアレンたちはすれ違ったのがエインだとは気づかなかった。

アレンたちの横を通り抜けたエインは、飛び去ろうとしているイグニスに向かって地面を蹴って飛んでいく。

「あの距離を⁉」

驚くアレンを背中にエインは飛んでいるイグニスに向かって右手を突き出す。

「『インパクト』!!」

右手から放たれた魔法はジルフを掴んでいる足に直撃しその足を吹き飛ばす。

耳をつんざくようなイグニスの声が響き渡る。

足から解放されたジルフは空中に放り出される。

(おい、エインあの男意識が無いぞ。)

(意識が⁉フォルトゥ、頼む。)

(仕方ないな。)

エインがフォルトゥに頼むと指先から細い糸のようなものが放出される。それはそのままジルフの方まで伸びていくと彼に巻き付く。エインは足からインパクトを出してジルフの方に飛んでいくと彼を掴みそのまま落下していく。

着地の衝撃をインパクトで軽減しながら着地し、地面にそのまま寝かせる。

(危ないとこだったよ。)

(それほど重症だったのか?)

(防具が無ければ確実に死んでいたよ。応急処置はしたけど肋骨が肺に刺さっていた。)

(間に合ってよかった。本当に……)

エインは安堵の表情を浮かべる。

(エインがそういう顔をするとはね。)

(ジルフ達には死んでほしくなかったからね。……さて、奴を片付けようか。)

未だに空中にいるイグニスを睨みつける。

(制御は頼んだよ。)

(任された。)

「『トリプルブースト』発動!!」

エインのみでは使うことが難しいエインの切り札それがこのトリプルブースト。ダブルブーストの上位互換で体の機能を全て向上させることが出来る。しかし制御が難しいうえに魔力消費がダブルの比にならないので、トリプルを使う時はフォルトゥに制御を全て任せることになる。

上空のイグニスは口内を赤く発光させている。

(狙い撃つつもりらしいけどどうするんだ?)

(正面からぶち抜く。)

(らしいな。)

フォルトゥはそれだけ言うと魔力の流れを体全体から両腕へと集中させる。

「ジルフ達ではないが、彼らの借りは僕が返させてもらうよ。」

両手を上空にいるイグニスに向ける。

「落ちろ、空の王者……『ペネトレーションインパクト』!!!」

イグニスが特大の火球を放ったのと同時にエインも魔法を放つ。それらは空中で激突し衝撃波が起こる。少しの拮抗の後エインのペネトレーションインパクトが特大の火球を貫き、そのままイグニスの翼も貫く。

「魔法一つで、あの火球を……」

エインとすれ違った場所から登ってきたアレンたちが火球を魔法で撃墜したところを目撃して目を丸くする。

翼を貫かれたイグニスは為す術無く地面に落下する。

「全てを砕く無情の力。破壊王の名にふさわしい力を……フォルトゥ!!」

(調整はした。あとは放つだけだ。)

両手の付け根を合わせてその内側に魔力を溜める。

「良し。……終わりだ空の支配者。『ブレイカー』!!!!」

放たれたブレイカーは地面を削りながらイグニスに向かって行く。

片足を吹き飛ばされ、翼が使い物にならないイグニスは避ける術がない。インパクトの数十倍の大きさのブレイカーがイグニスに直撃し爆散する。

ブレイカーの衝撃は周りの地面をも割り、砂ぼこりが舞う。

砂ぼこりに包まれているイグニスを確認するためにサーチを発動させる。エインの脳内には近くに魔力を表す点が四つあり、それ以外に反応はなかった。

(終わったな。)

フォルトゥはそう言うと魔力の制御を解除する。それと同時にトリプルブーストも解除される。

(ああ、それにしてもあいつの強さは……)

(それより、彼らの方に行った方がいいのではないかな?)

振り向くとそこには何も言わずにその場に立ち尽くしている。その顔は驚きの表情一つだった。

エインが近づいていくと彼らの視線はエインに自然と集まる。

「エイン、さっきのあれは……?」

「無属性中級魔法のブレイカーです。」

困惑の表情で質問してきたアレンに表情一つ変えず返答する。

「そういうことじゃなくてだな……いや、そうでもあるんだがお前のその力は何なんだ?あのイグニスを魔法で吹き飛ばすなんて本職の魔術師だって出来っこないぞ。」

アレンに背負われているエルラと周りにいるケインが首を大きく縦に振る。

「そのことについては、下りてからでいいかな?」

エインは視線をジルフの方に向ける。

「そうだな。ケイン、ジルフを背負ってやってくれ。」

「わかった。」

「運ぶのは僕がやりますよ。」

「いや、あの戦闘の後に力仕事をさえるわけにはいかない。」

ケインがエインの申し出を断るが、エインは首を横に振る。

「詳しいことは省きますが、今ジルフさんの体に僕の魔力を流して保護してる状態なんです。戦闘に集中するために一時的なものにしていますが、麓の街までは持ちません。なので僕が随時魔力を供給していかないといけないので僕に任せてください。」

「そうか、なら仕方ないな。頼んだぞ。」

「ケインはモンスターが近づいてこないか周りを見張っててくれ。」

「そうだな。今、まともに動けるのは俺だけだし。」

エインがジルフを背負うと麓の街に向けて出発した。その間モンスターとの戦闘は一度もなかった。

街につくと、ジルフとエルラを診療所に運び込み、アレンは道中の出来事を街にあるギルドに報告した。ギルドは調査隊を派遣しほどなくしてイグニスの死体を見つけることになる。

診療所にいるエルラは治癒魔法で治ったがジルフはエルラよりもかなり重症だったのでそのまま入院することになった。

ジルフを除いた四人は宿に戻り今後のことについて話し合った。

「というわけで、俺らはジルフが回復するまではここに残る。」

「お前は俺たちに合わせる必要はないから先に王国に帰る。それでいいな?」

アレンとケインが寝泊まりする部屋に四人は集まっている。アレンとケインはエルラが帰ってくるまでにエインを先に帰すことを話しておりエルラもそれを承諾した。

「僕も残れたらよかったんですが……」

「しょうがねえさ。俺たちはギルドだ。仲間を置いてく訳にはいかねえ。だがお前は違う。だから気に病むことはねえよ。」

「ありがとうございます。エルラさん。」

今後の方針が決まり、各々の部屋に戻った。そして皆がベットに倒れ込みそのまま次の日まで目を覚ますことは無かった。

終焉の先の物語~The demise story~を読んでいただきありがとうございます。ブックマークもしていただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ