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決戦

()()()は、『空の支配者』とも言われている。かつて人間が空を飛ぼうとしたとき、それに携わったすべての人間が命を落とした。魔族ですら奴の支配する領域には決して近づこうとしない。

それは各地を飛び回っており、どこにいるのか見当がつかない。しかし唯一わかっていることは火山を寝床にしているという事だ。その火山も特定の火山ではなく、大陸にある火山全てが寝床にあたる。ゆえにどこにいるかわからない。エインたちが今登っているラルロー火山もその一つである。


「にしても、市場じゃ滅多にお目にかからない『魔力石』を三つも手に入れるとはエイン、さては幸運の持ち主だったりするのか?」

「どうでしょうね。僕もこんなに手に入るとは思ってなかったので。」

現在、ジルフ達はエインを中心として円形の陣形を取っている。下山するのには面倒くさい陣形を取っている理由はひとえに『魔力石』を守るためだ。モンスターの奇襲によって『魔力石』が砕けるなんてことが無いようにアレンが念には念をという事で今の陣形を取ることになった。

エイン本人は奇襲されても返り討ちにするつもりでいたが、アレンの提案を断る理由もなかったので静かに円陣の中にいる。

「それでも、これでしっかり報酬を払うことが出来ます。」

「そうだな……と言いたいところだがいいのか?それ自体が超希少なもんなのにそれを冒険者である俺らに報酬として渡すってのは?」

以前も報酬のことについて話したが、その時は『魔力石』が三つも取れるとはエインも考えていなかったので少々報酬が過剰であるように感じてはいる。エイン自身が欲しいわけでもないし、お金に困っているわけでもないのでジルフ達に渡すのが一番だと思っている。

「構いませよ。僕自身、一つあればいいので。それにジルフさんたちとはこれからもいい関係を築いていきたいですから。」

「学園の生徒とは思えないですね。あまりあそこの生徒とは交流はないですが、強くなることに貪欲な人たちだと思っていたので、エインを見ているとそんな風には思えなくなります。」

エインの真後ろにいるアレンが後ろを警戒したまま学園の生徒について話しだす。

「それに魔導士が喉から手が出るほど欲しがる『魔力石』を俺たちが貰ったと知ったら国の魔導士たちが血相を変えてホームに押し寄せてきそうだな。」

アレンが冗談交じりに、国に帰ってから起こりそうなことを言う。

「押し寄せて来たらきたで、高値で売り付けてやればいいんだよ。」

「それもそうだな。それこそ俺ら四人が遊んで暮らせるくらいの金額を請求してやればいい。」

エルラとケインが悪い笑みを浮かべながら笑えないことを言っている。

そんなことを話しながら襲い掛かってくるモンスターを倒しながら火山の中腹辺りまで来た。

早朝に出発したため、今は大体昼頃になる。モンスターに襲われながら進んだにしてはスムーズこの上ない。

「そろそろ、昼にしよう。見張りを交代でしてさっさと済ませちまおう。」

初めにエイン、アレン、ケインが昼を取り、次にジルフとエルラが昼を取った。

「よし、出発……」

「どうしたジルフ?」

動きが止まったジルフを怪訝に思ったアレンが問いを投げかけるが返答が帰ってこない。

何が起きたと思ったアレンが正面を向いた時、空がいきなり暗くなった。

正確には、エインたち五人に何かの影が掛かった。

「俺たちの上だけに雲が出来るなんてあり得るか……?」

「エルラ、冗談を言っていい時間はもうとっくに過ぎてる。いいな。」

「了解だ。」

五人全員が一斉に空を見上げる。

そこには、エインたちを見下ろしているモンスターが飛んでいた。

「おいおい、どうすんだ?俺らで太刀打ちできるような相手じゃないよなあいつ。」

ケインはそう言いながら戦斧を構える。

「エイン、お前はここから早く逃げるんだ。」

「いや、それは……」

「依頼主を守るのも冒険者の仕事だ。いいから行け。」

「わかった。」

エインは駆け出し、ジルフ達は得物を構える。

「どうするアレン?俺たちが奴に敵うと思うか?」

「聞くまでもないだろ?ジルフ。」

「そうだな。……エインが麓に降りるまでの時間稼ぎくらいはするぞ。」

「「「おう!!」」」

未だにジルフ達の上を旋回している。

「魔導士でもいれば奴に先制攻撃できるんだがな……」

「無いものねだりはよせよエルラ。それより相手の先制攻撃を阻止するのが先決だろ?」

「そうだな。まあ、気休め程度だけどな。」

ジルフとアレンが無属性魔法のシールドを展開する。

彼らのシールドはエインのものとは異なりインパクト一発だけで砕けてしまう代物ではあるが威力の軽減くらいはできる。

「奴が下りて来たら、エルラとケインが応戦、隙をついて俺が重いのを入れる。アレンは随時指示を頼む。」

「了解した。」

ジルフ達の話を聞いていたかのように奴は降下を始めた。

降下を始めたモンスター『イグニス』は口を大きく開け、その中に真っ赤な炎を発しながら降りてくる。真っ赤な炎に深紅の体躯、隕石のように降ってくる奴を止めることはできない。

「カウントの後に全力で散開、エルラとケインはジルフの指示通りに、ジルフは魔力を溜めて一撃に備えろ。」

「「「了解!!」」」

「カウント、3……2……1……散開!!」

全員が各々の方向に散らばっていく。

散開した直後、彼らがいた地面にイグニスが直撃し極太の火柱が立つ。触れただけで溶けてしまいそうなそれは地面を溶かし、ジルフ達を寄せ付けない。

「おいおい、これが『空の支配者』の力かよ……」

「臆したか、ケイン?」

「ンなわけねえだろが!!エルラこそビビってんじゃねえのか⁉」

実際、二人ともイグニスの降下による被害の大きさを目の当たりにして手足が震えていた。

「二人とも頼むぞ」

「アレンさんよお……」

「全く俺たちの参謀は……」

二人は無理やり笑みを浮かべると得物を再び構えてイグニスに向かって行く。

ケインは火柱から出てくるイグニスの顔面に向けて戦斧を上段から振り下ろし、エルラは解けた地面を避けながらケインがいる方に走る。

振り抜かれた戦斧がイグニスの頭部に直撃するが強固な鱗に弾かれてしまう。

「クッソ!!硬すぎる!」

「ならこれはどうだ!!……おらああ!!」

溶けていない地面を足場にして接近したエルラがイグニスの死角から現れ、イグニスの顔面をかちあげる。衝撃で一歩だけ後ずさるがそれほどダメージは入っていないように見える。

イグニスは攻撃をしてきた二人を視界にいれると咆哮し、突進してくる。

ケインとエルラは左右にそれぞれ避ける。しかしそれを予期していたようにイグニスは尻尾を振り、ジルフ側に避けたケインに向けて尻尾を振るう。かろうじて戦斧を盾にしたケインだったが吹き飛ばされてしまう。

「ケイン!!大丈夫か⁉」

「なん……とか。斧は使い物にならなくなったがな。」

地面に倒れこんでいるケインの近くには戦斧の破片が散らばっている。

「ケインは少し休んでろ。アレン、エルラ一瞬でいいから奴の動きを止めろ。」

「「了解!!」」

「エルラは俺の方に奴を連れてこい。」

アレンが指示を飛ばし、イグニスの近くにいるエルラは戦鎚をイグニスの頭にぶつけてアレンの方に走っていく。

イグニスは攻撃をしてきたエルラを追いかけてアレンたちの方に体を向ける。

「ジルフ、どれくらいでいける?」

「三分もたせてくれ。」

返事は返ってこないがそれでもジルフは魔力を手足と自身の大剣に流し込む。

イグニスを引き付けたエルラは真正面にイグニスを捉える。その隣にはアレンが槍を構えている。

「ジルフの剣が通ると思うか?」

「さあな。だが俺らの最高火力はあいつの剣だ。信じるしかない。」

「そうだな。……俺から行く。」

近づいてくるイグニスは口のから火球を飛ばしてエルラを狙撃しようとするが戦鎚で撃ち落とす。

「あっちいなまったく。」

戦鎚を振り抜いた状態で立っているエルラの横をアレンが通り抜けて行く。

「はああああ!!」

槍を突き出し、目を貫こうとするがイグニスは顔を横に振ることでそれを回避する。

お返しとばかりに前足でアレンを蹴りつける。後ろに飛んで威力を軽減するがそれでも骨がきしむほどの威力がアレンに襲い掛かる。

「くっそ!!硬いうえに速いって……」

悪態をつきながらもイグニスに向かって行くアレン。アレンほどのスピードは出ないものの、重い一撃をいれていくエルラ。二人の攻撃はイグニスにダメージこそ与えないが足止めをすることは出来ていた。

「グガアアアア!!!!」

二人の波状攻撃に痺れを切らしたのか、特大の咆哮と共に二人に向けて走り出す。

口内は真っ赤に燃えており、二人は自分たちを燃やす気だと察知する。

「イグニスの攻撃後に懐に潜り込んで奴の前足をぶっ飛ばせ!エルラ!!」

「了解!!奴の気は引いといてくれよ?」

「言われるまでもない。」

アレンは槍を構えると先端に魔力を込める。魔力を込めたところでイグニスの鱗を貫通できるわけではないがそれでも火力は上がる。

先端が淡く光っている槍を携えたアレンが走り出す。それを視認したイグニスは口内をさらに真っ赤に染め上げる。

「攻撃が来るってわかってりゃあ避けるなんざ簡単なことなんだよ!!」

イグニスから今までより二回り以上大きい火球が放たれる。それをギリギリでかわしたアレンは再び目を狙って槍を突き出す。

突き出された槍は目を貫くことは無かったが、イグニスの視界からエルラを消すことには成功した。

至近距離で攻撃してくるアレンに釘付けとなっているイグニスの死角からエルラは近づき、そのまま懐に潜り込む。

潜り込まれたことに気づいたイグニスは前足で攻撃をするがそれをエルラは避ける。

「使い物にならなくしてやるよ……おらあああ!!!」

思いっきり振り上げた戦鎚はイグニスの前足を直撃する。骨が砕ける音と共にイグニスは暴れだす。

体を使ってエルラを押しつぶそうとするイグニスから削がれようと回避するが、回避が間に合わず足を挟まれてしまう。

「ぐっっ⁉」

暴れ始めると同時にイグニスから距離を取ったアレンに支障はなかったがエルラが動けないことを察知するとすぐにエルラのもとに走り出す。

所かまわず攻撃をしだしたイグニスはまさに嵐そのものだ。

イグニスの口から無造作に放たれる火球を回避しながらエルラのもとへ行き、動けなくなった彼を引きずりながら距離を取る。

「すまねえ。足をやられちまった。これじゃあ動けねえ。」

「あとは、任せてここから任せろ。それにもう十分だろうよ。」

イグニスが暴れている向こう側には魔力を溜め切ったジルフの姿があった。

「溜め込みは十分、さあいくぞ!!」

地面を思いっきり蹴ったジルフはイグニスのもとへと飛んでいく。

「うおおおおおらあああああああああああ!!!!!」

地面を蹴った勢いものせて最大の一撃をイグニスに叩きこむ。

ジルフの一撃はイグニスの強固な鱗を破壊し、内側に隠れている肉を断つ。

エルラに前足を折られた時以上の大きさの咆哮と共に自らを傷つけたジルフに襲い掛かる。

手足に魔力を流し込み、ブーストを発動させた状態のジルフは容易くそれを避ける。

攻撃を避けられたイグニスはジルフを追随するがそれを全て避けきる。

ジルフが次の手を打つとアレンたちの方を見る。

「やっぱ俺の剣じゃ斬れないか……。エルラ……は無理か。アレン、奴の目を潰せるか?」

「潰せないって言ったらお前はどうするつもりなんだ?」

「そん時は俺が潰すまでだ。」

「だろうと思ったよ。……一分でいい時間を稼いでくれ。」

「一人だってのに無茶言うぜ。」

ジルフは気合を入れ直すとイグニスと対峙する。

終焉の先の物語~The demise story~を読んでいただきありがとうございます。ブックマークもしていただけるとありがたいです。

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